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姫とパートナー

「待たせたな」


それから暫くしてガンツが戻ってきた。その手には刀が握られている。


「刀かぁ。刀よりはこう言う方が似合いそうなんだけど」


ドロシーは自分が持っているステッキを見せてくるが、そんなものを使いたいとは思わない。


「あのなぁ。武器はアクセサリーじゃねぇんだぞ似合う似合わないより使えるか使えないかが重要なんだ」

「えー。それじゃあ面白くないじゃない」

「面白くないって・・・。まぁいい受け取れ」


ガンツは何か言いたい様子だったが無駄だと判断して諦めたのだろう、日本刀をこちらへと投げてくる。

それを咄嗟に受け取るとズシリと重さが体に響いた。


「抜いてもいいか」

「あぁ抜いて見ろ」


ゆっくりと抜刀して見る。

そこには鈍色に輝く刀身があった。

長さといい重さといい申し分なさそうな刀だ。


「それにしても、如何して刀なの」

「それは、僕自身が剣術を習っているからだな。それに、何度か真剣を振らして貰ったことも有るし」


ドロシーの疑問に答えると同時に嘘もついた。

本当の所は、何度か真剣を振らして貰ったとかそう言うレベルではない。

と言うのも僕の師匠が、何をとち狂ったの突然、木刀を使った稽古から真剣を使った稽古へと切り替えてきたのだ。

もちろん変わった当初は真剣を使う抵抗があり、道場を辞めようかとさえ思った。

しかし、後には引けない状況も相まって道場を続ける事を選択した。

そのかいもあって、今では真剣を自分の手足のように扱う事が出来る。


そんな僕だが今でも真剣を使う抵抗も後ろめたさもあるため、あまり人には言いたくない。

だからなのか咄嗟に『何度か振らして貰った事が有る』としか答えてしまった。


「ふぅん。じゃあ腕前見せてよ」


ドロシーが挑発的に笑みを浮かべ手を叩く。

すると、目隠しと猿轡を装着され柱に括り付けられたウサ耳少女が現れた。

ウサ耳少女は自分の境遇を理解しているのだろう拘束を解こうと必死でもがいている。

悪ふざけと言うには如何せんコレはやりすぎだ。


「おい、ドロシーさすがにそれはふざけすぎだ」

「そうだぞ。そんな危ないまねできるわけ無いじゃないか」


僕もガンツもドロシーを非難するが、ドロシーには堪えてないどころか挑発さえしてくる。


「ふぅん。覚悟が無いんだ」


ドロシーのその一言で僕の中で何かが切り替わった気がした。

彼女の一言はどうしてか僕の耳に残り、不快感を覚える。

それを、払拭するためには柱に括り付けられている彼女に向けて刀を振るしかないと思い覚悟を決めた。

だが、どう斬ればいいか悩んでしまう。

ただ単に普通に斬ってもあまり面白みも、技量も見せられない。

いい技は無いかなと模索し、一つの案を思いついた。

そうと決まれば後は実行だけだ。


柱に括り付けられているウサ耳少女の前に立ち準備を整える。

背後ではガンツが何か言っているようだがここではあえて無視することにした。

ゆっくりと、納刀と深呼吸で自分のいつものペースを作り出す。

その時、脳内にノイズに似た違和感があったがそれも無視する事にする。

準備もゆっくりだが整え終わったので、技を繰り出した。


まずは、抜刀とともに左下から右上にかけて一閃。

続けて、流れるように右下から左上にかけて一閃。

最後に、彼女の頭頂部から垂直に下に向けて一閃。

この三閃を限りなく速度で繰り出す抜刀術『幻影斬』を放った。


場の空気が固まり、僕の高ぶった感情もしだいに冷めていくのを感じた。

感情が冷えるにつれて今度は全身の体温を失うかと思うぐらい青ざめていった。


僕は何をした。何をしてしまったんだ。

気がついた時には拘束されていたウサ耳少女の下着を含む衣服がシュルリと落ちていた。

やばいと思い、刀を放り捨て彼女の体を触診する。

幸い傷は何処にもなかった。


僕が放った技は『幻影斬』と言い、相手の防具のみ切り捨てると同時に相手に恐怖を覚えされる技なのだが、繊細な技なため冷静さを欠いた状況で放っつと成功率が五割も満たないのだ。

