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当然だろ? 何か問題でも?


 銃が暴発したような大きな音と共に、驚愕と苦痛の混じった声が響いた。

 エドガーの目に映っているのは、半透明の壁である。声の主は、唐突に襲撃を受けたオリエッタ――「上級魔術師相手に魔術除けのルーン無しで挑むとは……」――では無く、襲撃者の方だった。


 何の前触れも無く現れた防御壁(魔法)に、豪快に戦棍を叩きつけてしまった襲撃者は、何が起きたのか理解が追いつかなかったらしい。そのまま地面に尻餅をついている。


「余程、今生に別れを告げたいのでしょうか?」


 オリエッタの燃え盛る炎のように真っ赤な瞳に対して、その視線から皮膚が感じる温度は冷たい。冷たすぎて冷たすぎて『絶対零度って何? そんなのあったっけ?』と、思わず問いたくなる。

 彼女がそんな目を向ける先には、口をパクパクさせている桃色の髪の幼女が居た。


「買った恨みの数は億単位ほどありますけど……、こんな可愛らしいお子様に恨まれるような悪さ……はて、何だったでしょうねぇ?」

「んぶぉ!?」


 近くに落ちていた戦棍をペイッと適当に転がし、それを振り回していたとは信じ難い涙目幼女の口に、容赦無く銃身を突っ込む少女(オリエッタ)


「教えてくださいな。ちなみに、下らない理由でしたら麻酔無しで歯を削ります」


 控えめに言って、最低の絵面だった。




***




 桃色髪の幼女が、悪魔も真っ青な無慈悲少女に出遭う数分前の事。

 幼女もといロミルダは、狂ったように笑っていた。


 ケタケタケタ。

 カラカラカラ。

 ヒャハハハハハハ。


「くっそッ、お前、ドーピングしてやがるなッ!? あんだけ止めろっつったのに!」

「何の事ぉ? そんなのどうでも良いからさ、早く両脚潰させてよ! そうすればラヴィ、何処にも行かないでくれるでしょ?」


 小さな体躯からは想像出来ない力で戦棍を振り回す少女に応戦するのは、ラヴィだ。


「それは行かないんじゃなくて、行けねぇんだよ! つーかお前どんだけ病んでんだ!」

「ラヴィの為ならどこまでも――――」


 ツッコミを入れながら、呼吸のように繰り出される猛攻を紙一重でラヴィが避けるや否や、ロミルダの動きが急に停止する。


「……おじちゃん達が、やばい?」


 ロミルダの視線が、初めてラヴィから外れる。一方で、彼女の口から出た『おじちゃん』という単語にラヴィは「え?」と一瞬だけ目を見開いた。

 ロミルダは兎に角耳が良く、三里先の音まで拾える特技を持っている。その事を知るラヴィは、彼女の言う『おじちゃん』が『ヤバい』状況に陥る要因に一つだけ思い当たるものがあり、想像した途端に顔を強張らせた。


「あの馬鹿野郎ッ! 相手の力量も測れねぇのかよッ!」

「あっ、待ってラヴィ逃さないッ――」




***




 そして冒頭に至る。


 ロミルダは悪くない。

 ラヴィを追いかける形ではあったが、仲間が敵に捕まっているのだと判断した瞬間に、その敵を抹殺しようとしたに過ぎない。だがしかし……。


「削るついでに頭に穴も空きますけど、覚悟の上ですよねそのくらい?」


 頭のネジがどこか飛んでる冷血女子筆頭みたいな奴に挑んでしまったのが運の尽き。

 ぎらつく赤い目に、ロミルダのライフはもうゼロに近かった。


「んん~!」


 銃を持っていない手で襟元を掴まれているロミルダは、どうにかその手から逃れようともがく。だがその抵抗は、オリエッタの内側にある煩わしい気持ちを高めるだけで状況を変える要素など微塵も無い。


