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36 壁をすり抜けてみた

「そういえば、私風紀委員に入りました」




今ヴォルグ師匠の部屋(寮長棟)で、リュカ君とロレンツィオと一緒に晩御飯ご馳走になってる。『自分で飯作らんのかい!』という突っ込みは受け付けておりません。よし明日からガンバるぞ。




「……え?!それは平凡学園生活からの大どんでん返しですね!暗殺の修行でもしたくなったんですか?」


「…ジュリアンヌ様、もしやレイドに何か言われましたか?」


「風紀委員とは何だ、ですか?」(丁寧語練習中)


「風紀委員というのはアレね、騎士団みたいなものよ。

風紀入りは…偶然、かな?委員長に誘って頂いたことはきっかけではあるけれど。


……ところで

『ロレンツィオはルイス家の隠者であって、あの出来事はジュリアンヌの自作自演の名売り行為』という噂が流れるって本当なのかしら?」


「あー……遂にお嬢様の耳に入っちゃいましたかぁ…」


「……はい。御伝えせず申し訳ありませんでした。全く、くだらない噂を信じる輩がいるなど、ジャスティシアも落ちたものです」


「なんでっ…だ、それは?!それでは我がわざと小娘に負けたみたいではないかーー!!」


「やっぱり本当なのね。まぁしょうがないわ、私やロレンツィオのことを知らないんですもの」


「お嬢様はこんなに小さいのに…なんと言う器の広さなのだろう?!下らないことを言う輩共に見せつけてやりたいー!」





「…ともかく、レイドは少し強引なところがあるので……お嬢様がなさりたくないことを引き受ける必要はないですよ?」


「そんなことはないわリュカ。風紀で学べることが沢山あると思うし」


「なら良いのですが……風紀に嫌気がさしたらすぐに生徒会へいらして下さい。いつでもお待ちしております」


「フフ……生徒会なんて私には無理だわ」


「お嬢様に成せない事などあるわけが御座いません」


「はいリュカストップゥゥ!!

……でも大丈夫ですか?風紀委員はかなり多忙ですから冒険者として活動する時間は削られちゃいますよー?」


「……フフ。甘いですわ師匠。私は一人じゃないもの…………ね?ポチ、モーちゃん!」


ポ『主~!』


モ『主ー!』


「必要とあらばドラゴン達も召喚するつもりよ。だって”契約魔獣を手伝わせてはいけない”なんて……私聞いてませんから」


「さすがお嬢様……!!手抜きのレベルがぶっ飛んでるー!!」


「フフ……それは名案ですね。レイドが驚く顔が目に浮かびます」


「使役魔獣を使うなど当然であろう!何なら【古代魔法】も使えば良いのだ!あいつらは()()()()()()


「あ、それいただきロレンツィオ」


「小娘やっと我の偉大さがわ…お解りになったんだな!」(丁寧語練習中)









***





「……という訳で委員長。この子達は私の契約魔獣ですので以後お見知りおきをお願い致します」


ポチ(ケルベロス)『主この人だれ~?』


モーちゃん(ミノタウロス)『ここどこー?』


ベーくん(ベヒモス)『……主』

ベヒモスくんは普段はとても温厚な草食系魔獣です。



「…………なんともまぁ……桁違いの発想だな………まあ良い、許可しよう」


「有難う御座います。あと使えそうな魔法は【古代魔法】と【時空】でしょうか。委員長は神力をお持ちなので『念話』も可能です」


「やはり凄いな君は…君だけで風紀委員100人分の仕事が出来そうな気がするよ。あと相談なのだが…副委員長のジェノス、次期風紀委員長になる者なのだが、彼には契約魔獣の存在などを伝えてやってはくれないか…?」


「次期風紀委員長様でございますね、承知しました」











「……ジュリアンヌと風紀委員の仕事が出来ると思わなかったよ!ジュリアンヌがいれば千人力だもん!

