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明日に備えて  作者: 泉子
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第1話

 「現在午後5時46分!ターゲットの行動に変わったところはありません、隊長!」そんな声が閑静な住宅街に響く。都市から近いにも関わらずこの地域には敷地面積のやたら広くて豪華な家が立ち並ぶ。ずっしりとした門扉、そしてここの住民たちは大抵、血統書付きのドーベルマンか何かを番犬として飼っていたりする。つまりここに住む人たちはお金持ちなのである。

 松島有は、手元の写真を見る。写真にはふわふわくるくるとした髪型の愛らしい美少女がにっこりと微笑んでいる。写真に写っている彼女の名前は河崎美並。有と有の幼馴染である小池竜太の、今回の仕事のターゲットだ。

 竜太は、通う学校の生徒から依頼を引き受けて何でも屋もどきを開いている。なぜかというと竜太は親から小遣いを貰っているものの金遣いが荒いのですぐにお金がなくなるからだ。貰ってから3日でお金が消えてしまうので、常時金欠状態だといえる。竜太の両親は『太郎のパン屋』などというふざけた名前のパン屋を経営していて、その店が割りと賑わっていて忙しい。だから竜太はパン屋の手伝いをしていてバイトが出来ない。なので気軽にこなせる依頼だけに対応し、何でも屋もどきでお金をちまちまと稼いでいる訳だ。

 

 「有、この軍隊口調ごっこやめにしない?疲れるんだけど。てか、そもそも何で有が隊長なんだよ!勝手について来たくせに!」双眼鏡を手に持った竜太が堪え切れないといった顔で叫ぶ。有と竜太はターゲットが帰宅するところを尾行していた。

 「小池隊員、黙りたまえ!勝手に私がついて来ただと?お前みたいな野郎が一人で美少女の後をこそこそつけていたりしたら、お巡りさんに職質されるのがオチだろうがよぉ!私がいるおかげで今迄怪しまれずに済んだんだ!むしろ感謝してほしいね。だから私が隊長だ!」乱暴な口調で言い捨てられ、竜太は唖然とする。

 有は見た目こそしっかりしているまともな人に見えるが、中身はグダグダだ。竜太に対しては、『わがまま』と『適当』を足して2で割った様な態度で接する。そもそも軍隊といいながら、二人とも軍隊の階級なんて『隊長』と『隊員』があるということぐらいしか分からない。適当だ。

 「もういい。軍隊口調はやめね。とにかく3Bの小沢からの依頼『河崎美並に怪しいところがないか探ってくれ』っていうやつ、金に釣られて引き受けるんじゃなかった。美並ちゃん全然怪しいところがない。迷子の女の子のお母さん探してあげたり、むしろいい人だし。」竜太が冴えない感じで呟く。

 「もうさぁ、適当でいいじゃない。捏造しちゃえば?『河崎美並は不良っぽい男と付き合っています』とかなんとか。もしくは、ミスター・眼鏡に言えば?『この仕事は出来ませんでした』って」さっきの言葉を聞いた有が、さも他人事だとでもいう風に言う。ついでにいうと、ミスター・眼鏡とは仕事を依頼した小沢雅人のことだ。小沢は顔良し、頭良し、加えて眼鏡という乙女ゲームのキャラクターみたいな容姿ををしている。凡人には近寄り難いオーラを纏っていて、みんな会話の中で彼を指すときは遠巻きにミスター・眼鏡と呼ぶ。

 

 「駄目!俺は請け負った依頼はしっかりこなすし、結果も捏造しない!金貰ってるんだから精一杯、誠意を尽くしてやるんだよ!」竜太が憤慨して叫ぶ。これだけは譲れない、竜太のポリシーだ。 

 「分かったよ、もー。竜太は変なところで真面目で誠実なんだからぁ。学校の課題とかは隣の席の中島から丸写しするくせに。まぁそれは置いといて、河崎美並について判ったことは彼女がお金持ちの家の娘さんっていうことくらいだね。あとは根っからのお人よしって事くらいか。それよりさ、あれに気がついてる?竜太」 

 有がそう言って指で指したのは、美並の家と思われる豪邸の門の前に立っている黒ずくめの男だった。有の視力は低いので、若い男もしくは中年男性かが分からない。分かるのは男の身長が結構高いということだ。背筋がきちんと伸びているのでお年寄りとは考えにくい。男だと判断したのは、けして太ってないながらもがっしりとしたシルエットで女性的な感じがしないからであった。

 「うわっ、何あいつスッゲー怪しいんだけど。今気がついた。てか不審者?」竜太が眉を顰めて言う。今まで大きな声で会話していたが、怪しい男に気がつくと無意識に声が小さくなってしまう。

「男は若い?それとも中年?」有が竜太に尋ねる。竜太はゲーム・パソコン類を一切しないためか、同年代の男子高校生と比べると格段に目が良い。有と竜太がいるところから、美並の家の門は50メートルほど離れているが竜太にならば見えることだろう。                    

 「あー…若い男だ。というよりあいつが着てる黒い服って学生服だぞ。てか、うちの学校の生徒だよ!」竜太は男を指差して思わず大きな声を出してしまう。

「竜太、静かに!河崎美並がもうすぐ家に着きそうだよ!あっ、男が何か向こうに行っちゃった。美並は男に気がついてないみたい」美並が男に気がついていないのは男は美並から死角の所に立っていたからだろう。美並が家の前に来ると、男はサッとその場を離れてしまった。

 美並が完全に家の中に入ってから1分ぐらい経っただろうか。すると男がまたさっきの場所に現れた。男はしばらく美並の家をじっと見つめていた。かと思うと、おもむろに美並の家に背を向けて歩き出した。多分、この場から撤収するのだろう。

 「怪しい、怪しい、怪しい!あの男、うちの学校の生徒なんでしょ?もしかして河崎美並のことが好きで好きで、ストーカーしてるのかも。じゃないと本人に隠れて家の前まで来る理由が分からない!」有が、女の敵!とでも言うように男の背中を睨みつけて言う。

「まぁまぁ。なにもそうと決まった訳じゃないし。」竜太が有を宥めるようにして言う。

「バカ!何かあってからじゃ遅いんだから!犯罪の匂いがするよ!私、ちょっとあの男に話しかけてくるね!」そういうと有は男の方に駆け出してしまった。竜太は止めようとしたがもう手遅れだ。昔から有は、確固たる証拠もないのに無理やりに決め付けては突っ走っていた。竜太はそのたびに有の尻拭いをやらされるのだ。今回もそうだろう。

ジャンルを「文学」から「その他」に変更しました。

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