異世界アノマドと鑑定板
気楽によんでください。
「おいっ!起きろ!木村っ!」
誰かに名前を呼ばれゆっくりと目を開ける。先ほどの眩い光は消え、かわりに暗い場所にいた。
「よかった!生きてたんだ!」
姫路さんのその言葉でおぼろげな意識が覚醒し、がばっと身を起こし辺りを見回す。
「どこだここ?」
教室ではない場所に俺は戸惑いながら呟く。
「ここはルノールス王国。この世界アノマドにある、国家の一つですわ。」
俺のつぶやきに鈴のなるような綺麗な声で返答がある。暗いため見えないが他の4人も声がした方に顔を向ける。
「暗きを照らせ、ライト」
再び声が聞こえると同時にバシュッと音がし、突如目の前が明るくなる。いきなりの明るさに目を細めながら不思議な現象に体を身震いさせる。
「いきなりのことで混乱されているでしょうが、我々に敵意はありません勇者様がた。」
俺達が震えているのが見えたのだろう女性が優しい口調で語りかける。
「勇者?」
女性の言葉にいくらか余裕を取り戻した桐生がその女性に聞き返す。
「はい。あなた方は我々がこの世界とは別の世界から召還した勇者様です。ですが説明は謁見の間でしたいと思いますので。」
女性がそういうと後ろの鎧を纏った男達が俺達を囲むように動き出す。俺達5人は顔を見合わせ仕方なくうなずき歩き出した女性を追った。
その時の俺は知らなかったんだ。一つ壁を隔てた部屋の惨状を・・・。
女性の後をキョロキョロとしながら俺達5人はついて行った。正直俺の心は不安と同時に期待感に満ち溢れていた。これはあれだ、ライトノベルとかで見る異世界転移ものだ。俺はそう確信していた。
そんな事を考えながら歩いていくといつの間にか玉座のある部屋にたどり着いていた。
「お連れしましたお父様。」
女性が玉座に座る、増田と同じくらいにゴツイおっさんに語りかける。玉座に座っているということは王様でこの女性はお姫様なのだろう。俺達を囲んでいた鎧を着た男達はすでに脇に並び直立不動の状態だ。
俺達はどうすればいいのかわからず呆然と立ち尽くす。
「うむご苦労だった。アメリア。さて,まずは突如この世界に召還した非礼を詫びよう勇者殿がた。」
少ししわがれた声だが威圧感のある声でそう言い、俺達に頭を下げる。すると王様だけでなく近くにいる大臣だろう思われる男達、それに先ほどの鎧の男達にお姫様も皆が俺達に頭を下げる。俺は偉い人達に頭を下げられ戸惑うと同時に、やられたっ、と思った。
事情はまだ聴いてないが強気に出れる交渉の材料が一つ減った。俺達のような子供に異世界と言えど一国の王様やお偉方が頭を下げたのだ、ここは少しでも溜飲を下げなければいけないだろう。そう思い他の4人を見ると満更でもなさそうな顔を浮かべていた。
(忘れてた。こいつらいい人達なんだよな~。・・・俺はよく変わった奴って言われるけど。)
「さて、まだ召還された事情は知らされてないだろうし質問もあるだろうが、先に言っておくことがある。・・・全てが終われば君達を元の世界に帰すことを約束しよう。」
(くそ!ことごとくこっちの交渉材料を潰していきやがる。・・・召還は初めてじゃないかもしれないな?)
俺が苦い顔をしながら姫様に目を向けると、にっこりと微笑まれた。
(くそ!かわいいじゃねえか!)
女性に免疫のない俺はすぐに目をそらす。しょうがないよな、金髪の超がつくほどの美人に微笑まれたことなんて生れてはじめてなんだから。
「王様?でいいんでしょうか?俺達が呼ばれた理由は?」
俺が姫様の微笑みにモジモジしていると、桐生が王様に尋ねた。
「いかにも、私がこのルノールス王国の国王ルノールス・グリアスだ。勇者殿を呼んだのはこれから起こるであろう魔族との戦いに参加してもらう為だ。」
「戦争ってことですか!俺達は戦った事なんてないですし、ましてや人を殺すなんて!」
桐生が大きな声で抗議し俺達もその言葉に頷く。
「この世界で魔族は人に非ず。確かに人に近い形をしているがその身には、牙があり角もあり翼もある。」
「ですが・・・「出来なければ元の世界に帰れないだけだ。」・・・そんな・・・。」
絶望的な表情を浮かべる俺達に今度は姫様が説明を始める。
「大丈夫です勇者様方。異世界より召還された者は皆、強大な力を持っています。過去に何度も召還されてますので間違いありません。・・・確かに人に近い魔族を殺すことは心が痛みますが、我々も戦わねば殺されてしまうのみなので・・。」
「うむ。それに元の世界に帰るには魔族の王、つまり魔王を倒さねばならない。魔王を倒した際に生じる魔力の爆発、それによって生まれる空間の歪みでしか元の世界には帰れないのだ。まあ、案ずるな勇者殿がた、今まで召還された者は皆無事に魔王を倒し、元の世界に帰っておると我が国の歴史書に書かれておる。」
王様と姫様の言葉で桐生たち4人の表情に余裕が戻る。
「ふむ、何か質問があるかね?」
考え込む俺に王様が尋ねてきた。
「本当に俺達にそんな力があるのでしょうか?」
先ほどから俺は心の中でステータスだの自分の手を見ながら鑑定、とかラノベでは定番の事をやっているが反応はない。
「ある。では早速調べてみよう。」
王様が目くばせすると先ほどの騎士たちが手に石板を持って俺達の前に並ぶ。
「その石板は鑑定板。そこに手を置けば君達の能力がわかる。この世界の者なら皆持っている物だ。生命力、魔力の残量。その者が持つスキルがわかり職業がわかる。残念ながら筋力などは数値化できない。これを開発したのは君たちと同じ異世界人だよ。」
その言葉に驚き俺達は手のひらより少し大きめサイズの石板を見つめる。
「さあ、手を置き鑑定と念じて見てください。」
姫様に促され、俺達は鑑定板に手を置き鑑定と念じる、すると鑑定板がポウッと光、文字が浮かび上がる。俺の隣から喜色に満ちた声が起こる。その声を聞き俺の期待感も跳ね上がるが、鑑定板を持っている騎士が驚いた顔をして俺の顔と鑑定板を何度も見返していた。
その行動に一抹の不安を覚えた俺は、騎士の手にある鑑定板を覗き込む。そして、俺も騎士と鑑定板を何度も見返し驚きの声を上げた。
「な、な、なんじゃこりゃ~~~!」
【名前】 マサト・キムラ LV1
【スキル】 言語理解
【生命力】 120/120
【魔力】 30/30
【職業】 村人
お読みくださりありがとうございます。