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鉄の処女と戦棍の幼女

 今回のタイトル、正直どう名前付けるのが良いか分からなくて、ちょっといまいちです。


「いいか少年、そこにブスと美女がいる。どっちも年頃だ。手を出す場合、男としての最良の選択はどっちだ? 両方に決まってんだろう!」

「なあ? 何で朝からいきなり見ず知らずのオッサンに節操無しの心得説かれてんの俺?」

日出(ひい)ずる国の醜女(しこめ)を家に戻して美人だけ娶り、人の寿命を激減させた天孫に比べたら良い事言ってますけどね。TPO考えずに話すと印象最悪ですね」


 朝食を取ってから宿を出ようと思い一階に降りてきたオリエッタとエドガーは、ラヴィ(ロクで無し)に絡まれていた。


「ウェイトレスさん、モーニングのAセット二人分お願いします。あと、変なおじさんが絡んで来るんですけど?」

「はい! Aセット二人分ですね! かしこまりました。ラヴィさん、他のお客さんに絡むなら朝ごはんは腐ったジャガイモで良いですね?」


 満面の笑みで、ウェイトレス業もこなすマリアのセリフに、ラヴィは「良くない!」とエドガーから離れるが、


「……って、おいロリっ娘。俺は『おじさん』て言われるほど年食ってねぇよ」


 すぐにまた戻って来た。般若顔のマリアに、オリエッタはもう諦めの表情で「椅子をもう一つ用意してください」と彼の同席を許可した。


「何歳なんです?」

「まだ十七だ」

「「「えっ……フケ顔」」」

「マリアちゃん!? キミにこの餓鬼共とシンクロされるとショックなんですけど!」


 ラヴィは体格もそれなりに良く、顔立ちは下手すると女性よりも美しいと評価できる。二十代半ばから後半くらいで言えば……な。

 可哀想な真実が発覚。彼は実年齢に対して、非常に顔つきが大人びていた。


「どうするんですかラヴィさん。中身無いのに見た目の価値も無くなったら、ぶっちゃけ貴方の存在意義生ゴミ以下ですよ」

「中身が無い!? 俺ご近所づき合い凄く良いのに!」

「酒と博打と女のトリプルコンボで全て帳消しですよ」


 マリアが淡々と告げて厨房の方へ向かう一方、ラヴィは胸部を押さえて倒れる他無かった。


「クソ……世の中がおかしい」

「おかしいのはアンタのクズっぷりだ」

「エドガー、あまりこの人と関わるのは止めましょう。時間の無駄です」


 オリエッタは既にラヴィを視界から排除し、マリアが早々に配っていたクロワッサンをもぐもぐと咥える。


「最近の子供辛辣!」


 割りかし本気で泣き始めた十七歳を十歳児二名が無視して食事する光景は、他の客達を朝からなんとも言えない気分にさせた。

 だがそんな中でも、他人の事を気にしていられない連中というのは当然居るわけで……。


「また川岸に腹だけ食い荒らされた魚の死骸が……」

「うちは子猫がやられた……この前生まれたばっかだってぇのに」


 宿泊客で無くとも食堂は利用出来る。朝食だけ食べに来た村人数人は、暗い表情だった。


「我慢ならねぇ……依頼したってのにギルドは何やってんだ⁉︎」

「このままじゃ、いつ死者共のせいで家族が死んでもおかしくねぇ!」


 激昂して居るような口ぶりだが、周囲の客を気にしてか音量は小さい。

 だがそれは、彼らに限った話では無い。この村の住人や宿泊客――今ここに居るほとんどがそうだ。


「もう、誰でも良い。これ以上は女房達に隠しきれねぇ。公になる前に、どうにかしてくれ……」


 朝からしみったれた空気になる。

 口にこそ出さなかったが、それらの会話を耳にしてしまったオリエッタとエドガーは、大きなため息を吐いた。






 連なる民家を数え、雑貨屋の前を通り過ぎ、沢にかかった橋を渡り。

 ――宿から出たオリエッタ達は、村の外へ足を進めていた。目的地は、村が一望できる丘の上。


「『死の村』か。依頼内容聞いた時はゾンビやアンデッドが呼び込まれてるんだと思ってたけど……なんで、こうなっちゃってんだか」


 村を見渡すエドガーの目には、哀れみの色が混ざっていた。


「下手に力のある者の不興を買ったか、村全体で罰当たりな事をしたか。どちらにせよ自業自得の臭いがプンプンしますね」


 対してオリエッタの口調はどこか淡々としており、表情は無に等しい。


「オリエッタ……思ったこと言って良いか?」

「どうぞ。『この仕事したくない』みたいなふざけた事以外なら」

「お前、幽霊とかゾンビとか苦手だろ?」


 二人の間に、沈黙が漂った。


「………………見当違いも甚だしい。試してみますか? 貴方の体をゾンビっぽくして」

「ほら! 今、間があった!」

「かかか関係無いでしょう! マジでやってやりますよ、ボコボコにして皮()いで腐敗させま――」


 ガサガサッ!