…でも、何かあったの?『風紀?時間長そうだしなぁ…』って言ってたよね…??」


「あ、うん…まぁちょっと色々あってね…!とりあえず宜しくステファ」


「うん!風紀の仕事はその名の通り、基本的には風紀の取締りだね」


「因みに今のマイジーアって風紀が乱れているの?」


「以前よりは落ち着いたらしいよ。それに、レイド様が風紀委員長になった2年前から特に平和だって、先輩方は言ってるね」


「そうなんだ…」


「でもやっぱり小さいもめ事は絶えないかな……αがβやγを苛めるとか、βがγを苛めるとか…なかなか根絶は出来ないよね…」


「なるほどね……というか、βやγの風紀委員がαを捕まえようものならαの生徒がもの凄く怒りそうだけど、そういう柵みたいなのは大丈夫なの?」


「それは大丈夫!レイド様が『風紀を乱した者に階位等関係ある訳がないだろう』と公言していらっしゃるし、理事長も同じお考えだから!」


「それは良かったわ。…さ、とことん取り締まってやろうじゃないの…」


「ジュリアンヌ………お手柔らかにね…?!」







学園の自治は基本生徒に任されている。生徒同士のことは自分達でどうにかしろ、という素晴らしいお考えだ。

とはいえ、外部からの侵入や学園外、夜間や休日の見回りに関しては学園側が雇った()()()衛兵が行っている。



そして、学園の自治の中核が生徒会と風紀委員だ。生徒会は6名、各委員会のまとめ役的な立ち位置だが、実質は生徒のトップ集団。対して風紀は学園の公序良俗を守る組織。風紀委員は全部で30名、見回り場は学習棟、訓練棟、課外活動棟、中庭、校庭、つまり、教職棟以外の全てとなる。







「私達の今日の分担は学習棟の見回りだよ!」


「解ったわ」



学習棟は1回生から6回生までの各3クラス(α、β、γ)ある。これだけで単純に18部屋。あとは図書館、資料室やら実験室なるものも存在するので、そんなこんなで30部屋もある。さすが王立魔法学園。




「…ねぇ、ステファ。【感知】で学習棟全体を監視すれば良いかな?」


「え、凄い…!!そんなに感知広げられるの…?!」


「うん。何処に人が居て、波力…魔力とかの波動が()()()()()くらいなら解ると思う」


「さすがジュリアンヌ………桁違いの精度ね……!!」








ジュリアンヌは自分の頭の中の情報をステファと共有する為に学習棟見取り図を使って説明することにした。ステファによると普段は【感知】や【感覚強化】をしながら地道に見回りをしているようだ。


ジュリアンヌの場合は【テレポート】が出来るし、自分の寮の部屋からでも、はてはマイジーアの森からでも監視が可能だが……ステファにはまだそれは内緒にしておくことにした。地道に頑張ってる人をバカにする気は微塵もないが、向こうがどう感じるかが不安だった。

もし自分が逆の立場だったらレベルが違い過ぎてムカつくと思う。絶対に悔しいだろう。






「…………どう?ジュリアンヌ……」


「……三階資料室1が怪しいかな」



「怪しいと思ったら即行動!さぁ行こうジュリアンヌ!」


「了解、ステファ」










**



「何も見えないけど声はするね……」


「ええ…」




2人は三階資料室前に到着した。

内側から【防音】を掛けているようで、生身の状態だと何も聞こえない。これでは他の生徒に気付かれないだろう。なのでジュリアンヌは取り合えず【防音】を解除してみることにした。




「…………貴女自分の容姿が少し整っているからって調子にのっているのではなくて?!」


「ノア様という方がいながらレイド様に近付くなんて!」


「それだけじゃ物足りずリュカ様にまで色目を使うなんて……本当に信じられない!!」





「皆様誤解です。私は色目を使うだなんて、致しておりません」







………



…………




……つーか、






うちのミランダ姉さんが被害者かよォォォ……!!!!!


