114 落着と自業自得
「一方的だったな」
「私、あの人が出汁巻玉子さんと一緒にいるのを見たことあるわ」
「マジ!? あのトッププレイヤーの?」
「俺はモグラさんが世話してるのを見たことある」
「あの二人の弟子ってことか、そりゃつえーわけだ」
「誰かこいつらの知り合いいないかー?」
「ほっとけほっとけ。自業自得だろ」
「あいつら女の人に絡んで装備を脅し取ろうとしてたらしいぞ」
「うわ、さいてー」
「いい気味だな」
少し落ち着いたところで、ようやく頭が回るようになってきた。
やり過ぎてしまった気がする。
怒りに任せて大暴れしてしまったからな。
……まぁ、いいか。
死んではいないみたいだし。
俺ののんびりセカンドライフを邪魔する奴は、全部蹴散らすって決めてた筈だ。
「すてーい、すてーい」
「タマちゃん、もう大丈夫だから降ろして――!!」
ミルキーは相変わらずタマにお姫様抱っこをされている状態だった。
もしかしてずっとこのままだったのか?
じゃあさっきのタマらしき声は一体……。
「タマ、もういいぞ。ありがとな」
「はーい!」
「うぅ……恥ずかしい……」
タマに声を掛けると、元気のいい返事と同時にミルキーが解放された。
精神的なダメージが大きかったのか、顔を手で覆ったまま俯いている。
「大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です。私のせいで巻き込んでしまってすみません!」
「いや、むしろ俺が貶された時に怒ってくれてありがとね。嬉しかった」
「いえ、私は何もしてませんから……」
「下手に何かすると殺しちゃうからね。俺の我慢が足りなかっただけだよ」
ミルキーは勢いよく頭を下げて謝ってくれた。
だけど謝られるようなことは何も無い。
だからお礼を言ってうやむやにしてしまおう。
ただ謝らなくてもいいって言われても、謝りたくなってしまうものだからな。
「だけどこの状況、どうしようかな」
「どうしましょうか……」
俺が決闘をした四人は気絶したまま転がされている。
俺達三人は、そんな四人を眺めるだけで動けない。
周囲はまだ野次馬に囲まれているからだ。
議論が白熱してるのか、ほとんどが動こうとしない。
当事者なだけに放り出して帰るのも悪いような……別に悪くないな。
よし、逃げよう。
「行こうか」
「え、いいんですか?」
「いいんじゃないかな。決闘の後のことまで気にする義理なんてないし」
「……それもそうですね」
ミルキーもすぐに納得してくれた。
さっさと撤収しよう。
相棒をへし折るといいう約束だったはずだが、全員気絶してしまっているから放っておこう。
≪滅魔刃竜剣≫は範囲攻撃だから、決闘に持ち込んでいないとかじゃなければ砕け散ってると思うし。
野次馬にどいてもらうようお願いしたら、普通に通してくれた。
門を通って街の中へ戻ると、何故かモグラとゴロウがいた。
「おはー、さっきの観てたよ。凄かったね」
「どもども」
「にゃあ」
「あれ、モグラさんにゴロウさん」
「やっほー! にゃーこさんもにゃっほー!」
「にゃあ」
「こんにちは」
モグラ達もこの辺りで狩りに行く準備をしていたら、騒ぎに気付いて見に来たそうだ。
あの短時間で四人の悪い噂を集めて、野次馬達にばら撒いたりもしていたらしい。
なんて手際のいい。
ゴロウは相変わらずのマイペースさで、決闘を眺めてただけのようだけど。
「だってさ、ミルキーさんが困ってたのもあいつらでしょ? ああいうコソコソ動く奴は、同じように陰口叩かれて痛い目見たらいいんだよ」
とのことだった。
俺に決闘でぼこぼこにされて悪い噂も流されて、これから苦労しそうだ。
だけど全部自分で撒いた種だから仕方ないな。
「それじゃあ俺達はパーティーメンバー待たせてるから行くね。明日の狩り、楽しみにしてるよ」
「それじゃあまた明日ー」
「にゃあ」
「ありがとうございました」
「またねー!」
モグラとゴロウは狩りに行くメンバーを待たせていたらしく、急ぎ気味に去って行った。
俺のことを心配していてくれたようだ。
有難いけどちょっと申し訳ないな。明日はしっかり稼いでもらおう。
予定通り露店を見て周ることにした。
あの連中のせいで予定を変えるのは嫌だったからな。
その途中、ミルキーが教えてくれた。
さっきの奴、ミナモは以前ミルキーが話していた元フレンドだった。
最初は普通だったが段々と装備を羨ましがり、遂には難癖をつけて装備を要求するようになった。
臨時広場と呼ばれる、臨時のパーティーを組む場所でも割と顔が広かったミナモは、他のメンバーも巻き込んでミルキーに絡んできたらしい。
フレンドを登録を解除したら悪い噂を流して、というのも以前聞いた通りだ。
だけど今日の決闘の様子と、モグラが流した噂で今度はミナモが肩身の狭い思いをする番だ。
人のことを悪く言うのは趣味じゃないけど、いい気味だ。
すっきりした気分だし、このまま忘れてしまおう。
「あれだけ痛い目みたらもう関わってこないと思うよ。それに、ミルキーは俺とパーティー組んでるんだし、臨時広場なんて行かなくても大丈夫だよ。忘れてしまって露店巡り楽しもう?」
「タマも、タマもいるよ!」
「ふふっ、そうですね。ナガマサさんが思い切りやっつけてくれたおかげですっきりしましたし、楽しみましょう! タマちゃんも、ありがとね」
「わーい!」
「何か掘り出し物があるといいね」
「ですねー。気分がいいので、SPを消費したらざらざらする棒でも買っちゃいそうです」
「あれはいらないなぁ」
強引だった気がするけど、ミルキーも話題転換に乗ってくれた。
せっかくの第二の人生、楽しまないとね。