「ぴぃー!」

「……っと」


 音速を超えたのでは? と思えるような速さで正面からエドガーに抱きつきガクガク震えるオリエッタに、エドガーは呆れざるを得ない。


「木が風で揺れただけだっての。過剰に反応しすぎだぞ」

「か、風? 本当に?」

「ホントホント」


 半ば適当に返したエドガーは、己の発言を後悔する事になる。

 背後を振り返った涙目オリエッタさんの視線の先――木の上に、新聞で顔を隠しているが見覚え有りまくりの男の姿があったから。


「嘘つきぃ!」

「「げぶふぁあ!!」」


 そいやっさあ!! という声が、何処かから轟いて来てもおかしくない見事な背負い投げだった。

 呻き声が二人分上がった理由は、宙を舞ったエドガーの体が木の上の男にダイレクトアタックした結果である。

 出来上がった二人分の屍(笑)を見て、怒るオリエッタが我に返ったのは丁度三秒たった時だった。






「それで? 貴方はどうして私達をストーキングしていたのですか?」


 冷ややかな声でオリエッタが問いかけた相手は。木の上の不審者もといラヴィだった。

 ちなみに場所は丘の上から変わっていない。しかし、状況は大分変わっていた。


「愚問だな。そこに美人の気配があったからだ!」


 清々しいくらいキッパリと言い放つラヴィ。だが、


「エドガー、閉めちゃってください」

「了かーい」

「どわああああ! 死ぬ死ぬ死ぬって、三割冗談だから止めろー!」


 完璧に縄で縛られた彼は、前面が開きっ放しになっている鉄の処女(アイアンメイデン)の中に居た。言うまでも無いだろうが、この鉄の処女はオリエッタが能力で作ったものだ。


「七割も本気なのかよ」


 今まさに扉の開閉権(彼の命)を握っているエドガー半目状態だ。


「逆に七割も冗談だったら来るわけ無ぇだろ。誰が好き好んで生意気モヤシ小僧と体型に将来性皆無の糞ロリなんざ追う……オーケー、前言撤回だ。話し合おう、人は言葉で物事を解決できる生き物だ。だからお願い閉めようとしないで! 太くて長いアレが突き刺さっちゃうー!!」


 アホが真っ青な顔で誤解を招きそうな事を喚いているが、真っ黒い笑顔のオリエッタとエドガーの耳は、とても都合よくミュートしている最中であるため気にしない。というか、


「安心してください。致命傷を避けるよう針の位置を調整してますから。死ぬ程痛~いでしょうが、死にません。さらに私は回復魔法が使えます」


 かなり柔らかくオリエッタは言った。

 本当はこう、『一回で終わると思うなよ』だ。


「イヤー! 助けて犯されるぅ!!」

「この人、とことんクズですね」

「そうだな。誰が性病患ってそうなヤツ犯すかよ」

「ちょっと待てモヤシ! 勝手に人を病気持ちにすんな! 俺のシモ事情は至って

健康――<バーンッ!!>――ぎゃああああああああ!!」


 無情にも閉じられた鉄の処女。その実行犯は、エドガーでは無くオリエッタの方だった。


「なあ? 急所避けてもショック死したら意味無くね?」

「その時は、適当な森に放り込めば魔獣が食べてくれますよ」

「もしかしなくても手慣れてる?」


 目を剥いているエドガーの隣で、オリエッタはフと妙な事に気付いた。


 鉄の処女の隙間から、一切血が漏れていないのだ。


 致命傷は避けた。だが人間の体が、針で刺されて出血しないなどあり得ない。その異常さは視覚だけでは無く、嗅覚からも感知できた。

 嫌という程嗅がされた鉄のような臭いは……?