お忘れの方もいらっしゃると思いますが、ミランダ姉さんはルイス家の次女で第二王子殿下ノア様の婚約者です。もちろん超絶可愛いですよ私と違って。







「鍵が掛かってる…ジュリアンヌ、どうする?壊す?」


「そうね…じゃあ、こういうのはどうかな?」









 …コンコン⎯



「まずいわ人が来た…?!【防音】している筈なのに…」

「……別にお話してるだけじゃない。構いはしないわよ」

「……そうよ!私達は()()お話してるだけだわ!」


「…私そろそろ生徒会室に戻らなければいけません。お話はまた今度にして頂けますでしょうか…?」


「……は?!アンタ自分の立場解って………………!!」






「そこまでです」




「「「??!!」」」








「皆様は私と一緒に風紀棟に来て頂きます」




「「「………………なっ……?!」」」



「え…………?ジュリアンヌ……………?」



 __ガラガラガラ!!!



「風紀委員です!マイジーア風紀取締り条例に違反しましたのでご同行願います!……ささ、ミランダ様こちらへ!」



「ミランダお姉様遅くなって申し訳ありません。私が来たからにはもう大丈夫ですのでご安心下さい」


「ジュリアンヌ……貴女一体どうやって……?」





「ミランダの妹…?!じゃあ”ルイス家”なのね!だったらこんなことが出来ても不思議ではないわね…」


「ねえもう止めましょうよ?ルイス家に適う筈ないわ……」


「そうよ…だってどうやってここに入ったというの?!扉だって鍵が掛かってた筈なのに…」




「では、風紀棟に来て頂けますね」



「…何なのよアンタ偉そうに!!ミランダ共々痛い目を見れば良いのよ!!


くらいなさいッ【火焔砲】!!!」



「あっ!!」


「ちょっと?!」







   「【(消滅)】」







「………………は?私の魔法が………消えた……?」


「……え?この子……レベル50なのよ……?」




()()()()()使()()()()()としてお連れします」



「アンタさえ来なければ…ミランダに痛い目をみせてやれたのに…!!」



「……もう…やめましょう」






「ジュリアンヌ……」


「ルイス=ミランダ様。申し訳ありませんが私と一緒に風紀棟へ来て頂けますでしょうか…?」


「えぇ、それは勿論……」




ジュリアンヌは……本当に…




「ミランダ様…?」


「……ご免なさい。参りましょうか」







****




「お見事、というより他ないな」



「ジュリアンヌ!あなたって子は本当に格好良いんだから!」


「ステファがいてこその作戦よ。委員長、ご令嬢たちはどうなりましたか?」





「あぁ、三人共自供した。何より、ミランダ孃が無傷だったことが幸いだ」




「ジュリアンヌ助けてくれて有難う。お父様から貴女は既にとても素晴らしい魔道士なのだと聞いていたのだけれど…本当に驚いたわ」


「有難う御座います。しかし、お姉様が御無事だったことが何よりです。


それよりもお姉様、ああいった方は他にもいらっしゃるのですか…?」


「…そうね。()()()ああいったことがあるわ」


「……やはりミランダ嬢には護衛をつけた方が良いと思うのだが…」


「そうして頂けると助かります。委員長」


「申し訳ないわ護衛だなんて。只でさえ風紀委員は多忙なのですから」


「御姉様。何かあってからでは遅いですしノア様も心配なさります。差し出がましいとは思いますが……ノア様に御相談なさるか委員長の進言を受け入れるか…どちらかが宜しいかと存じます」


「……そうね、ジュリアンヌ…。


では………ノア様に相談してみます」










「……姉妹でこうも違うんですね…驚きました…」


「上流貴族の御令嬢の鏡のような人だからなミランダ孃は。最低限の学識と最低限の魔法を学びつつ、後は貴族令嬢としての立ち振る舞いを学ぶことが一般的だ」


「貴族令嬢様も大変ですね…」



「しかし、ミランダお姉様は何故ノア様に相談しなかったのでしょう。仲は宜しいと聞いていたのですが…」


「恐らく、ノア様に心配を掛けたくないのと、加害者のことを憂いているのだろうな」


「お優しいですね…」


「…まぁ、全てを()()()片付けてしまう上流貴族令嬢も知っているがな」


「そうなんですか?なんだかジュリアンヌみたいですね!」


「………」


誰かな?

きっとゴリラみたいな女なんだろうなぁ(遠い目)






***



「お嬢様。ミランダ様から聞きましたよ。お見事で御座います」


「部屋ごと壊してしまえば良いではないか回りくどい!」


「しかしさすがですね~!気付かれずに密室に侵入するだなんて……気付いたらお嬢様が部屋にいた……考えただけで背筋が凍りますね…………!!」


「あのねぇロレンツィオ。そんなことしたら1日でクビどころか退学だわ。いえ、特段難しいことじゃなかったですよ。念のためステファに注意を引き付けて貰ってから、ドアは【古代魔法▶分解】して、同時に【闇魔法▶闇化】で侵入可能でした。あとは私が内側から普通に鍵を開けてステファが入ってくる、という感じです。


…そうだ、出来たらリュカもミランダ姉様を見守ってくれると嬉しいわ」


「気が付かずに申し訳ありません。お任せ下さいませ」


「有難う、宜しくねリュカ」







……ちょっとだけ羨ましいなぁ…

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