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奴隷

残酷描写ありです。

 城を出ると空は綺麗な茜色に染まっていた。もうすぐ日が暮れるのだろう。城門を出る際に金貨を30枚、それと丸腰では心もとないだろうということでコルネと呼ばれる騎士が一振りのショートソードを俺にくれた。このコルネという騎士、フランクな感じで話しやすい為、人見知りな俺でも気軽に接することができた。


 「マサト。腹減らないか?このまま屋敷に行っても飯はないぞ?一応手入れはしているが、家具や調理器具などはもうないしな。どうだそこの酒場で飯食っていかないか?」


 確かに腹が減った。俺はコルネに頷きついていく。酒場には鎧を着たものやローブを着たもの、頭に獣耳をつけたもの、耳の先端がとがったもの、背が低くて髭もじゃのもの、沢山の種族が集まって賑わっていた。


 「ああ。異世界には人族しかいないんだったな。まあ、気になるのもわかるがあんまりジロジロ見るもんじゃないぞ。」


 コルネは椅子に座りながら、不躾な視線で見ていた俺に注意をする。俺は頷きながら椅子に座る。


 「しかし、お前も変わった奴だな。あのまま勇者殿と一緒にいれば王城で不自由なく暮らせたのに。」


 確かにあのまま城にいれば食うに困らず暮らせただろう。


 「だが、それだと面白くない。せっかく違う世界に来たんだ、向こうで見れないものを見てみたい。」


 ふーんそういうもんかね?とコルネは運ばれてきた料理に噛り付きながら相槌を打つ。


 「しかし、どうやって生活するつもりだ?冒険者になる気か?」


 「ああ、そのつもりだ。」


 「けど剣も握ったことがないんだろ?教えてやりたいのはやまやまだが、俺もこう見えて忙しくてね。」


 いや、いくら俺の為とはいえ王様の命令を後回しにしてモグモグ食ってるやつに忙しいと言われてもな?


