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旅行鞄に詰めるもので


その人の人となりがよく分かる


次の日の服、洗顔、歯ブラシ


タオル数枚と化粧品、携帯、財布


そして、着替えのパンツ


あっと驚くほど、必需品は少ない。


人間、くらしていくのに


そんなに物はいらないのだ。


だから、旅行はほっとする。


これだけで生きていけるんだよ


という気持ちにさせてくれるから。



必需品は必要ない私だが


不必要品はたくさんになる。


寝る前に読むミステリー小説


スケッチブックとペン


紙石鹸、飴玉ひと袋


キツネのぬいぐるみにカメラ


なくてはいけない。


無ければ生きていけない品だ。


そんなものを詰め込んで


私のリュックは一緒に歩いてくれる。




直島旅行をしてきた


「いきたい」を「いこう」へ


変換してくれる友人がいて


面白いことを素直に楽しいと言い


一緒に笑ってくれる友人がいる。


隣に誰かがいてくれた。


そんな旅だった。


4月の週末、世の中は黄金に輝いている。


ゴールデンウィーク


その響きは美しくないが、


嫌いじゃない。誰も嫌いにはなれない。


4月29日。


私は身体以上に浮足だっていた。


地中美術館では、


「モネ」の絵を観ることが出来た。


この地を訪れたのは、実に2年ぶりで


その時もこの絵に圧倒され


しばらく呼吸するのことさえ忘れた。


決して大げさではない。


ここに来てみれば、きっと分かる。


「明日じゃなくて良かったね」


友人の一人がぽつりと呟いた。


明日は美術館は休館日だそうで、


我々は島に到着した早々


こちらに滑り込んだ。


直島に人はそんなに多くなかった。


世の中はやれゴールデンウィークだ


連休だと言うけれど、


この島はいつもの通りとても穏やかだった。




宿で自転車を借りて夜の道を駆け抜ける。


海風が頬に当たり、少し肌寒い。


でも、それ以上にわくわくする。


夜の街、街灯の照らす道路を


悠々と走る様はいとをかし


『おもしろきことはよきことなり』


島はクルマが少ない。


道路のアップダウンが激しいからだ。


たまに自家用車を持ち込む人も


いるそうだが、大概は自転車に乗り換える。


だからこの島に車は似合わない。


旅をするには足がある。


何処かに行きたければ、


自分の力で進むことができる。



孤島という響きは


どこかノスタルジックで


妙にミステリアスだ。


ここは、しまの島の中


周りは海で囲まれ、


旅人は忘れていた記憶を呼び覚ます。


寝床に着く時、


誰を想い出して、誰を思い出さないのか


シロとクロのように


はっきりと区別をつける。


島の中とは、そんな場所だ。



「それで、


君は誰のことを思い出したんだい?」


コーヒーの匂いは


そんなnostalgieな思い出を


鮮明に濃ゆく、湧き上がらせる。


チョコレイト一粒を口の中に含ませて


眉をひそめた。


分かっている事をあえていう趣味はない。


「海は綺麗だった。


モネは絵も言えぬものだった。


赤いカボチャはどくどくしかったし、


鯉のぼりはひらひらと空を泳いでいた。


靴の踵をすり減らした分以上に


とてもよい旅だった」


ただ。


頭の中にはその後に続く言葉を飲み込む。


口にする必要はなかった。


「ただ、腑に落ちない事があったと」




(続)

ハッピーバースデートゥーユ

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