下手をしたらウサ耳少女を普通に斬っていた恐れがある。

それを考えるだけで背中に寒気を覚える。

そもそも彼女に刀をむけた事自体、刀を扱う者として間違っているのだ。

『どうしてこんな事をしてしまった』のと自己嫌悪と自責の念が襲い掛かってくる。


「あ――。あの、何時まで見てるんですか」

「へっ」


ウサ耳少女によって現実に戻ってきた僕は、現状に気づく。

ウサ耳と同じ白いウェーブのかかった髪に赤い瞳を持った整った顔立ちをした美少女。

そんな彼女の全裸を怪我は無いかと必死に観察して僕。

もちろん大事な所は彼女が手で隠しているがそれでも色々とヤバイ。


「ごめん」


慌てて、後ろを向きウサ耳少女から距離を取った。

顔が焼けるほど熱い。


「大丈夫か」

「色々と大丈夫じゃない。もう死にたい」


ウサ耳少女を視界に入れないようにか不自然な歩き方でこっちに向かってきたガンツ。

手には先程投げ捨てた刀を握っている。


「なんであんなことしたかな。もういっそ死にたいよ。しかもその上に・・・思い出しただけでも死ねる」

「こりゃあ。ダメだなドロシー悪いがウサ耳少女の事を頼む」

「あいよ。まかされたー。ばっちり衣装決めてあげる」

「ちょっとまってください。自分で出来ますから。イヤーヤメテー」


落ち込む僕の背後ではガンツとドロシーはそんなやり取りをしているみたいだが、こっちはそれ所じゃない。

はぁ、どうしよう。


「すまなかった。お前に渡した刀だが、誤って妖刀を渡してしまった」

「いい。気遣いはよしてくれ」


ガンツの優しさが痛く苦しかった。

そんな偶然があるとは思えない。


「気遣いじゃない。それはおまえ自身がわかっているだろう」


確かに、あの時の精神状態は今でこそ解るが普通だとは思えない。

だからと言って、やった事について許される訳が無い。


「それでも、人に武器、しかも真剣を振るう行為は人間としてタブーだろう」

「確かにな。だが、お前は斬らなかった。つまりお前の心のどこかには傷つけちゃいけねぇという心が残ってたんだよ」

「あったとしてもだ。振るった時点でダメなんだよ」

「お前は妖刀をなめすぎだ。こちらの理に初めて触れたお前が気合で如何こう出来る代物じゃねぇ」

「・・・・・。そうだな確かその通りだ」


ガンツの言うとおりだ。そんな気合で防げたらゲームとして成り立たなくなる。

これは僕の認識が間違っているのだろう。

恐らく、ここをゲームではなく現実として受け止めているからガンツと僕との認識の差が出ているのだろう。

だが、ここを作り物と割り切る事はどうやら今の僕にはまだ出来ないらしい。


「だからだ、あの一件は俺が悪かったんだ。本当にすまなかった」

「やめてくれ。謝るなら僕ではなく彼女に謝ってくれ」

「無論あいつにも謝るがお前にも謝っておきたかったんだ」

「ならその謝罪だけ受け取っておくよ」

「そうか」


ガンツは少し安堵したようだ。


「あれ、どうしたのお通夜見たいな雰囲気じゃない」

「あのなぁ・・・。」


ガンツは何か言おうとしたが頭を掻き少し悩んだ様子を見せた後、言うのを諦めたようだ。


「まぁいい。それで着替え終わったのか」

「えぇ。もちろんばっちりと」

「うぅ。ドロシーさんにも辱めを受けました。もうお嫁にいけません」

「じゃあお披露目といきましょうか」


ガンツの問いかけに対して、ウサ耳少女からは元気の無い声が、ドロシーからは楽しそうな声で許可がそれぞれ出た。

どんな顔で合えばいいのか正直解らずこのままで居たいのだが、ガンツにひじで小突かれ催促されたので渋々、彼女の方を向く。

白のワンピースを着たウサ耳少女が仁王立ちしていた。


「元はと言えば、あなたが原因ですよ」


僕に向けての第一声がこれだった。

彼女の言葉にさらに落ち込んだ。


「ですから、責任を取って娶ってください」

「はい」


ウサ耳少女のぶっ飛んだ発言にポカーンと放心状態になっている。

そんな僕を見て彼女は悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべている。


「何でそんな結論になった」

「それは、一目惚れだからですよ」

「僕は君を怖がらせたのにか」

「そんなのこっちじゃ日常茶飯事ですよ」

「いや。だからって・・・・」


反論する僕を見かねたのかウサ耳少女は『ごちゃごちゃうるさいです』と言い、僕に抱きついてきた。

身長差の関係で、彼女の豊満な胸に僕の頭がすっぽりと収まってしまう。

恥ずかしさから顔が焼けるぐらい熱くなり、自我を保つため必死に抵抗するが彼女は離れない。

女性に対しては免疫が無い僕にとっては今の状況は辛い。


「何をいまさら恥ずかしがっているのですか。ジロジロ嘗め回すように見た上に、直接触ったのですよ」


ウサ耳少女の言葉に、羞恥心が加速して増えていく。

何とかしたいのだが、胸に押さえつけられて上手く身動きが取れない。

顔の熱量がグングンと上がっていくのが解る。

これ以上は色々と危ないので本当にやめて欲しい。

しかし、願いは届かなかった。

顔の熱さで意識が朦朧としていき血の特有の鉄臭さを感じ、ついには意識を失ってしまったのだった。


                ☆☆☆


