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少年少女が手を組む時

お久しぶりです!

更新が遅くなり申し訳ございませんでした。


 ギャンブル魔法――正式名称は、条件式動源魔法。使用対象となる生物の行動を鍵にして発動する――使う側と使われる側、どちらにとっても厄介な魔法だ。


 何が厄介なのかと言うと、まず使う側にとっては術式を編む際に発動条件となる相手の行動を事細かに正しく予測する必要があるため、洞察力が鋭いだけや誘導が上手いだけでは無く、運頼みの部分も大きい不発の多いトラップ魔法だという事。そして使われる側にとっては、発動に成功すればその効力が絶大……否、『絶対』であるという事。条件を満たし発動する魔法は使用者が思い浮かべる森羅万象の完成形、つまりあらゆる事象の成功だけである。


 といっても、魔力量や技術力に左右されるため、本当に何でも思い通りに出来るような――例えば小指を右に三ミリ動かすだけで直接的な死に直結するような――神の域に到達出来る者は上級魔術師の更に上、無限級(インフィニティ)と呼ばれる一握りのみ。


 彼等が黄金ならば、エドガーなどヘドロ。

 それでも、普通にやったら氷になる魔法を雪にしか出来ないへなちょこクラスのエドガーでも上級に匹敵するレベルをねじ伏せる事が出来るのだから、ギャンブル魔法などと馬鹿にしてはいけない。

 何よりも、エドガーが魔法を起動させるために使った文字がテオフィールの顔色を怪訝なものにさせる。


 条件式動源魔法は古代(アンティーク)魔法(アーツ)の一種である。この世界における古代魔法といえば、呪文詠唱は長く、魔法陣は複雑過ぎるというのが一般的だ。

 だが今一度、テオフィールは目に映る古代魔法の証を確認する。元より(トラップ)用の魔術であるため詠唱は要らないが、ややこしい魔法文字と棒線と円まみれの陣も無い。あるのは、見た事の無い死んだミミズのようなウニョウニョが一本。この魔法について多少の知識を持っている者なら、その異常さが分かる。


「死んでたはずなのに生き返った事といい…………キミは、一体何なんですかねぇ?」


 微笑を浮かべるテオフィールの口元が今にも耳まで裂けそうに感じられ、エドガーの心臓は気味の悪さで潰れかける。だが、それを微塵も悟らせないよう「教えるかクソ野郎」と強がる彼の演技は完璧だった。


「知りたかったら、いっぺんドン底に墜ちて史上最悪の性悪魔女に拾ってもらうんだな」

「それは遠慮します」


 エドガーの背後から再び、虫と蛇の間のような化け物が姿を現す。

 だがそれは一匹。……という事はだ。この後エドガーが避ける場所にもう一匹現れる可能性が高い。彼等に、知性やチームワークが有ればの話だが。


 ――まあ、何にせよ関係無いや。


 バケモノの口がエドガーの頭を呑み込む。

 それはテオフィールが脳裏に描き、望んだ像だ。にもかかわらず、その時の彼の表情は『無』であった。


 大きな口は、確かにエドガーを頭からバクリと呑み込んだはずなのに、その場からエドガーの姿が消え失せていたのだから。


「…………チッ、忌々しい」




***




 森の中。地獄の掃き溜めのような池を超えた場所で、エドガーは安堵の息を吐いた。彼の眼前では淡い光が円を描き、その中に、僅かだが目を見開くテオフィールを映している。道具を使えば幼児でも使いこなせる簡単な魔法だ。


