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Coração da máquina  作者: ヤマ
Coração humano
5/16

story:5 過去を見て君を見ていた

 ――。

 朝が来た。

 今日は夢を見なかった。

 あの夢はつい昨日。

 続きを描こうとした。

 だからなのだろうか。

 いざ見なくなってしまうと、なんだか少し物悲しい気持ちがこみ上げる。

 ティアモも、夢を見ているのだろうか。

 どんな夢を見ているのだろうか。

 ――そこに僕はいるのだろうか。

 ティアモはどこだろう?

 同じ部屋にいたはずだ。

 もしかして――。

 そうかもしれないと僕は体が勝手に動いていた。

 書庫へと向かう。

 ――やっぱり。

 そこにティアモはいた。

 本と向き合っていて、目をつむっている少女がいた。

 可愛らしくよだれも垂らして。

 昔を思い出してしまう。

 まだこの手が、何か握れているときに握りしめていたはずのものが、いつの間にか離れていたことに気付いた日を思い出してしまって。

 少し目じりが熱くなる。

 ダメだな、僕は。

 ティアモの前では、過去しか考えていない。

 ティアモは未来に向かっているというのに。

 さあ、ティアモを起こしてやらなければ。


「ティアモ。朝だよ」


 肩を持って揺らしてやる。髪が揺れる。綺麗に、鮮明に。

 この部屋から見えるはずのない太陽が差しているかのように、白い髪が揺れる。

 起こしながら公表するのもあれなのだが、ティアモは――ある一人の女性をモチーフにしている。

 理由は、僕の人生に大きく関わっているからだ。

 その人がいなければ僕は――ここにいなかったかもしれない。

 今その人がいたなら――ティアモはいなかったかもしれない。そんな複雑な関係。

 そして何より――その人のおかげで、僕はティアモを知った。

 小さなころの夢、手を握ってくれている人の顔は――分からなかった。

 そうしてその人と出会って――僕は、ティアモの顔を知った。

 その顔は――その人にとても似ていた。

 だが、ティアモはこれでいい。これがティアモだ。その人に似ていても。

 この愛らしさが、この愛らしさは――ティアモのものだ。

 さあ、そろそろ起きてもいいと思うが……。


「ティアモ……?」


 ――それに気付くのが、遅かった。

 隠れた目から、涙が流れて。

 その目がゆっくりと開いて。

 こちらを一瞥して――その目は恐怖に染まった。


「ティ、アモ……?」


 僕が言葉を重ねるごとに、ティアモの恐怖が色濃く、強くなって。

 ティアモが――言った。


「イや……――来ないデ……」


「――――――」


 僕には分からなかった。何が起こったのか。

 何を言われたのか。


「来ないで……」


 そう言ったっきり、ティアモは寝室へと向かって、鍵の閉まる音がした。

 書庫には――ただ、ティアモの発した流暢な言葉の余韻だけが、残っていた。

何やら不穏な空気……。

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