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幕間ークレラオースー


「はぁー……。これって妄想日記かなんかだったのかな?でもそれにしてはキラキラし過ぎてはいないというか…。」


 頭が痛くなってきたので、いったん顔を上げてこめかみを圧す。つい独り言が漏れてしまうが気にしない。一人暮らしとの弊害にして、大人の証である。

 なんにしても色々波乱過ぎる日々である。一週間でこれとは、先輩の人生が本当に心配になってくる。今度からもっと優しくしてあげよう。


 そう、私はすでにこのハチャメチャな日記が現実のものであることを半ば確信していた。それは、ひとえにこの日記の主であるクレオ先輩によるものだろう。








――クレラオース、王都クリミアの冒険者ギルドで受付嬢として働く美しい女性である。通称、『銀の悪魔』。

 手入れの行き届いたなめらかな銀髪にメリハリのあるプロポーション、美人画から抜け出してきたかのような整った顔立ち。

 まさに男が思い描く女の理想像とも言うべき彼女が初めて受付窓口に座った時、ギルド中の男が彼女の窓口に並んだという伝説を残している。しかし、彼女の伝説はそれだけではない。というか、それだけなら『銀の悪魔』なんて2つ名で呼ばれるはずもない。


 事の発端は、その伝説である初日の列に出遅れた男だった。

 彼は気性が激しく実力もあるため、手が付けられない男として有名で、この日も持ち前の短気さから「早く声をかけないと他の男に唾をつけられてしまう」とでも思ったのか、前に並んでいた冒険者たちを押しのけ始めたのだ。

 これが火種となり、その火はあっという間に燃え広がった。先の男を短気だと言っていたが、冒険者は誰も彼も負けず劣らず短気で喧嘩っ早いのだ。


「ってめぇ何すんだゴラ!」

「ちんたらしてる方が悪いんだよウスノロ!」

「んだとこの野郎!!」

「いてぇ!殴りやがったな!!」


 そんな感じで始まった喧嘩は周りを巻き込んですぐに大乱闘へと変わる。何せその日いた男の冒険者の八割はそこにいたのだ。ヘタするとギルド崩壊の危機(※1)である。一部の冷静な冒険者やギルド職員は退避を始めようとした。

 その時であった。


【全ての始まりの氷よ、優しくも厳しい抱擁を】


 現場にいた別の先輩曰く「喧嘩してた奴らから中心にギルドが氷漬けになった。」そうだ。

 そして、そんな神業を起こした張本人――クレオ先輩はその美しい声で困った子供を見るように告げた。


「もう、順番は守らないとダメですよ?次に同じことをしたら殺しますからね?」


 今度はギルド全体の空気が凍り付いたのは、言うまでもない。

 どうやってやったのかは知らないが、誰一人も殺してはいなかったようだ(※2)。凍り付いた人たちは、氷が溶けると一斉に泣き出してしまったらしい。

 この日以来、先輩は人の形をした禁断の果実。神が遣わした決戦兵器。審判者。などなどの噂を欲しいままにし、やがてその髪の色と所業から『銀の悪魔』という名が定着。彼女に手を出そうという男は格段に減ったのであった。








「――そんな先輩だからなー。」


 だから、そんな人の日記だからこそ、信じてしまえるのだ。


「…とにかく続きを読もうっと。初めでこれだから、もっと面白いことが書いてあるはず…。」


 本人がまだ帰ってこないことをいいことに、私はさらに日記を読み進める。

 日はとっくに暮れていた。



※1 ギルド崩壊の危機…年に20回ぐらいはある。

※2 誰一人も殺してはいなかったようだ…【始まり】という文言を入れて魔法自体に母性の要素を含ませ、【優しい】と【厳しい】をつけることで懲罰用の魔法に仕上げている。

   つまりこの魔法は子供を叱るお母さんのような存在に仕上げたため、誰一人として殺すことは無かったのだ。



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