「あっぶなかったー……。予想より一秒も発動時間遅れた。つーかアイツには見せすぎたな、やっぱ消すしかな――」


 エドガーの台詞が途切れる。突然、彼の体が縦半分に引き裂かれた事により。


「……っ、――ッ」


 頭上から真っ二つにされたエドガーの喉は、当然ながら当てにならない。空気を行き来させる音すら本来は不自然極まりない。しかし、それでも――、


「チッ……やはりこんな物では死にませんか」


 ――確かに生きている事、再び元に戻ろうと微かに動く四肢を観察した殺人未遂犯(※通常なら殺人犯)は、死神が持つような大鎌の先を彼の目に突きつける。


「おい、どうやったら死ぬんですか? さっさと白状しなければ抉ります」


 全世界のアサシンが惚れ惚れするような手際を披露した犯人は、ドロドログチャグチャになった服を纏い、酷い悪臭を放ち謎の虫にたかられているオリエッタさんだった。

 声は月夜の雪原を思わせるような美しさだというのに、形相は怒髪天を衝いている。


「お……おまっ……」


 頭部、喉、そして上半身がくっついたところで顔を苦痛に歪めながらエドガーが何か言う。


あの野郎(テオフィール)より、血も涙も無いだろぐぁあああああ!?」


 折角くっついてきた下半身が再び裂けた。大事なものを悲惨な事にしながらというオマケ付きで。


「はて? 可憐な女の子を掃き溜めのような池にぶっ込んだ方よりマシでは?」

「え、かれん?」


 鎌が斧に変わり、エドガーの両足首を斬り落とす。悲鳴は割愛させていただく。


「話を戻しますが私、貴方を千回ぶっ殺しても足りないくらい怒り狂ってるんです。分かります? 私の目が充血しているの。これ以上真っ赤にさせてどうするおつもりで?」

「汚い池入ったくらいで狭量じゃ……うん、分かった。悪いのは俺だな。めっちゃ反省してる。一生かけて責任とります。だから反省してるから! お願いだから脇腹からジリジリ切断しようとしないでー!!」


 もはや、モザイク加工無しではとてもお茶の間に流せない少年に、オリエッタはため息を吐く。


「私が怒っている理由はもう一つあります」

「あの……斧を体から退けて? 戻んないから……ぎゃふっ」

「ギャンブル魔法をあんな便利に使えるのなら、どうして初めからしなかったんですか? てか逃げなくてもすぐ仕留められたでしょう。なぜ此処に居やがる?」


 オリエッタは、どうやら先ほどの彼らのやりとりを見ていたようだった。だが、問いかけられたエドガーは……、


「痛い痛い痛い痛いッ!! ぐっ……す、膵臓かき混ぜんなド阿呆ひゃんっ!?」


 普通ならまともな単語を発せないだろう激痛の中、大変な扉を開こうとしていた。


「うわー……もしかして痛みが快感に変わりました? キモ」

「お前がやっといて引くのかよッ」

「それより、どうしてあそこで逃げて来たんですか?」


 エドガーの指摘など完全にスルーし、オリエッタは武器に変化させていた石ころを適当に捨てる。口に出すとまた何か切り落とされかねないため、エドガーは「このやろー……」と、悪態は内心で呟くしかなかった。


「そういうお前こそ、見てる余裕があったならフォローに来いっての」

「無理ですよ。あの人の剣が広域結界張ってましたもの。ドワーフ製武具の前では私ポンコツです」

「どんだけだ。何でそんなにその武具と相性悪いんだよ?」


 オリエッタは悔いのか、ムスッとした顔でエドガーから視線を逸らす。


「ドワーフ製武具の特徴はどこまでご存知で?」

「防御力も攻撃力も一番良くて、使用者の危機に際し自動で動く。魔法も物理攻撃も下手すると使用者より厄介。ついでに変なもん垂れ流してるのか近くにあると俺の再生力を異様に遅くするな」