 ――鬱陶しい。


 オリエッタの脳裏にその四文字がクッキリと浮かべば、彼女は銃の引き金にそっと力を入れ始めるが――――背後から冷たい空気が纏わり付き、彼女の動きを止めた。

 冷気の正体が、殺気と、武器を突きつけられて感じる己の警戒心だと気付くのに時間は要さなかった。


「何のつもりです?」


 オリエッタは首だけ少し動かし、背後を見る。

 最初に視界に入ったのは、青い宝石の嵌った白銀の剣。続いて、それを構えているラヴィ。


「知り合いが殺されかけてんの見て放っておける程、落ちぶれちゃいねぇんだよ」


 ラヴィの言葉は本心に聞こえるが、オリエッタはその声に混じる迷い(・・)を見通していた。

 何故、そこに迷いが生じるのか? ――少々気になったが、オリエッタは『まあ、どうせ下らない事だろう』と思い気にするのを止めた。


「なるほど。でも、この子を助けたところで、私達に何かメリットはあるのでしょうか? 例えばそうですねぇ……その辺で伸びてるオッサンと銀髪ヒョロ()に、この村から出て行っていただくとか?」


 ニコリと。ロミルダの口に更に銃口を深く突っ込むオリエッタに、思わずラヴィは「悪魔かよ……」と零してしまった。


「呼ばれ慣れてます」

「チッ……可愛くねぇガキだ。分かったよ、後でそこの二人に交渉してやるからロミルダを放してくれ」

「ご協力感謝いたします」


 銃を消し、襟元から手を離せば、ロミルダは真っ白な顔色でペタリと地面に座り込んだまま動かない。しかしその目には困惑の色が浮かんでおり、とても小さな声だったが「ラヴィ、なんで……?」と、頭に浮かんだ疑問をそのまま垂れ流していた。


「さてと、では私達はお仕事に戻りますか。エドガー、いつまでそこで空気になってるんです? 行きますよ」

「いや、なろうと思ってなってた訳じゃねーよ。誰かさんの外道さに引いてたんだよ」

「げどう?」

「いだだだだだだだだ!! 手首の関節があああああああ!!」


 キュッと。エドガーの手首を捻りながらオリエッタが一歩踏み出した瞬間、「待て」というラヴィの声が聞こえた。


「何ですか?」


 オリエッタとエドガーは足を止める。しかし、ラヴィの方を振り返りはしなかった。その場で静かに、どこか緊迫感のある空気に肌を撫でられラヴィの言葉を待っている。

 そして二人の背中を見つめるラヴィの表情には、再び殺気の色が滲み出ていた。


「お前等、この村の住人どうする気なんだ?」

「「……」」

「シュベルク村の死者をどうにかするために此処に来たんだろう?」


 問われた二人は互いに目配せしたかと思えば、片方(オリエッタ)は面倒臭そうなため息を吐き、もう片方(エドガー)は舌打ちした。


「あーあ……このまま私達を放置してくれるという予想は、流石に甘すぎましたね」

「サクっと解決しておさらばしたかったよなぁ」


 微かな音が空気を揺らす。その音が発せられているのは、ラヴィの手に握られている剣から。


 ピシリ……。

 ピシ、ピシリ……。


「――――死者を全員、処分する気か?」


 ラヴィが一段と低い声で問いかけたところで、音が一旦止んだ。


「当然だろ?」

「何か問題でも?」


 クルリと。ようやくラヴィが見られたのは、感情のこもっていない瞳。

 否、感情はある。しかしそれは、自分がどんな意味の言葉を言ったのか分かっていない子供そのもの――恐ろしいほど、無垢な瞳。


 ――ラヴィの怒りが爆発するには、充分な素材だ。


 世界から全ての音を掻き消すような閃光が轟き、ラヴィの前が半円を描くように抉れた。

 村を一望出来るなだらかな緑の丘は、豪快な土煙と共に一部茶色になってしまう。言うまでも無い事だが、その惨状を生み出したのはラヴィで、標的はエドガーとオリエッタだ。


 何も知らない人間が見れば、オリエッタ達は重症、あるいは絶命したと判断してもおかしくない一撃だった。だが、ラヴィは違う。二人、特にオリエッタの方は、ただの子供では無いと分かっている。彼は本能だけで動いた。土煙が酷い事から、視覚など(はな)から当てにしていない。聴覚と嗅覚、後は長年の経験から、今の攻撃を間違いなく避けた(・・・・・・・・)二人の位置を特定する。


