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42 αとβとΓ時々魔獣

「ルイス様、少し宜しいかしら?」


「はい」?



風紀の業務を終え寮に戻ろうとしていたジュリアンヌは突然フォルテに呼び止めれた。




「どうぞ入って」


「失礼致します」





フォルテの表情は少し固くいつもの美しい微笑は影を潜めていた。


沈黙が続きジュリアンヌがいよいよ不安になってきた頃、フォルテが静かに話始めた。


「……ルイス様はグレイス様にとても信頼されているようね。一回生だと言うのにとても素晴らしいことだわ」


「お褒めに預かり光栄です。愚鈍な私めにこのような機会を与えて下さったグレイス様には言葉も御座いませんわ」


「そうね……とても素晴らしい御方だわ」


「はい」?




「では…………


ルイス様は…その…グレイス様の婚約者なのですか?!」




……はい?



「い、いえ。そのような縁談は全くありません」


「そ、そうなのね!でしたら……本当に優秀でいらっしゃるのね。期待していますわ」


「ご期待に沿えるよう邁進致します」


「困ったことにグレイス様目当てで風紀に入ってくる者もいるの……だから……悪いのだけれど確認させて貰ったわ」


「そうなのですね。承知しました」


「だって、あんなに素敵な人を見たことがある……?!艶やかな髪に少し長めの前髪から見える切れ長の瞳……そして品の良い鼻と薄い唇…!!!本当に…素敵だわ………!


………失礼しました。

ではもう一つだけ宜しいかしら?

入ったばかりの貴女は知らないだろうけど風紀には暗黙の掟があるの。それは、『委員長への恋慕を持つべからず』というものよ。風紀委員はマイジーアの風紀を守る為のものであって、決してグレイス様の為に職務を全うすることはあってはならないの。


これは代々先輩方が守られてきた掟…………代々の委員長様方も……それはそれは美麗で聡明な方達だったのよ………私達のようなうら若き乙女には辛過ぎる掟よね…………」


「フォルテ様…」


「…お時間を取らせてしまってごめんなさい。風紀委員としての矜持を常に持ち生徒達の鏡となるような振る舞いを心掛けて下さい。さぁ共に頑張りましょう」


「はい。微力ながら、尽力させて頂きます」




………いや、結局ノロケと牽制!

緊張して損した!


