第5話 訓練
「はっ、はっ、はっ、はっ」
師匠に弟子入りしてからの日課になっている早朝からの村の周りの走り込みをしながら此の2年を振り返っていた。
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師匠から教えられているのは《格闘術》《槍棒術》《弓術》《投具術》《サバイバルの知識》であった。
《格闘術》は「無手でも身を守れる様に」
《槍棒術》は「これが出来れば武器を選ばなくなれる」
《弓術》 は「狩りに使える」
《投具術》は「弓が使えない時の為」
《サバイバルの知識》は「旅をする時の為に」
という事だった。
弟子入りした日から午前中は訓練、午後は遊びというのが日課だった。
「1日中やらないの?」と聞いたら「子供の1日は大人の1週間より尊い。今を大事にしなさい。」
といわれた。
かと言って訓練は楽という訳ではなく
一言で言うと《生かさず殺さず》だった・・・
早朝から村の周りを走り込み、その後訓練、朝食後また訓練、昼食前に仕上げの手合わせ。
最初の頃は昼食が食べれず夜まで寝てしまう事も多かった。
今では常に重りを付けて日々を過ごしている。
訓練を初めて半年後、師匠がいきなり
「森でキャンプしますっ!」
と言い出し、師匠と二人で森に入ったのだが弓とナイフを渡され「よろしく!」といい笑顔で放り出された時はかなり焦った。
正直5才児を狩りに使うってどうよ?と思ったが口には出さず(言うと拳骨を食らう)獲物を探した。
当時の自分が狩れるのはホーンラビット(一本角がある兎)や小鳥が精々だった。
ホーンラビットを2羽仕留め血抜きを行い、キャンプに戻ろうとした時にヤツに合った。
ボア(牛ぐらい大きい猪)。
バッチリ目があい、笑って見たが既に左前足が地面を抉っていた。
「まずいっ!」
素早く横っ飛びし、木の影に隠れた直後に自分がいた所に突進し通り過ぎそのまま杉の木?にぶつかり倒していた。
「とてもじゃないがボアは無理だし・・・・どうやって戻るか・・・」
隠れて考え込んでいたら隠れていた木に突進してきた。
「やばっ!」
幸い木は倒れなかったが口元に生えている大きな牙を振り回してきた。
ガスッ、ガスッ、ガスッ、ガスッと振り回す牙を木を盾にして捌きつつ必死で此のピンチをどう乗り越えるか考える。
(弓は無理っ、ナイフでも致命傷は無理だろうし、危なっ!)
木を変えつつ何とか野営地に向かうがほとんど進んでいない。
(師匠は来てくれないだろうし・・・危っ!)
牙を捌いた時、ボアの後ろの藪の中にその植物があった。
「あれだっ!!!」
その植物は《ブブカ草》
草の部分には特徴はないが球根がめちゃくちゃ臭い。
余りの臭いの為、気付け薬の原料として使う植物である。
牙をよけるタイミングを合せ藪に飛び込みブブカ草を引き抜く。
「よしっ!」
球根を矢の先に突き差しボアを睨む。
「喰らえっ!」
振り返るボアの大きい鼻に球根付きの矢を思い切り突っ込む。
「ピギィーーー!!!!」
激痛に近い臭いに暴れるボアの牙の一撃を食らってしまい吹っ飛び木に叩きつけられる。
「かはっ」
肺の空気が絞り出される。
「げほっげほっ」と咳き込みつつボアを見やると暴れながら森の奥に走っていった。
「ふぅーーーーーー助かったーーーーーー」
木の根元に腰かけ一息つけると叩き付けられ痛む体を引きずり野営地と足を向ける。
野営地に戻るとテントを設営していた師匠がズタボロな僕を見てびっくりしていたが、ボアをブブカ草の球根で追い払ったと話すと笑って頭を撫でてくれた。
これが僕の初キャンプの思い出だった。