 勢い良く鉄の処女を開ける。空になっている中身に、オリエッタだけで無くエドガーも驚愕した。


「アイツ、魔術師だったのか……」

「魔法では無いでしょう。一応コレ、中からも外からも魔力を通せない仕様になってますから……でも、そうなりますと……」


 ブツブツと、自分一人にしか聞こえないくらい小さな声で何か呟いたオリエッタは、ハッと目を見開いて舌打ちした。


「もう、なんでこう面倒な事に……!」

「心当たりあったのか?」

「ええ。彼は、ドケチの糞婆と同類なのかもしれません」




***




 この世界では、宗教と言えば二つ上げられるのが常だ。女神シノンを信仰するシエノス教。魔神セラークルクを信仰するセラク教。


 人間と亜人の数が半々の大陸中央部では、シエノス教が主流とされている。しかしシュタロは違った。中央部の国であったが、シエノス教の亜人差別禁止がお気に召さなかったらしい。シュタロは長い事、本当に近年まで亜人差別を徹底していた国だったのだ。かと言って、セラク教でも無かった。むしろ、こっちの方が雲の上のやんごとなき方々にとって、まっぴらごめんだった。セラク教は、『勤勉』と『平等主義』の理念の元、共和主義が推奨され、国教となれば「はい、王様&お貴族様バイバイ」と、君主政廃止に追い込まれるからだ。


 しかし、大国と呼ばれるようになれば必ず属するどちらかを選ばないまま、国の安寧を保てるものか? 先々代女王までは保てた。彼女を含めたその代まで、シュタロは文武問わず並外れた才、そして人望と人脈に恵まれたを持つ賢王が治めていた。……が、悲しきかな先王がズッコケた。特別アホというわけでは無かったのだが、彼は今までの王に比べてあまりにも凡人だったのである。結果、今は三年前に新国王が起ち、『異教徒扱いで他所からの風当たり厳しいのウザい。つーか亜人差別とかアホの極みじゃん』という(ツル)の一声と行動力によって、シュタロは国教をシエノス教にした。


 だが、その布教活動はあまり芳しくない。――にもかかわらず、シュベルクのような小さな村に、シエノス教の教会が建っていた。

 荒れ果てており、牧師もいない状態だけれども。


「ふい~、やっばかったぁ。只者じゃ無ぇってのは分かってたけど、ありゃお前らの(・・・・)友達か?」


 教会の裏で座り込んだラヴィは、ヘラヘラした笑みを浮かべる。笑みの先には、赤色・青色・緑色の、掌サイズの丸い光がそれぞれ三つ浮いていた。

 蝶のような美しい羽をパタパタと、光達は心配そうにラヴィの周りを飛び交う。しかしただ飛んでいるだけでは無いらしい。特に赤い光は上下に忙しなく動き、ラヴィはそれを見て時折頷いていた。


「人工精霊? 危険すぎてどの国でも禁止したアレか。……えっ、ヤバくね?」


 うん、ヤバイっすよ。

 とでも言わんばかりに、三つも光の動きが揃う。


「あー……出来ればガキには穏便に帰ってもらいたいんだけどなぁ。どうにかなるか?」


 ラヴィが口を手で覆うようにして考え込んだ時、


 ――空から武器を構えた影が落ちてきた。


 半径数メートルが陥没し、土と木の葉が舞い、教会を覆う雑木林の鳥達が一斉に飛び立つ。


「にひっ」


 幼女の笑い声だった。

 今にも裂けてしまいそうなほど口元に弧を描く彼女は、身の丈の倍以上ある戦棍(メイス)を軽々と振り回す。

 轟音と粉塵を巻き起こしたそれは、教会の壁を破壊しその中へラヴィを叩き込んだ。


「ラヴィラヴィラヴィラヴィラヴィラヴィラヴィラヴィラヴィッ!! !!」


 壊れた玩具のように彼の名を連呼する無邪気な声は、歓喜の色に満ちていた。


「やっと見つけた!! やっと会えた!! 前に約束したよね? もう私から離れないって。離れた時はラヴィの肢体を潰しても良いって! それから結婚してずっと私の部屋で暮らしてくれるって!」


 桃色の髪と朱色の目を持つその幼女は、子供らしく元気にピョンピョン跳ねているが、教会の最奥まで吹っ飛ばされたラヴィは血を吐いている。

 巨大な戦棍の一撃をまともにくらっても生きてるだけマシと言うべきか、どうしようもない痛みに呻くだけという惨状を悲しむべきか、ラヴィは本気で悩みかけた。


「ロミルダ……どうして、此処に?」


 彼がどうにか口に出来たのは、襲撃者の名前と純粋な疑問だ。

 一瞬だけキョトンとした襲撃者――否、ロミルダは「決まってるでしょう?」と、ラヴィに蕩けるような甘さを含んだ笑みを向ける。


「命令されたからだよ。死の村……正確には死を呼ぶ村(・・・・・)を根絶しろって王様からさ」


 正直、最後に出てきたヤンデレ(メンヘラ?)ちゃんにもっと暴れさせたかったです。

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