どうやらグレイスが女子風紀委員達の憧れの的らしいことは解った。


不用意にグレイスに近付かないようにしよう。

ジュリアンヌはそう自決した。





『…風紀委員に告ぐ!課外活動棟で生徒同士の乱闘が発生!至急応援を頼む!』






「課外活動棟ですわ!きっとトゥリヴィスタの準備をしていた生徒達ね……私達も応援に行きましょう!」


「はい…!」








**



「……お前らが先に仕掛けてきたんだろう!」 


「はぁ?!お前らが先だろうが!」


「平民の癖に偉そうに…………!!」


「親のお蔭でαな癖に偉そうにすんな!!」


フォルテとジュリアンヌが課外活動棟に到着した時には既に数名の風紀委員が駆けつけていた。


彼らは怒れる生徒達をなだめようと奮闘しているようだが一向に収まる気配がない。

そればかりか生徒同士のいがみ合いがヒートアップし魔法を繰り出さんと魔力を活性化し始めていた。



「皆様そこまでです!魔法をお納めください」



「フォ、フォルテ様!!」


「え?!フォルテ様?!」


「あぁ………今日もなんとお美しい……」


「『正義の女神』様が舞い降りた…!」


「皆様落ち着いて下さいませ。もしここで怪我人でも出ようものならば来月に控えたトゥリヴィスタが中止になってしまう恐れがあります。


せっかくここまで準備を進めてこられたのです……どうかいつものような冷静さを取り戻して下さいませ」



「そうだよな……」


「俺達せっかくここまで準備してきたんだもんな…」


「悪かったなお前ら……」


「いや。俺達の方こそ……」



「……お解り頂けたようで幸いです。さすがはマイジーアの誇り高き生徒の皆様ですわ。


どうか皆様の頑張りをトゥリヴィスタにていかんなく発揮して下さい。共に素晴らしいトゥリヴィスタに致しましょう」



「「「はい!フォルテ様!」」」






「フォルテ様本当に素敵だわ……。魔法も使わずに乱闘騒ぎを収めてしまったもの……!」


「本当に素晴らしい御方だ!俺達も見習わなくてはいけない!」



いがみ合いをやめ生徒達が持ち場に戻って行く様子を穏やかに見守るフォルテとその睦まじい光景の立役者を称賛する観客とを少し離れたところからジュリアンヌは眺めていた。



闘わずして収まるのならそれに越したことはない。


先程までノロケ倒していたフォルテが副委員長補佐である理由が少しだけ解った気がした。












「……ご苦労だったフォルテ」



「有難う御座いますグレイス様。皆様がご無事で何よりでした。暴力は暴力を生みますもの……真摯に話し合えばきっと解ってくださいますから」



「フォルテ様なくしてあの場を収めるのは至難だったよ……」


「ええ、本当に。荒々しい雰囲気が一瞬で収まったもの」



「極力魔法での制圧は避けたい。さすがはフォルテだな。


…………しかし混乱が極めた時はなるべく速やかに対処して貰いたいが…」



「……」


グレイスの最後の呟きが皆に聞こえたのかは定かではない。


しかし、ジュリアンヌの耳にはしっかりと届いていた。




『君もそう思うだろう?』

とでも言わんばかりのグレイスと目が合う。




ジュリアンヌはそっと一礼をし風紀棟を後にした。




(解ってますって~

そうゆう力業は私の役目ですもんね)






******







「ジョアン様。捏ね具合はこれで良いですか?」


「俺のはどうですか?!」


「ええ、二人共十分だわ!」



ところ変わりまして、私達は今トゥリヴィスタで販売するパンの試作品を作っております。

因みにアルト君も一緒です。『師匠と一緒にしよっかな~』だって。ちょおかわいくね?!(ニマニマ)



てかね、こねこね超楽しい叩きつけて空気抜く作業も「パァン!」って音鳴るし爽快で楽しいでもさっきジョアン先輩に『貴女達さっきからパンパンパンパンやり過ぎだからあぁもうやり過ぎるとパンが乾燥するからぁぁぁあぁ!!』って叱られましたいやもうほんとさっせんしたうちのアルトが!←



「パンは貴族平民に関わらずとても人気なの。つまり……私達10班がβ寮を背負っていると言っても過言ではないわ!

……でも…なんか、こう……奇抜な案はないかしら?これでは美味しいけど…美味しいだけの至って普通のパンだわ!私がこの程度で満足できる訳ないじゃない……!!」



…ジョアン先輩のパンに対する情熱がやべぇんだなこれが☆


「…生地に果物や木の実を混ぜたりするというのはどうですか?あとは…………クロワッサンと「え?!『くろわっさん』?!それは何?!」←


「ク、クロワッサンというのは生地の間にバターを挟むという工程を繰り返して焼き上げるパンです。サクサクとした触感とバターの風味が最高で…」


「……なっ、何て……ことなの…?!そんなパン……初めて聞いたわ……!!作ってみましょう……『くろわっさん』を……!!!」



「師匠は知識もすげーんだなー!!」(キラキラ)


「はは…」







「……お、美味しい………!!…これを考えた方はなんという発想力なの……?!是非これを商品化しましょう……!!!


じゃあ次は生地に果実を練りこむ『かしぱん』よ!!