「……最後のは初耳です。しかし、意外にも並の知識はあるのですね」


 一拍置き、オリエッタは渋々といった様子で続ける。


「アレは、私達(人工精霊)が使う力を吸収してしまうんですよ」

「え! 魔力を!?」

「違います。さっきから貴方を痛めつけていた武器を作る能力の源です」

「マジか。超欲しいなドワーフ製武具」


 オリエッタが鋭く睨んだ瞬間に、エドガーは顔を背けた。


「コホン。……私の戦闘スタイルは、どうしても能力を頼り気味になってしまいます。使えなければ、武器も魔法も使える戦力二人分の相手は不可能なんですよ」

「確認すっけど、お前ってあと数人居れば一国滅ぼせる戦力なんだよな?」


 それにしては弱すぎない? という疑問が彼の脳内に浮かぶ。


「後先考えず一国を炭に変えるのと、被害を最小限にして一個人だけを殺るのとじゃ力の振るい方が全く違うんです」

「使い勝手ワルッ!」


 ツッコミを入れながら、エドガーはようやく完全にくっついた体を起こした。


「……で、もう一度聞きますけど、貴方はなぜあのまま攻めず、此処へ退避して来たんですか? ギャンブル魔法と不死身体質なんて便利な切り札があるのに」

「いや、だって俺ギャンブル魔法なんて使えねぇし」


 間が空く。

 不自然な沈黙が降りる。


「…………へ?」


 ようやくオリエッタが声を絞り出せたかと思えば、そんな間抜けな一文字だけだった。




***




「おや、ずいぶん時間が経っているのに、まだ居ましたか」


 木の葉と枝を踏みしめ、森の中を悠々と歩いていたテオフィールの前に立ったのは、オリエッタだった。

 正確な時刻は不明だが、空が橙に染まろうとしている。テオフィールが二人を見失ってから、数時間経っているのは確実だ。


「そう言いますが、貴方もまだこの辺うろついていたと言う事は、私達を諦めていなかったからでしょう?」

「そうですね、……キミ達は『希望』のようなものですから」


 細い杖。そこに仕込まれた白銀の刀身が、陽の光を反射する。




『つまりさ、ドワーフ製武具に力使うの制限されてたら、お前は魔法も武術も得意な奴を複数相手に出来ない。で、オーケー?』




 これはつい先刻、エドガーがオリエッタに言った事である。


「そうですが?」

「それってさ、お前一人で戦う場合の事言ってるよな?」


 先に続く言葉が予測できたのか、彼女はジトッとした視線を彼に向けた。


「貴方という戦力を足してもマイナスに突入すると思います」

「そろそろ殴るぞッ!」

「うわ最低! 最低です女の敵! 一生結婚できず孤独死しろ!」

「お前も人の事言えねぇだろうが! つーか、お前こそ嫁の貰い手全滅しちまえ!」


 この後、十数分程『どんぐりの背比べ』のような言い合いが続くため、少し省かせてもらう。


「ゼーゼー……、話戻すぞ。俺は、お前が思ってるより役に立つ!」

「じ……自分で言いますか」

「お前が、既に認めてるよな。不死身と、俺の使った魔法」


 肩で息をし、疲れていたオリエッタの表情が変わる。

 ギャンブル魔法では無いとエドガーが言い切ったため、脳の焼却炉で燃やしかけていた魔法の事を思い出したのだ。


「あの魔法は――――」




 そして彼女の思考は、現実へと戻る。

 剣を目にしたオリエッタは、弾かれるように高い木の上へ跳んだ。


「おや、どこへ行くのです?」


 当然、テオフィールは彼女を追う。

 オリエッタは素早く、激しく、且つしなやかな動きで木々の上を飛んで突き進んだ。見事なフリーランニングの動きだ。

 テオフィールはそんな彼女の背中を、楽しそうに見据えた。


 今度こそ逃さない。まず一時的に四肢を潰し、薬か何かで精神を壊して隷属させる。


 その光景があらゆる角度から、いくつかのパターンで彼の脳裏を過っていた。それ故だろう……もっと早く――否、最初に思うべき事に、オリエッタを追跡し始めてから、しばし経って気付いた。


 なぜ彼女は、自分の前に現れたのか?

 ドワーフ製武具を所持している事は既にバレている。ならば、何の対策もせずのこのこ姿を現わすはずが無いのだ。

 しかし今、オリエッタはテオフィールの前に出てきたかと思えば、ただ逃げているだけ。


「逃げて……?」


 テオフィールが、疑問を紐解く片鱗を掴みかけた時だった。


「エドガー!」


 オリエッタの呼び声と共に、ちょうど次の木へ飛び移る真っ最中、つまり避けられない宙で、テオフィールは真横から奇襲を受けた。

 咄嗟に剣でその小さな体の心臓部を貫くが、吐血しながら襲撃者――エドガーは、悪魔のようにニヤリと笑っている。


 全ての直感が、『拙い』とテオフィールに告げた。しかし、もう遅い。己の心臓を貫く細い刃を死んでも離さないと言わんばかりにエドガーの手が掴んでいたから。その手と剣の間に、薄っぺらい紙切れを見たから。


「ッ!」


 現在使用している獣人の力にモノを言わせ、テオフィールは強引に剣を真横へ薙ぎ払った。本来であれば必ず邪魔になっただろう肋骨が、チーズを切るように容易く切断される。


 地面へと落ちて行くエドガー。

 その様を見ていられたのは、僅か二秒程だ。


 銃を構えたオリエッタが、その引き金を引いた音と同時に、パラパラとドワーフ製の剣が崩れて。


「……は?」


 微かに裏返ったような声を放ちつつ、粉微塵になる剣を彼は見やる。

 ドワーフ製武具は、人口精霊の能力に対し無敵。それが常識だ。


 では現状は何だ?

 幻覚か何かだろうか?


 確かめる。知識の中にある幻覚魔法を打ち破る方法を試す。しかし、壊れた剣は紛れもなく現実の代物だ。


 ――また、あの文字の書かれた紙か!


 憎悪に歪んだテオフィールの顔が、真下に落ちたエドガーへと向けられた。だが、彼はそんな悠長に構えていられる状況だったろうか?

 答えは(ノー)だ。


「くたばれぇええええ‼︎」


 オリエッタの手に、銃とすり代るように握られた大剣。それが、テオフィールの使っている体を斬った。


エドガーの扱いがだいぶ酷いですね。しかし現在確定しているオリエッタの設定には、『八分の七殺しくらいで「手加減している」と分類する物騒な女の子』が含まれますのでこうなりました。次はなるべく早く更新できるように頑張ります。

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