「めがさめましたか」


真っ先に目に入ってきたのウサ耳少女のドアップだった。

突然の事に手と足をバタバタさせる。


「なにやってるんですか」


ウサ耳少女は微笑みながら頭を撫で僕をなだめようとしている。

ダメだ。このままではダメになる。

一刻も早く状況を整理しようと必死に頭を回す。

後頭部からはほのかの温かみと柔らかさが伝わってくる。

目の前には、二つの山とウサ耳少女の顔・・・。

これはやはり、膝枕だ。


「ごめん」


気がつくと同時に飛び起き、距離をとる。


「何を謝ってるのですか。妻として当然のことをしたまでです」


彼女はニコニコと笑いかけてくる。

妻と言う単語に僕の顔は引き攣ってしまう。

いつのまに、結婚は確定したのだろうか。


「あんたさー。興奮したり冷静になったり情緒が不安定すぎるわ」


一方ドロシーは呆れた表情をしていが『ほとんど、お前のせいだろうが』とガンツに攻められると軽くいじけた。

どっちが、情緒不安定なんだか。


「それじゃあ。レイのパートナーは彼女と言う事でオッケーね」

「ちょ、ちょっとまて」


すぐに立ち直ったドロシーがそんな事を言ってくるので、慌てて止める。


パートナーと言うのは一人のプレイヤーに一人付くノンプレイヤーキャラクターの名称だ。

役割は戦闘を手伝いから身の回りの世話までと多種多様な事をしてくれる。

だからと言って奴隷のようにこき使えると言うわけでもなく、ちゃんとパートナーの意思は尊重される。

相手が嫌いな奴ならパートナーはパートナー契約を独断で解除する権利を持っている。


そしてここからが本題だが僕はそこまで、のめりこむつもりは無いので最初からパートナーは付けない気でいた。

もし仮に僕にパートナーが居ても放置してしまうし、相手がかわいそうだからだ。

だが、責任を取ると言う事は僕のパートナーになるという事でもあるため正直困っている。

娶る気はないが責任は取りたい気持ちは有るため、なるべくウサ耳少女の希望道理にしてあげたい。

そして、その二つの狭間で葛藤している最中だった。


「どうしたの。ウジウジ考えてもう一発彼女に気合入れてもらったら」


ドロシーがそんな事を言ってくるので、僕は全力で拒否した。

ウサ耳少女が悲しそうな顔をしたため『恥ずかしいだけで嫌とかじゃないだよ』と墓穴を掘るようなフォローをしてしまいつつ今考えた事を話した。


「待つのも妻の役目です」


話を聞き終わったウサ耳少女は自信満々に言ってくる。


「あんたさぁ。ウジウジ考えすぎその内禿げるわよ」

「そうです。そうです」


ドロシーの言葉に同意するウサ耳少女。

その同意はどっちに向かってでだろうか、個人的には禿げる方では無い事を願う。


「放置されたらその分可愛がってもらいますし深く考えなくていいですよ」

「因みにこの世界は君達の世界より四倍早く動いているから、一日放置したら四日経つのよね。体が持つかしら」


ウサ耳少女の発言に合わせる様にドロシーがからかって来たが、その内容の方が気になってしまう。

四倍早く動くだと。

説明書にはそんな事かかれていなかったし、そもそもそんな技術がまだあるわけが無い。


「なぁ、四倍早く動くってどういう事だ」

「えっ。えーと」


ドロシーは少し困った表情を見せ、ガンツの方を見るがガンツ首を横に振る。

仕方なしか、ドロシーは何か思い出そうと考えこんだ。


「確か、電脳世界における体感速度のコントロールだっけ」


やっと出てきた答えがこれだった。

その名称には僕も聞き覚えがある。


「それって―――」

「もう。私を放っておかないでください」


ドロシーとの会話に参加できずに面白くなかったのかウサ耳少女が背後から抱きついてきわき腹をくすぐってきた。

あまりのくすぐったさに『やめてくれ』と笑いながら懇願するがやめてくれない。


「私のことで反省していたはずなのにそれを無視したレイさんに対する罰です。やめて欲しければ私をパートナーにしてください」

「わ・・かった・・・わかったから・・・も・・う・・やめて」


息も絶え絶えに承諾すると『ならやめてあげます』と少し残念そうに僕を離してくれた。


「あんたもなかなかなものね。じゃあ彼女がパートナーと言う事でいいのよね」

「はぁ・・・はぁ・・・お前にだけは言われたくない。だが、まぁ覚悟は出来た。色々と頑張るさ」

「そんなボロボロで言われてもかっこよくないわよ」

「うるさい。ほっとけ」

「まぁいいわ。ならパートナーと証として名前を付けてあげなさい」


ドロシーの言葉にウサ耳少女は期待を込めた眼差しと表情を向けてくる。

僕のネーミングセンスは微妙なため困っている。

それから、あれでもないこれでもないと数分間悪戦苦闘をした末に、シロウサギを短くした『シウ』にする事にした。


「シウって名前でどうだ」

「いい名前ですね。大切にします」


どうやらシウは名前を気に入ってくれたようだが、ドロシーとガンツはなんとも言えない表情になっている。

どうせ僕にはネーミングセンスがないですよ。


「まぁ。一応名前も決まった事だし。次へといきましょう」


そう言うとドロシーは手を叩たいた。

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