第9話 討伐3
「・・・ここは・・・自分の部屋か?」
目を覚まし、辺りを見渡すともう日も落ちて暗闇に包まれた自分の部屋のベットの上だった。
町の広場に面している窓からは明かりが漏れていた。
いつもなら暗いはずの窓が気になりベットから降りようとした時に目眩をお越し倒れ込む。
「・・・そっか・・・ポーション使いまくったっけ・・・」
ポーションは傷を癒す事は出来ても流れた血までは元には戻らない。
恐らく貧血だろうと当たりをつける。
自身の体を見ると装備は取り外されていて、体に付いていた血も拭き取られていて普段着に着替えさせられていた。
改めて立ち上がろうとすると体全体から鈍い痛みが走る。
「あたたたた・・・・・これは・・・・筋肉痛か?」
恐らくは疾風の短剣使用とグレイグリズリーとの闘いで体を限界まで使用した為だろう。
「・・参ったな・・・どうしよう?・・・」
家具に背をあずけて考える。
誰かを呼ぶ事も考えたが屋敷の中は静かで皆出ているのだろう。
普段暗い広場が明るいので其方に行っているのかもしれない。
自分も行こうとするが、貧血と筋肉痛で歩くこともままならない。
どうするか考えていると部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
「レオン様、起きられましたか?」
執事のロックさんがランタンを手にドアを開けた。
「ロックさん、皆は?屋敷には居ないみたいだけど・・・」
「はい。皆さん広場におりますよ。」
「今日何かあったっけ?」
「レオン様が戦われたグリズリーを皆で捌いているのですよ。肉は熊鍋にするとの事です。討伐も成功しましたし祭りのようですよ。」
「そっか・・あのグリズリーか。」
「レオン様を迎えに来たのですが大丈夫ですか?」
「うん!さっきまでちょっと気持ち悪かったけど今は平気!けど筋肉痛で動けないんだ。」
「でしたら私がお運びしましょう。」
そう言うとロックさんは背を向け腰をおろしてくれた。
「ありがとう御座います。」
礼を言い、背におぶさって広場まで連れていってもらうと既にグリズリーはさばき終わっており、大きな毛皮が干され広場の中央には大きな鍋がいい匂いをただよわせていた。
「レオ坊起きたのか!」
「傷は大丈夫か?」
「お腹減ってない?」
広場に居た町の皆に心配されつつ丸太で作った簡単な椅子に腰掛ける。
「レオン、起きたのね。」
声がした方に顔を向けると母様が此方にやって来た。
「母様!ご心配をおかけしムギュ」
喋ってる途中でだきしめられた。
「レオン・・流石にグリズリーは無理でしょう?何で逃げなかったの?」
抱きしめられながら母様が責める訳ではなく聞いてくる。
「僕が逃げればロイが殺されていました。それに僕なら応援がくるまで逃げきる自信があったんですが・・・ごめんなさい。」
「お義理母様が間に合ったからよかったけどもう無理しちゃダメよ。」
「はい母様。」
母様の抱擁から開放されると師匠がお椀を持って此方にやって来た。
「はい、レオン。お腹空いてるでしょ?」
熊鍋の具が入ったお椀を渡してくれた。
「ありがとうございます!もうお腹空いちゃって。」
「ポーション使うとお腹空くからね、いっぱい食べなさい。」
ポーションによる傷の治療に多くのカロリーを使う為、使用後はお腹が空くのである。
食事をしているとドムさんがロイを連れてやって来た。
「レオ坊、今日はありがとな。」
「いえ、運が良かっただけですよ。」
「ほらお前ももお礼しないか!」
ドムさんに頭を叩かれロイが前に出て来たがその頬が赤く腫れていた。
「わははははは!!!ロイその顔どうしたの?」
「・・・父さんに殴られた・・・・」
ロイが憮然とした表情で呟く。
「ひーひーっその顔見たら文句いえないよ。」
「・・・助けてくれてありがとう。」
その後、何故あの場にロイがいたのか?と言う話になったのだがロイは僕が討伐に参加しているから自分も出来ると思い森に入ったそうだ。
その事を聞いたドムさんに拳骨を食らってロイが目に涙を浮かべていた。
結局このままではロイもいつか怪我をするかもしれないからということで一緒に稽古をする事になった。
「そういやレオ坊の装備は殆どダメだったわ。」
「やっぱりそうですか・・・仕方ないですよ。命が助かっただけで良かったし・・・」
僕が気絶した後、装備類はドムさんが回収してくれていて無事な武器は疾風の短剣と小柄が数本、防具は靴のみだった。
「お礼っちゃなんだが代わりの装備はウチが用意するからよ。」
「ありがとうございます。けど大変じゃないですか?」
「息子の命が助かったんだ、安いもんだ。」
ドムさんが豪快に笑う。
周りを見るとお酒を飲んでいる人もチラホラ見かけ、広場は笑顔で満たされていた・・・・。