「なんで……っ、何でどいつもこいつもッ!!」


 気配を辿り、そこに己の敵である存在を発見次第、激しい憤りを刃に乗せてぶつけるラヴィ。

 宿屋でヘラヘラと女性をナンパし、鉄の処女に入れられ喚いていた者と同一人物とは思えない俊敏な動きだ。

 だが、ひたすら空気を裂く剣の襲撃を紙一重で全て避けている二人の様子から、ラヴィのその反応が既に想定していた範囲内である事は、想像に難くない。


「いい加減にしろ馬鹿野郎が!!」


 怒号を飛ばし、ラヴィの前にエドガーが飛び出す。

 手には紙切れ。言わずもがな、彼の唯一の切り札である固有魔法を発動させるための物だ。しかし、紙切れを視界に入れたラヴィの行動は早かった。

 エドガーの指先にあった紙が宙に舞う。

 見えた紙が何なのかラヴィには知る由も無かったが、本能が『やばい』と告げ、彼は伸ばされた手が届く前に剣でエドガーの腕を斬り落としたのだ。


「――ッ!! ああ゛ぁぁあああああ!! 俺こんな役回りばっかり!!」


 苦痛というよりも怒りの色が強いエドガーの喚き声は、ラヴィの予想とかなり異なる。その驚愕のせいか、次の動きが鈍り、


「嫌ならカッコいい必殺技の一つでも身に付けなさい!」


 気付かぬうちに、背後に回っていたオリエッタに隙を作ってしまった。

 ラヴィは咄嗟に剣を振りかぶったが、既に鎖を用意していたオリエッタの方が早い。重みのある無数の金属音が響いたかと思えば、次の瞬間にはラヴィの剣を易々と弾き飛ばしてその体全体を拘束していた。


「ぐっ……」

「ふぅ」


 無様な姿で地面に転がされたラヴィを前にして、オリエッタはやっと一息つけた。ちなみに、その隣ではエドガーが苦痛に塗れた表情で斬り落とされてしまった腕をくっつけている。


「その鎖には、エドガーの素敵なおまじない(・・・・・)がかかっています。三十分は絶対に緩みませんし、消えませんよ」


 鎖の一カ所に巻き付けてある紙を今一度確認し、勝ち誇った表情でオリエッタは告げる。これは先程、エドガーの指先から宙に舞った紙だ。

 ラヴィが微かにでも動いたらすぐ指の力を緩めるよう、エドガーはオリエッタに言われていたのである。


「なあ? 今思ったんだけどお前、俺が斬られるの予想出来てたよな? 先に言えよ」

「そしたら貴方、言う事聞かないじゃないですか」

「当たりめぇだボケッ!!」


 二人が、今にも喧嘩をおっぱじめそうな空気になったその時だった。


「何でどいつもこいつもッ、簡単に何の罪も無い奴等を虫けらみたいに殺そうと出来るんだよッ!!」


 地面に転がっている蓑虫――では無く、ラヴィが怒鳴り散らした。


「皆、成りたくてアンデッドに成ったんじゃ無ぇ。それどころか、自分達がアンデッド化してる事すら知らねぇ。ただ此処に住んでただけだ。泣いて笑って食って寝て、そうやって、どこにでもある様な平凡な村人生活送ってたんだよ。ただそれだけだ」

