6日目
「師匠はいったい、何者なんだろうか?」
実は、これはわが村の最大の謎であるとされている。
腕っぷしが強くて、魔法に造詣が深い。他の知識にも精通しており、師匠のアドバイスで畑が元気になった、肩の痛みが取れた、などの声はしょっちゅう聞こえる。しかし、時々ではあるが一般常識に疎く、とんでもないことをやらかしたりする。
どこぞの貴族ではないか?しかし、それにしてはあまりに野性味が強い。ではどこかの騎士か?いいや、騎士ならあそこまで魔法に詳しくないだろう。じゃあ魔法使いか?でも喋る言葉が正統語(※1)である。ならば司祭様?いやいや―――っと、憶測が憶測を呼んでいる状態である。
ところで、なぜこんなことを書いているかというと、師匠の謎がさらに深まったからである。
そう、確かに師匠は昨日、「明日は良いところに連れて行ってやろう。」と言っていた。
そして今朝、まだ日が昇りきっていないうちに、旅衣装に着替えた師匠に連れられて来たのは、いつも修行で使う山の頂上。
「確か…ここをこうして…。」
着いてすぐ、何もないところで何かを探すような手つきを始める師匠。よくわからないのでその様子を眺めていると。
「…最後に………こう!」
いきなり扉が現れた
「…へぁ?」
目の前で起きたことがよくわからず、思わず変な声が出てしまったのは、ご愛敬だろう。
「さあ、行くぞ。」
「ま…待ってください師匠!なんですかコレ!?というか、どこに繋がっているんですか!?」
「うん?そういえば言っていなかったな。妖精郷(※2)だ。」
こうして私は今、おとぎ話に出てくる妖精郷に来ている。
私自身、何を書いているのかわからない。けど、確かにここは妖精郷なのだ!
今も、私の肩に二人、この日記帳の上に五人ばかり乗って、興味深そうに見られている。(ところで、妖精も一人、二人といった数え方でいいのだろうか?)
「数え方、合ってるよ!」
だそうだ。
ダメだ、自分で書いていて頭が痛くなってきた。急展開が過ぎる。これが小説なら、読者がついていけずに、口が開きっぱなしになってしまっているだろう。
でも、私は確かに妖精郷の女王陛下に挨拶もしたし、妖精たちのご飯もいただいたのだ。
ご飯は花の蜜や果実ばっかりで、ほっぺたが落ちそうなほど甘くて美味しかった。どうやら、妖精はお肉を食べないらしい。聞いてみたら、「あんな塩辛いもの食べないよ!」と笑われてしまった。
人間的には、甘すぎるのもどうなのかと疑問である。今日は初めてだったからいいけど、毎日あの食事だと飽きそう。
さて、今日はここまでにしてもう寝よう…と思っているけど、一緒にいるフェアリーたちの目が輝いている。たぶん、寝るのは遅くなってしまうだろう。
※1 教会で好まれる喋り方。神々の言葉であり、この世界でもっとも美しい言葉とされている。魔法使いは、魔力が乗りにくいとかであまりこの言葉を使いたがらない。
※2 妖精の生まれ故郷にして隠れ里。普通の人間に入れる場所ではない。