ジュリアンヌさんとアルトさんはマイジーアの森で果実の調達をお願いします!森の果実はタダだから遠慮せずに沢山お願いね。頼みましたよ…?!」


「「は、はい!」」












……という訳で、私とアルトはマイジーアの森にやって来ました。ジョアン先輩のパァァン圧が半端なかったです果物をたくさんもってかえります。がんばります。byジュリアンヌ



『ポチ!』


『主なあに~?』


「俺も俺も!『グリフォン(契約魔獣)』」

『主なんすかー?』




『ポチ、果物ってどこにあるか解る?』


『え、いきなり~?!

えっと…えっと………………あっちから匂いがするよ~!』


『グリフォン、お前はどう?!』


『解んないっす……自分鼻悪いんす……』


『えぇぇぇぇぇぇ……!!』



項垂れるアルトを励ましつつジュリアンヌ達はグリフォンの背中へ乗る。


ポチ曰く北の方から甘い香りがするらしいので取り敢えず北上してみることに。







⎯⎯グリフォンに揺られること10分⎯⎯



『わ、甘いにおいがすごい~』


「「?」」




ケルベロスが思わず鼻を押さえているがジュリアンヌ達には解らない。


2人は身を乗り出し地上を見つめる。



「……あった!」


「え、どこどこ?」モリジャネ?


「ほら師匠、あそこの丘の上!」アルジャン!


「?……【視覚強化】……


…あ……ホントだ……!さすが千里眼!」


「へへっ!!」




アルトが指差した先には驚くほど広大な葡萄畑が広がっていた。


思わず2人はハイタッチを交わす。






『ポチあったよ!有難う大好き!』キャッキャッ


『ボクも主すき~!』ワッフ



「さすが師匠の契約魔獣だぜ!!」

『せんぱいさすがっす!』


「じゃ、私とポチは右側から攻めるわ」


「俺達は左から攻めるぜ!」











「__大豊作!!」


二人の背負子は瑞々しい葡萄で満杯になった。

入りきらない分はジュリアンヌのアイテムボックスにしまって保管することに。






『あ、この葡萄美味しい!』


『うん!』ワッフ



ポチ……



頭三つなのに…何でそんなに可愛いの…(キュン)



『そう言えばポチは何が好物なの?』


『ん~……牛?』



う、し、!!



『モーちゃん食べたらダメだよ……?』グロイ..


