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姫とログイン

起動すると同時に気を失うような脱力感を覚え、気が付いた時には薄暗い部屋に備え付けられた椅子に座っていた。

どうやら、此処がゲームの世界のようだ。

バイトぐらいでしかVRシステムを使ったことがなかったため、この様な過度な演出は新鮮で面白い。


それにしても、何も無い部屋だ。

自室の部屋ぐらいの広い空間に、現在座っている椅子以外の物が存在しないシンプルな作りになっている。

『もしかするとバグか何かだろうか』そんな考えが頭をよぎる。

と言うのも説明書による事前情報によると、ここにはナビゲーションシステムと言うものが有るらしい。

それを使ってキャラクターメイキングを行うらしいのだが、何処をどう見てもそれらしき物も当たらない。

今、座っている椅子がナビゲーションシステムと言う訳でも無いだろうし。

説明書には詳しい情報は書かれていなかったので少し困った事になった。


こうなると、思いついたことを手当たりしだい試して見るしか無い。

呼びかけてみたり、メニュー画面を開いてみたり、ジェスチャーをしてみたりと思いつく限りの事を試してみたが反応は無かった。

後考えられるのは、待つ事ぐらいだろうか。


試しに10分程待って見たが何も起こらなかった。

経過時間共に不安だけが募る。

こうなってしまったら仕方がない、一度ログアウトして少し調べてみるしかないだろう。

幸いログアウトは出来るようなので調べて戻ってくればいいだけの話だ。

あまり気乗りはしないがけど。


ログアウト行動を取ろうとしたその時、部屋の明かりが突如消え『ガコン』と言う機械音が部屋に反響した。

その変化に驚き、思わず立ち上がりいつでも対処出来る姿勢をとる。

一体に何が始まるのだろう。

そんな事を考えていると何処からとも無くピンスポットがある一点に向けて照射された。

突然の事に思わず光の出所を目で追い確認する。そこにはふわふわと宙に浮かぶ複数の光の玉があった。

さすが電脳世界だな。法則なんて関係ないようだ。


意識をピンスポットが照射されている場所へと戻すと、現在進行形で『ウィーン』という機械音と共に床から何かがせり上がってきている。

まるで歌舞伎の奈落のような装置だ。


その装置から、ゆっくり出てきたのは一人の女性だった。

見た目は僕と同じぐらいの年齢の女性だろうか。

容姿は黒髪のポニーテールに黒目といった現実では有り触れた物だが顔立ちは良く、かといって作り物のような違和感もまったく無い。

これがNPCであるならばこのゲームのグラフィックはレベルが凄く高いと言って良いだろう。

ただ服装は関してはゲーム特有の過剰気味な衣装だった。

フリルの付いた青を基調としたゴスロリ風衣装も、おもちゃのようなステッキも現実ではまずお目にかかる事が出来ないだろう。

まじまじと観察していると、僕の視線に気づいたのか彼女はおもむろに持っているステッキを此方に向けて振った。

すると、ステッキの先端から星が出ると言う現実ではまずありえない様なエフェクトが起こる。

どうやらそれは星を使った目くらましの様で視界が奪われたのだが、30秒ほどで視界がもどってきた。

そして、絶句した。


視界を奪われた一瞬に何も無い部屋が、まるでライブステージ会場の様に変わっていたのだ。

大きなモニターがついている舞台セット、空にはレーザー光線の光、スモークまで焚かれている。

大掛かりな手品を見せられたそんな気分になる。


『みんなー。ドロシーのライブに来てくれて有難う』

ワー

『最後の一曲になったけど最後まで全力で歌うから皆応援よろしく』

エー


絶句している僕を他所に茶番劇を始める彼女もといドロシー。

しかも彼女の言葉の後には、録音と誰でもわかる様な歓声が流れてくる。


「一体何がしたいんだ」

「もうノリが悪いなぁ。そこはもっと乗ってくれないとさぁ、時間をかけて考えた登場方法が台無しよ」


舞台から降りて来るなりドロシーは不満な表情を作り、聞き捨てならない台詞を言ってくる。


「おいまて。もしかして、僕が10分以上も待たされたのはそれが原因か」

「そうよ」


まじか・・・。僕はこれだけのために苦労させられたのか。

悪びれる様子も無くいうドロシーに頭痛を覚え、頭を抑える。


「なによ」

「もう少し時間に気を配ったほうがいいぞ。人によっては怒られるぞ」

「解ってるわよ。だからやる相手は選んでるって」

「選ぶ前にやめて欲しいのだが」

「無理。退屈だもん」


退屈だもん。と言われても・・・。

ドロシーの発言に不満と困惑を覚え何か言ってやろうと言う衝動に駆られたが我慢し、気持ちを一度落ち着ける。