「だろうな。でもそれって、どっかのクソな貴族だか王族だかの怒りを買うまでの話だろ」

「……この村に居た奴が、どっかのクソの不興を買ったんじゃ無ぇ」

「ああ、貴方ですか買ったの」

「……」


 淡々としている二人を見たからかどうかは定かでないが、プツンとラヴィの最後の糸がとうとう切れる。


「ああそうだよ! 此処が――俺の故郷がこんなん成っちまったのは俺のせいだ!」


 だから九ヶ月もの間、


「だから俺はその責任をとる義務があるんだ!」


 ――彼は、この村を害する存在を、村人には決して悟られないように排除してきた。


「「ふーん」」


 力強い光を瞳に宿してラヴィは告げたが、オリエッタとエドガーは、既につまらないという様子で彼に背を向けていた。


「ちょっ……人の話くらい聞けよッ!」

「いや、貴方の事情とか今となっては正直どうでも良いですし」


 何かもう大体分かったから。と、オリエッタは補足する。


「何で俺等が態々その長そうな話聞いてやる義理があんだよ。その話聞くくらいなら寝るわ」


 エドガーは腕を付け終え、欠伸の漏れる口元に手を当てていた。


「お前等……腐ってやがるな」


 その瞬間、奥歯をギリリと噛むラヴィを、オリエッタが冷たく見据えた。


「BLは嫌いじゃ無いですけど、そういう意味じゃありませんよね。全く、不愉快な発言は止めて下さいよ」

「不愉快なのはこっちだ! 淡々と人の幸せ踏み躙りやがってッ、いったい何様なん――――」


 全て言いきる前に、ラヴィは顔面に衝撃を受け鼻血をブチ撒けた。


「お前、今の本気の発言か? この村で今日まで何見てたんだよ? つーか、俺とコイツ(オリエッタ)が、やりたくて普通の村人殺しなんざやると思ってんのかよ?」


 ラヴィは現在、地面にうつぶせの状態になっている。そのため表情は見えないが、気絶していない事はエドガーにも分かっていた。故に、彼の話は続く。


「俺等だって、誰も死なない方法があるならそっちをやる。でも、もうこの村が手遅れだって……テメェは分かんねぇのか。この村の人達も、一見平然としてるけど、実は毎日おかしな現象に怯えてんじゃねぇか。それを『幸せ』だなんて……どうして言えるんだよ」


 エドガーの脳裏には、今朝の宿屋での様子が思い出されている。

 暗い表情の村人数人。ギルドに依頼をするくらいなのだから、余程の事だというのは学の無い子供でも分かる。


「ていうか多分、九ヶ月も時間が有ったなら全員が気付いてないなんて間抜けな話は無いと思うんですよね」


 ラヴィが「は?」と、だいぶ汚れた顔を二人に見せた。


「ほら、アンデッドって基本的に死体ですから、思いっきり転んだり、刃物で指とか切っちゃったりしたら……ね?」


 ミステリー小説でもよく使われているネタだ。心臓が止まれば血液の循環も止まる。その結果、擦り傷や打ち身以上の怪我をしても出血しなくなる事は……。


 ラヴィの顔から、色々な感情が抜け落ちてゆく。


「う、そだろ……? 何で……」


 何故、気付いている者は黙り込んでいるのか?


「まあ、普通に考えて完全に死にたくないんじゃ無いですかね」


 オリエッタは徐に面倒臭いという雰囲気を醸し出し、再び村へ行こうとする。それを見てラヴィは必死に拘束を解こうともがき始めた。


「ジャラジャラと五月蠅いですね。さっき言ったじゃないですか、三十分は絶対に緩まないし消えないと」

「五月蠅ェのはテメエだクソ餓鬼。死にたくない奴が居るなら、余計にお前みたいなのを俺は止める!」


 オリエッタとエドガーは、ラヴィの姿を見て完全に温度を失った瞳になっていた。


「駄目だコイツ、自分に都合の悪い事は一秒で忘れやがる。そろそろ頭痛くなってきたし、さっさと済まして帰ろうぜ」

「そうですね。ロクで無しと見せかけた偽善者なのかと思えば、ただの理解出来ない星の人だったみたいですし」


 やっと邪魔者が居なくなり一歩踏み出すオリエッタとエドガー。だが、二人とも何か違和感を感じた。

 何だろうかと、少し気にし始めた刹那の事。


「そうは行かないんだから」


 聞き覚えのある幼女の声が前方から聞こえ、先程地面に座り込んでしまったはずのロミルダが立ちはだかっているのを、二人は目にしてしまった。


今回ちょっと訳の分からない話だったかもしれません。

ていうか傷男と銀髪が空気どころか完全に忘れ去られているし!

もうちょっと文章力が欲しいです。

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