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明日に備えて  作者: 泉子
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第3話

 「俺は3年の小池。で、こっちが松島有。岸本って呼んでいい?ところで、河崎さんのお家で何してたの?」竜太が自分と有の紹介をした。岸本が年下だと分かって口調がいくらかくだけたものとなった。 

 「あ、いいですよ。それと、美並の家の前でやってたことですか?これ言っちゃっていいのかなぁ。ま、いいか」岸本は一瞬躊躇って考えたようだか、自己完結をしたようで話してくれるようだった。さっき知り合った人に身元ははっきりしているとはいえ、ここまで話していいのかと有は岸本の将来を少しだけ心配になった。

 「弟に頼まれたんです。美並には高校生の婚約者がいるんですけど、俺の弟は美並のことが好きらしくて、その婚約者が美並に接触しようとしてきたら何とか邪魔してくれって。その婚約者とも一応知り合いなんです。幼馴染で」岸本が話す。その表情からは弟思いの兄そのもので、その声音からは協力してくれと訴えているようにも思えた。弟は高1で、体が丈夫では無いそうだ。ただの高校生たちがこの婚約者を邪魔するのは困難に思えた。高校生なのに婚約者がいるということは、親の意思も関係しているに違いない。いわば大人の事情であり、くちを突っ込むのはよくない面倒ごとに発展する可能性もあるわけだった。

 

 岸本の話を聞いていると有の頭に1つの仮説が浮かんだ。

「その婚約者って小沢っていう名前?」有が訊いた。岸本が目を丸くした。 

  

 「そうです。どうして知っているんですか」岸本が訊く。さりげなく竜太の方を見遣ると、ピンときた顔をしていた。

 「実は俺たち、小沢雅人…多分その婚約者だと思うんだけど、そいつに河崎美並について怪しいところが無いか調べてくれって頼まれたんだ」竜太がばらした。それから、今までに至る出来事を岸本に詳しく語った。

 「ということは、向こうは向こうで何か企んでいるでしょうか」岸本が心配そうな顔つきで言った。そして、竜太と有の方を縋るような目で見つめ、

「何とかして、雅人から真意を聞き出せないですか?」と言った。

 「いいよ、さりげなく訊いてみる。でも向こうの考えていることが俺たちに不利益になるものじゃなかったら、岸本たちのことを小沢に言ってもいいかな?俺、小沢から依頼を受けているわけだから早く解決してしまいたいんだよね」竜太が小沢に言った。有と竜太にしても調査が行き詰っていたので、これで終止符を打ってしまうのに絶好のチャンスだった。 

 「人っていざという時に何が出来るかが大事ですね」岸本が切なげに呟いた。


 その翌日、竜太と有は小沢から河崎美並を調べている目的を聞き出すために特進クラスの教室に向かった。 有は岸本が昨日別れ間際に自嘲気味に呟いた言葉が気になっていた。母の出来事が思い出されて胸がむかむかした。そのこともあって今日の有はなんとなく投げやりな気分になっていた。

 長い廊下を歩き特進クラスの扉の前に来ると、有は乱暴に扉を開けた。隣で竜太がぎょっとした顔をしていた。小沢はいないかと呼びかけるとすぐに本人がやってきた。3人は教室の入り口付近に溜まってしばらく当たり障りの無い会話をしてから本題に移った。

 「あんた、河崎美並の婚約者らしいじゃない。なんで竜太に彼女のことを調べさせてるの?」有が言った。小沢は攻撃的な物言いに多少驚いていた。竜太は有の直球的な発言に咎めるような視線を送った。

 「有、もっと慎重にしろよ。逆に話さなくなるかもしれない」竜太が抑えた声で有に言った。いつに無く攻撃的な有の様子に戸惑っているようだった。

 「いいよ、そこまで知ってるんだったら。調べろって依頼したんだから、知られて当然と言える。」小沢がけろりとして言った。むしろ、半分冗談で依頼したのに案外役に立つな、と感心してる様子だった。

「好きな人がいるんだ」小沢がいくらか照れくさそうに言った。

「だから美並とは結婚しない。美並に男でもいれば、取りやめにするきっかけにでもなると思ったから小池に頼んだ。以上」小沢が早口で言った。

 それから少しの沈黙があった。

 「なんだ、問題解決だ」竜太が拍子抜けした様子で言った。

 岸本によると、岸本の弟と河崎美並はお互いに両思いらしい。二人ともお互いの気持ちは知らないが、岸本にたびたび相談していた。そのことを小沢に伝えると、二人を知っている小沢は「やっぱり」とうれしそうに言った。

 「それじゃあ、どうする?」有が誰に尋ねるでもなく訊いた。有もすっかり毒気を抜かれたようだった。

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