興奮したまま言い争になっ場合、時間と体力だけが消費される結果にしか成らない気がするからだ。


「退屈なのは解るが仕事をしてくれ」

「もうちょっと私の相手になりなさいよ」

「断る。僕にとって時間とは貴重品だ。くだらない事で消費したくない」

「私にとっては死活問題なんだけどなぁ」

「だからと言って見ず知らずの他人に許可無く押し付けていい物じゃないだろ」

「そうだけどさ」


反論できなかったのか彼女は不満そうに口を尖らせた。

その後、暫く沈黙が続いたがドロシーは諦めたように深いため息を付いた。


「わかったわよ。少しだけ真面目にしてあげる」

「少しだけか」

「それ以上は譲れないわ。私のモチベーションに関わるから」

「それならば仕方ないな」


ここで機嫌を損ね拗ねられると面倒だから彼女の要求を飲む事にした。

それにしても、何故こんなにも気を使わなければいけないのだろう。


「そう。なら、初めにキャラ作りからはじめるわよ」


そう言うとドロシーは手を叩く。

すると僕の目の前に半透明のウィンドウがフワフワと浮いた状態で現れる。

内容を確認すると、どうやらそれにキャラネーム、種族、職業そして容姿をそれぞれ選択しキャラクターを作っていくようだ。


キャラネームに『レイ』と入力し、容姿はデフォルトつまり何も弄っていない自分の姿を使用する。

次に種族と職業を選んでいく。

どちらも種類が沢山用意されていて目移りしそうだが、最初から決めていた物を選ぶ。

それは、どちらもランダムだ。


「大博打を打ったわね。嫌いじゃないわよそう言うの」


ドロシーは心底、楽しそうに言ってくる。

これも説明書に書かれていた事だが、ランダムでしか出ない職業や種族が存在するらしい。

だからと言ってランダムを選べば限定の職業や種族が必ず出ると言うものでもない。

しかも、このゲームはキャラクターの作り直しがほぼ不可能なのだ。

やり直しの聞かないこの場面でランダムを選ぶと言う事は大博打といわれても仕方が無いのかもしれない。


「これで、いいのかしら」

「かまわないぞ」

「はいよ」


ドロシーが手を叩くと、それとほぼ同時に僕の全身が光だした。

その光が眩しくて目が開けられない。

体が光るのはエフェクトは見る側には綺麗だろうが、光っている本人から言わせて貰うとやめて欲しい。

目は痛いし、立ちくらみにも似た感覚に襲われ気持ちが悪い。


それから数十秒ほど、その気持ち悪さと戦っているとようやく光が収まった。

チカチカする目を軽く揉みほぐしゆっくりと目を開ける。

そこには、今にも噴出しそうに笑いを堪えているドロシーが居た。


何故ドロシーがそんな顔になっているのか検討は付いていた。

僕自身、下半身が妙に涼しかったり、頭がちょっと重かったりと体の変化に気づいていたからだ。

改めて自分の格好を確認して見ると、予想道理だったため、ため息しか出なかった。

履いていたズボンがいつの間にかピンクのロングスカートへと変わっていたのだ。


「なぁ。姿見とか無いのか」

「ぷっ・・・もうだめ。ちょっとまって」


我慢の限界だったのかドロシーは声を上げて笑いだした。

それから彼女はしばらく笑いころげていた。

流石にそれは酷いと思う。


「あー。笑った笑った。それで姿見だっけ。今出してあげる」


ひとしきり笑って満足した彼女は一枚の姿見を僕の前に出現させた。

そこに移された自分の姿にどうしてこうなったと思う。


ピンクのゴスロリ風ドレスを身に纏い、頭には王冠、靴も赤い運動に適さないような皮の靴になっていた。

そして、見た目もずいぶん変わってしまっている。

髪型が黒のショートから銀のロングヘアーに変わり、目の色は茶色から緋色に変わっている。

そして、銀色の狐耳に九本の銀色の尻尾が生えていた。

正直、服装よりも見た目のほうが衝撃的だった。

何処のアニメキャラだと言う感じだ。


「何がおかしいって男なのによく似合っているって所よね」

「女顔で悪かったな」

「ごめんごめん。怒らないでよ。可愛い顔が台無しよ」


可愛いで褒められたところで嬉しくない。可愛いとは呪いの言葉だ。

可愛いが為にイベントの度に女装させられ、可愛いが為に異性からからかわれる。

まるで免罪符のように何か事有るごとに可愛いからと言う一言で片付けられる。

それが原因で最近では女装に抵抗が無くなり、その事実を認識するたびに地味に落ち込む。

この苦痛が解るだろうか。解らないだろうな。

なら、きっちりと理解してもらうだけだ。


「あのな。男に可愛いって言うのは、女に男みたいな体系ですねって言ってるのと同じなんだぞ」

「お。お。それは私にケンカ売っているのかな」