 「だとすると、剣の使える奴隷かな?しかし、金貨30枚でくるかな?」


 「奴隷か?確かに裏切れないし命令には忠実だしな。へんな奴を雇って殺される危険性を考えればそっちの方がいいな。」


 ここに向かう道中でこの世界に奴隷制度があることは確認済み、大体が犯罪奴隷らしいが中には食うに困り娘を奴隷商に売る親もいるみたいだ。


 「なら今から買いに行くか?お前一人だとふっかけられそうだしな。」


 「いいのか?騎士がそんな所に行っても?」


 「騎士だから奴隷商に見回りにいくんだよ。」


 俺はうまく返されたと思ったが、こいつただ王城に戻りたくないだけじゃないのか?その後、俺達は酒場を出て奴隷商へとむかった。ちなみに食事代はコルネがだしてくれた。


 酒場から出て10分ほど歩く。騒がしかった酒場のある通りから離れ、次第に薄暗い路地へと変わる。日も暮れて明かりはちらほらとあるだけで、心もとない。


 「この辺は絶対に一人で来るなよ?特に夜はな。巡回の兵もいるがスリ被害が絶えない。金を盗られるだけならいいが命も奪われる可能性もあるから。」


 薄暗い路地を歩きながらコルネについていく。路地の奥に着くと行き止まりで一人のデカい男が剣を腰に差し立っていた。


 「これは騎士殿。見回りですかな?」


 コルネの顔を覚えていたのだろう、番人の男が媚びた声で尋ねてくる。


 「いや、連れが奴隷を買いたいと言ってな。悪いが主人に取り次いでくれないか?」


 コルネが番人に言うと、番人は扉を5回叩く。すると中にも番人がいたのだろう、その番人と入れ替わり主人の元へと報告へ行った。最初の番人が姿をけし5分程で戻ってくる。


 「ではこちらにどうぞ。」


 俺達は番人の後を歩きついていく。廊下の途中にある部屋に通されると、一人の恰幅のいい男が椅子から立ち上がり手もみをしながら近寄ってくる。


 「これはこれはコルネ様。今日はお連れ様が買って下さるそうで。」


コルネから視線を俺に移した奴隷商が眉を顰める。恐らくはこんな小僧が金を持っているはずがない。そう思っているのだろう。奴隷商の顔を見たコルネが俺に肩をすくめる。


 「剣を使える人を金貨20枚で買えませんか?」


 俺は奴隷商の目を見ながら恐らく無理であろうと思いながら聞く。


 「はは・・・冗談でしょう?騎士殿?戦士系の奴隷は最低でも金貨100枚は・・・・。いや、まてよ・・・」


 奴隷商の言葉に半ば諦めていた俺の心に期待感がともる。


 「おい!例のエルフを連れてこい!」

 

 奴隷商が番人に声を掛け番人がでていく。


 「おいおい・・・。エルフだって?それこそ戦士系でなくても金貨300枚はくだらないぞ?」


 コルネは奴隷商を気でも狂ったか?という目で見ている。


 「はは、見ればわかっていただけますよ。」


 俺はエルフと聞き高揚感であふれていた。女の人がいいなぁ・・・。いや、俺も年頃の男だからね?下心ダダありですよ?ニヤニヤと笑みを浮かべる俺を見て嘆息するコルネ。そんな淡い期待もすぐに打ち砕かれた。

 番人が一人の女性を連れてきた。その女性を見て俺は思わず息をのむ。長い金色の髪に顔が半分隠れてはいるが美人だということがわかる。しかし、何よりも目を引いたのは彼女の右半身、右腕がなかったことだ。


 「成る程・・・。だが右腕がないだけで金貨20枚の価値まで下がるまい?」


 うろたえる俺をよそに、コルネは奴隷商に尋ねる。

 

 「当然ですとも!こいつは腕がないだけでも金貨300枚以上はなる美の持ち主です。ですが・・・」


 奴隷商は途中で言葉を区切り、番人に視線を送る。番人は頷きおもむろに女性が纏っているぼろ布を剥ぎとった。


 「ッツ!!」


 俺は一瞬声を上げそうになるが慌てて口をふさいだ。彼女の左胸辺りから大腿部にかけて、大きな火傷の跡があったのだ。


 「それだけではありません。」


 まだなにかあるのかと思う俺をよそに、番人が彼女の顔にかかる髪をゆっくりとどかす。その髪の下にも火傷の跡があったのだ。


 「これは・・・。よく生きてたな?」


 何も言えないで固まっている俺をよそにコルネが奴隷商に聞く。


 「ええ、私もそう思いましたよ。こいつは真人団に襲われたエルフの村の生き残りでしてね。おこぼれを貰いに来た盗賊まがいの奴が、偶然このエルフが生きているのに気付いて持っていたポーションを飲ませたみたで。それで何とか一命を取り留めてうちに売りに来たのですよ。」


 「成る程。まあ、ポーションよりはいい値段になるだろう。」


 コルネが納得し頷く。ようやく落ち着きを取り戻した俺は気になるワードを口にした。


 「真人団っていうのは?」


 「ああ。人族こそ至高の種族と宣言して他種族を殺して回っている殺戮集団だよ。」


俺はその言葉を聞き愕然とする。他種族であるということだけでここまで酷いことができるのかと。


 「その女も運がいいのか悪いのか・・・。まあ、あの真人団の激火のアンナに襲われて生きてるんですから運がいいんでしょうが。」


 奴隷商が言った言葉に今まで虚ろな目で立っていた、エルフの女性が声を上げる。


 「あいつは必ず私が殺すっ!絶対にっ!絶対にっ!」


 興奮して暴れ出した女性を番人が取り押さえる。あまりの出来事に俺とコルネは呆然としていた。


 「あの名前を聞くとこうなるんですよ・・・。で?どうなさいます?買われますか?」


 このタイミングで聞いてくるか普通?だが俺の気持ちは決まっている。


 「買います!」


 その言葉を聞いたコルネは肩をすくめながら


 「やっぱり変わった奴だよお前は・・・」


 そうつぶやいた。



お読みくださり有難うございます。

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