111 言いがかりと威圧
本日八回目の更新です。
「こんにちは」
「やっほーミルキー!」
「こんにちは。タマちゃんもこんにちは」
「わー!」
待ち合わせ場所は街の中央にある噴水だ。
12時まであと10分程あるが、ミルキーさんが到着した。
タマが撫でられて嬉しそうな声をあげている。
「とりあえずご飯食べに行こう。それでこの後どうするかの相談だね」
「はい」
「ごっはんー、ごっはんー!」
三人で向かったのはいつかの酒場。
お昼は食堂のような雰囲気で営業しているらしいからここにした。
じっくり話すなら、しっかり座れる場所の方が楽だろう。
中世風の適当な料理を食べながら話し合った結果、今日はのんびりしてもいいんじゃないかという結論に至った。
昨日がっつり狩りをしたからな。疲れがまだ尾を引いているようだ。
疲れてる時は休むのが一番。
本当にお金も余裕もないなら兎も角、無理はするものじゃない。
のんびりすると一口に言っても何をするか。
それも話し合った。
釣りとかも良いかと思ったけど、海も川も近くにない。
結局、露店巡りをして掘り出し物を見つけようということになった。
さっきも見てたけど、露店の数は多い。
タイミングによって入れ替わりが激しいから、短時間で全てを網羅するのは難しい程だ。
だから十分楽しく見て周れるだろう。
何か珍しいものがあれば買いたいし。
食事を終えた俺達は一旦南門まで向かう。
街を南から北へ真っ直ぐ伸びる大通り。
ここが露店のメインストリートでもある。
これを南から順に見て行こうという作戦だ。
露店は道の両側に並んでるから、往復する予定だ。
「あれ? ミルキーさんじゃないですか」
「あ……どうも」
南門の手前まで来たところで突然声を掛けられた。
神官のような格好をした、見知らぬ女性プレイヤーだ。
名前は≪ミナモ≫。
ミルキーのことを知っているらしい。
「知り合い?」
「ええ、ちょっと……」
ミルキーが微妙な表情を浮かべている気がして聞いてみたが、珍しく歯切れが悪い。
「最近見ないからどうしたのかなって心配してたんですよー。これから狩りなんですけど、良かったら一緒に来ませんか?」
「っ……!」
ミナモが狩りのお誘いをしたところで何かが吹っ切れたのか、ミルキーの背筋が伸びた。
背中から謎の迫力を感じる。
「私は固定パーティーを組んだので大丈夫です」
「固定パーティーって、その人とですか?」
「そうですけど?」
ミルキーの言葉にさっきまでの困った感じは無い。
むしろ威圧感が滲み出ている。
一体何がどうなってるんだ。
ミナモの視線が一瞬こっちを向いて、ミルキーへ戻された。
何か半笑いなのがちょっとムカつく。
「ミルキーさんやその子は凄い装備なのに、その人だけすごく弱そうな装備だし、止めといた方がいいんじゃないんですか? そんなダサい人やめてウチらと組みましょうよ」
「ナガマサさんはダサくありません! 貴方たちみたいな人と組みたくありません! 結構です!」
「な、なっ――!?」
「おおう」
余りにも馬鹿にしたような発言に、言い返せなかった。そんな暇無かった。
ミルキーが代わりに爆発してくれたからだ。
周囲の視線は集まってるけど、ミルキーが怒ってくれたことが嬉しかった。
ミナモも面と向かって怒鳴られるとは思っていなかったのか、固まってるな。
何かを言おうとしてるけど出てこないって感じで、口だけパカパカしてる。
あ、復活した。
「ちょっと、ウチはミルキーさんのことを心配して言っただけなのに、そんな言い方ないんじゃないんですか!?」
「どうしたどうした?」
「あ、ちょっと聞いてよー」
端の方から三人程寄ってきた。
男二と女一、全員プレイヤーのようだ。
戦士っぽいのと剣士っぽいの、後は杖を持った魔法使いっぽいの。
パーティーメンバーだろうか?
ミナモが何かを必死に説明している。関わると面倒臭そうだ。
ミルキーはそいつらの方をじっと睨んでいて動こうとしていない。
何かあったのか?
とりあえず離れよう。
「ミルキー、行こう」
「でもあいつらがナガマサさんのことを――!」
「いいからいいから」
「ちょっとちょっと、どこ行くんすかー?」
「あー……」
さっさと離れようと思ったら先に絡まれてしまった。
こうなるとしつこく粘着されそうだな。
逃げようと思えば逃げられるし、様子を見るか。
俺達の逃げ道を塞ぐように近寄ってきたのは男二人。
名前は≪野草≫と≪ゆーじ≫。
野草はフルアーマーで、ヤンキーみたいな顔は丸出しだ。
剣士っぽい方がゆーじ。スピード重視なのか、装備は一部分しか守っていない。
「ミナモさんは心配してくれただけなのに、キレるってどういうことなんすかー?」
「失礼だと思いませんか? どうなんですか?」
二人の男性プレイヤーはミルキーを責めるように近づいてくる。
何かイライラしてきた。
「すみません、とりあえず威圧するのやめてもらえますか?」
「ミルキーの敵? ということはタマの敵だよね?」
「待って待って、タマは手を出さないように」
冷静に、冷静に。
タマも飛び出していかないように抑えないと。
俺のお願いにミナモのテンションに火がついてしまう。
「はぁ? 威圧してきたのそっちなんですけどぉ!? ウチはミルキーさんのこと心配しただけなのに」
「大きなお世話です!」
「ミルキーも落ち着いて……」
ミルキーも相当頭に血が上っているようだ。
そういえばこの子、悪いと思ったことにははっきり言う娘だったな。
なんとか場を宥めようと思ったが遅かった。
ミナモの被害者ぶった顔が絶好調だ。
「酷い!」
「お前ちょっとオモテ出ろよ! 痛い目見せてやるからよぉ!」
「いくらなんでも失礼過ぎますよ」
「あのー、先に彼女の方が俺のことを貶してですね、それでミルキーがつい怒ってしまったというか」
「だからそれはミルキーさんのことを心配しただけだって言ってるじゃないですか!」
「ええー……」
「ミナモさんはこう言ってるんすけどぉ!?」
「どう考えてもそちらに非がありますよね。謝ってください」
ダメだ、話が通じない。
俺が説明してもミナモが騒いで、このバカ二人はそれしか聞いてない。
俺もイライラしてきたし、この状況どうしよう。