そう言うとドロシーはシャドウボクシングを始めた。

それも腰もキレもないただのヘッポコなパンチを繰り出してる。


「別にそう言う意図か有って言った訳じゃない。そう目くじら立てられても困るだけだ」

「どうだか。どうせ、私は胸がないですよ」

「着物とかは胸が無いほうが似合うらしいぞ」

「やめて。フォローが止めになりそう。もういいから次の工程に行こう」

「いやまて、僕の種族や職業はどうなった」

「はいはい。ステータス、ステータスっと」


ドロシーは半透明のウィンドウを出すと投げ寄越してきた。


「つっ・・・。もっと丁寧に渡してくれよ」

「ごめんごめん」


ウィンドウをなんとか受け取り、見てみるとそこには僕の種族と職業が書かれていた。


種族【九尾(銀)】:人の体に狐の耳と尻尾を生えた種族。魔法に長け、幻術魔法を得意とする。

         地域によっては神の使いとして崇拝されている。


職業【姫】:女性及び男の娘限定職業。防具はドレスに分類される物のみ装備出来無くなるが、

      毎月1000万ゴルド程所持金に振り込まれる。


職業が酷い。これは一種の呪いじゃないかと思えるほどには酷い。

何が出ても使いこなすつもりで居たのだが、これは流石にキツイかも知れない。


「種族と職業、どちらもユニークを引いたのだからもっと喜ばないと」


いつの間にか表情に出ていたのだろうか、ドロシーが指摘してきた。

ユニークと言うのがランダムでしか出ない限定な物と言う事らしい。

そう言うことなら種族と職業のどちらもユニークを引けた事と言うのは確かに嬉しい事だ。

しかし、姫と言う職業のせいで目立つ上に多額のお金を持っていると言うPKにはとってカモに適した人物が出来上がってしまった。

実はこのゲームPKが可能で、プレイヤーに殺されると所持金の半分が殺したプレイヤーに入る仕組みに成っている。

そんな中こんな目立つ格好で動き回っている奴が居た場合どうなるか、考えるまでも無いだろう。

ついでにゲーム中はずっと女装しないといけない事は確定した訳でもある。


なんで男である僕の職業が姫なんだ。

普通、王子とかじゃないのか。


「性別を見てみるといいよ」


楽しそうなドロシーに言われるがまま性別を見てみた。

そこには、『男の娘』と書かれていた。しかも、ご丁寧にルビで『おとこのこ』と書かれている。


「なんだこれは」

「男の娘は女顔の男性に与えられる性別らしいわよ」

「嫌がらせか何かか」

「私が知るわけ無いじゃない。あるのは知っていたけど始めて見たし」


姫と言う職業もそうだが、ここの運営は何を思ってこんなものを作ったのだろう。

もし製作者の趣味趣向ならば僕の天敵だ。


「はいはい。気を取り直して次の武器選びに行くわよ。と言っても担当がまだ来てないけどね」

「他に担当が居るのか」

「いるわよ。ここは二人で切り盛りしているからね」

「で、ようやく俺の出番か。まったく何時まで待たせるんだよ」


ふと背後から声がして、振り返りるとそこには一人の幼い少年がいた。


「この子供が担当なのか」

「だれが子供だ。俺はドワーフなんだ。こんな姿だがお前より年上だぞ」

「ドワーフなのか」


さすがに、彼がドワーフと言うことには驚いた。

ドワーフといえば筋肉隆々で髭が生えて手先が器用そして、無類の酒飲みだったはずだがそんな特徴はほぼない。

格好はタンクトップにジーンズ、手にはハンマーと言ういかにも肉体労働者だが、背はかなり小さく筋肉も無いためひ弱そうだ。


「まったく。何故、皆似たような反応しやがるんだ」

「気にしているたのなら謝る。すまなかった。僕の知っているドワーフとイメージがかけ離れていたから驚いたんだ」

「すまん。別にお前にとやかく言うつもりは無かったんだがな。俺はガンツだここで武器選びの手伝いをさせてもらっている」

「僕はレイだ」

「あぁそうそう。今更だけど私はドロシーよ」

「お前まだ自己紹介もしてなかったのか」


呆れた表情をドロシーに向けるガンツ。


「それにしても、職業と種族ずいぶん悩んだようだな。種類が豊富と言うのも考え物だよな」

「いや。ほとんどドロシーの茶番に付き合わされた」

「本当。お前何やってるんだ」

「そんなことよりガンツ時間も押してるしパパッと武器選んじゃってよ」


ドロシーがそんな事を言っているが、時間が押しているのは間違いなくお前のせいだからな。


「ちょっとまってろ今選ぶから。それと、ドロシー。お前は後で覚えてろよ」

「あはは。お手柔らかにお願いね」


苦笑するドロシーを軽く睨みつけ、ガンツは一度消えた。


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