『?モーくんは牛じゃないよ~?』



それもそうか←




「…ん?」




間も無く森を抜けようとした時、ジュリアンヌの感知が反応した。



その数、4人。

ステータス的に学園の生徒に違いなかったのだが

ジュリアンヌにはどうにも気になることがあった。


ジュリアンヌはグリフォンから降り、茂みに隠れ様子を探る。





「___早くしてくれないかイザナ?これではトゥリヴィスタの準備に間に合わないな……」


「も、申し訳ありません!直ぐに……!」


「本当にイザナはとろくて困るわ。ルヴェルが何故あなたを解雇しないのか……理解に苦しむわ…………」


「そう言ってやるな。イザナはイザナなりに努力して『これ』なんだ。

というか、ノア様のご意向とは言え何故俺達が舞台用の草木を採取しなければならない?例年通り商人か従者にやらせれば良いだろうに……」



『イザナ』と呼ばれる少年が風魔法で木を数本浮かせながら前を行く『手ぶら』の青年たちに続いて歩いていた。


イザナ以外の者は涼しい顔で歩いておりイザナを手伝う気は微塵も感じられない。





「……アルト先に学園へ帰ってて。私は()()を見過ごせない」



「アイツら……死んだな…」



「私を何だと思っているの…?葡萄は頼んだ」


「師匠ぉぉ…程ほどになぁぁぁぁ……!!!」













「__私も手伝いましょうか?」





「「「!!」」」



「突然声を掛けてすみません。

少し重そうにしていらしたので……良かったらお手伝いをさせて下さいませ」


「…誰かな君は?」


「……あら、いいじゃないルヴェル。せっかく手伝って下さると言うのだから手伝ってもらいましょうよ」


「だが………いつの間に接近したと言うのだ……?」




「まあ、そうだね。君はお金が欲しいのかい?それとも僕の従者になりたいのかな?」


「どちらでもありませんわ、ルヴェル様。

イザナ様。どうぞお手伝いさせて下さいませ」


「え……………」


「別に構いはしないわイザナ。ただ……そうね。『力自慢』の方のようですから、もう少しだけ木を増やしても宜しいかしら?」


「構いませんわ」


「……ほう?だったら…!!【切断】!!」




ドオオオオンッ‼‼‼





「……なら、あれらの木も追加して貰おうか?」


「解りました」



「本当に力持ちなんだねぇ。ならもう少し持ってきて貰おうかな?【ザウエル】!!」






ジュリアンヌの平然とした態度が殊更気に触ったらしい。苛立ちをありありと呈したルヴェルは先程の男子生徒よりも強力なを魔法を放った。


轟音が鳴り響くと同時に辺り一面が()()()()()()



『自分に歯向かえばこうなる』


そう、言っているのか。



「じゃあ宜しくね。僕たちは別の仕事があるから先に学園に戻っているよ」









「……む、無理ですって……あんなに大量の木を運ぶなんて……!!というか、貴女様自身の身が危険です!あのパーバトン=ルヴェル様にたてついてしまったのですよ……?!」



「私はパーバトン家を存じ上げませんし、家柄は関係ありません。彼等の行いは目に余ります」



「な…っ…何て畏れ多いことを……?!」


「とりあえず学園に戻りましょう。辺りが暗くなって参りました」


「…あぁ………僕は……どうすれば…?」




「【古代魔法➤分解】【浮遊】」



サァァァァァ…___




「……えっ……なんで急に砂塵が……あれ?木」

「さあ行きましょうイザナ様。もうすぐ門限になってしまいます」


「え、あ、はい……!」














「__あれ?ジュリアンヌが何でここにいんの?」


「やあ、ジュリアンヌ」



「(えーーーーーーー??!!ラファエル殿下とライオット様ーーー?!)」


「御機嫌麗しゅう殿下。

舞台の準備は進んでいるの?エリオス」


「いや全然?木が足りないんだと。とっとと取ってくりゃ良いのに誰が行くとか行かねーとかで全然進まねーんだよ。

ホントαって頭悪い奴多いよな」←


「まぁ正論だね」←



「そうなのね。じゃあこれで少しは進むと思うわ。


【古代魔法➤統合】」



途端、宙を舞っていった大量の砂塵がその場に集約する。そしてその砂塵は急速に結合し始めあっという間に幾百本の木へと姿を変えた。




「これはまた……凄いね君は…」


「お前はホント何でもアリだな……つーか何でαの手伝いしてくれんの?」


「偶然ね。じゃあ後は宜しくね、エリオス」


「おう、サンキューな!」





「イザナ様。勝手な真似をしてしまい申し訳ありませんでした。いつでも風紀委員にご相談下さいませ。

私は風紀委員のルイス=ジュリアンヌと申します」


「え、ふ、風紀……?!ルイス…………ジュリアンヌ様……?!


あっ、あのっ、お礼を…!!」


「お礼?アイツはそんなもんいらないと思いますよー?誰だか知らないけど先輩も有難うなー!」


「い、いえ…僕は……」



「君はパーバトン家の使用人だよね?


…もし主人が彼女に対して()()()()()()()()()()()()全力で止めた方が良いよ」


「しょ、承知致しました殿下……!!」




イザナは今までルヴェルこそが一番強い魔導士だと思っていた。どんな酷い扱いを受けても耐え抜いて、ルヴェルの魔法を習得していけば自分の夢である冒険者になれると。それだけは信じていた。



しかし今日その方程式が覆されてしまった。



風のように現れ風のように去っていった気高い魔導士を思い出し、イザナの心と体が震えるのであった。


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