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ビビリなのに幽霊が寄ってくるんだが!?〜昭和オカルト作家・小野田レイの怪異取材録〜  作者: 雪だるま


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41 二千三年

 2003年。


 東京。


 秋。


 午後。


 神保町。


 古びた雑居ビルの最上階。


 そこが今の小野田レイの仕事場だった。


 壁一面の本棚。


 海外ホラー。


 民俗学。


 昭和怪談。


 地方史。


 映画ポスター。


 そして。


 大量の賞状とサイン本。


『日本ホラー大賞受賞』


『映像化作品多数』


『実話怪談ブームの先駆者』


 かつて。


 クソ汚いアパートでカップ麺をすすっていた大学生は。


 今では。


 かなり名の知れたホラー小説家になっていた。


「のだぁ……」


 なお。


 本人はソファで寝転がっていた。


「締切嫌なのだぁ……」


 人間、根本は変わらない。


 四十代。


 独身。


 売れっ子。


 そして。


 ダメ人間だった。


 部屋には高級コーヒーメーカー。


 高そうなオーディオ。


 映画DVD。


 海外版ホラー映画ポスター。


 金はある。


 かなり。


 だが。


 机は相変わらず汚かった。


「のだぁ……」


 レイは眼鏡を外した。


 昔みたいなサングラスは最近あまり使わない。


 代わりに。


 “気難しい文化人風”になっていた。


 なお。


 実態は変わってない。


「先生」


「のだぁ?」


 担当編集者が入ってくる。


 三十代男性。


 疲れた顔。


 長年レイに振り回されている。


「新人連れてきました」


「新人ぁ?」


 レイは気だるそうに起き上がった。


「また吾輩の奇行を見て辞める人なのだぁ?」


「自覚あるなら改善してください」


「無理なのだっ♡」


 編集者が溜息を吐く。


「入っていいよ」


「失礼します」


 扉が開く。


 その瞬間。


 レイの動きが止まった。


「…………」


 入ってきた女性。


 二十代前半。


 黒髪。


 静かな目。


 白い肌。


 どこか薄い雰囲気。


 そして。


「…………」


 シズカに。


 そっくりだった。


「…………」


 レイ、完全停止。


 空気まで止まったみたいだった。


 女性はぺこりと頭を下げる。


「新人編集の白崎静香です」


「…………」


 静香。


 シズカ。


「…………」


 レイの顔色が変わる。


 編集者は気づかない。


「先生?」


「……のだ」


「はい?」


「…………」


 レイは珍しく言葉に詰まった。


 頭の中。


 二十年前。


 クソ汚いアパート。


 映画。


 髪を逆立てる幽霊。


『楽しかった』


 全部一気に戻ってくる。


「…………」


 静香は少し困った顔をした。


「……あの」


「のだぁ!?」


 レイ、急に復活。


「い、いやぁ!新人なのだぁ!?」


「はい」


「若いのだぁ!」


「先生、失礼です」


 編集者が呆れていた。


 レイは静香を見つめていた。


 似ている。


 かなり。


 喋り方は普通。


 でも。


 雰囲気。


 表情。


 目。


 似すぎている。


「…………」


 静香は少し居心地悪そうだった。


「……何か?」


「のだぁ……」


 レイは咳払いした。


「座るのだぁ」


「ありがとうございます」


 静香がソファへ座る。


 レイ、まだ見てる。


「…………」


「先生?」


「のだぁ!?」


「顔怖いです」


「違うのだぁ!!」


 レイは慌ててコーヒーを飲んだ。


 熱い。


「のだっ!?」


 舌を火傷する。


 編集者が呆れていた。


「先生ほんと変わらないですね」


「吾輩、若々しいのだっ♡」


「精神年齢が?」


「失礼なのだぁ!!」


 静香は少し笑った。


「ふふっ」


「…………」


 レイ。


 また止まる。


 笑い方まで少し似ていた。


「のだぁ……」


「先生?」


「……なんでもないのだぁ」


 レイは窓の外を見た。


 東京。


 2003年。


 携帯電話。


 ネット。


 平成。


 時代は変わった。


 でも。


 急に。


 昔が戻ってきたみたいだった。


 静香が鞄から原稿を出す。


「先生、次回作の件なんですが」


「のだぁ?」


「最近、地方伝承系また人気戻ってます」


「ほう」


「特に“実話風”」


 レイは少し笑った。


「まだ好きなのだなぁ、みんな」


「先生が流行らせたんですよ」


「のだっ♡」


 レイ、即復活。


「当然なのだっ♡」


 編集者が死んだ目。


「出た」


 静香は原稿を開く。


「それで今回なんですが」


「のだぁ?」


「“橋”をテーマにどうでしょう」


「…………」


 レイの手が止まる。


「橋?」


「はい」


「…………」


 静香は普通に続ける。


「人が渡る場所って、昔から境界扱いされやすいので」


「…………」


「怪談と相性良いかなって」


 レイは黙っていた。


 赤い橋。


 桜。


 霧。


 白い着物。


『どうかもう追わないで』


「…………」


 静香が首を傾げる。


「先生?」


「のだぁ……」


 レイは少し笑った。


「良いのだぁ」


「本当ですか?」


「橋は強いのだぁ」


 静香も少し嬉しそうだった。


「良かった」


 その瞬間。


 風が吹く。


 窓が少し揺れる。


 パラ……


 机の上の古い映画チラシが落ちた。


『ローマの休日・リバイバル上映』


「…………」


 静香が拾う。


「あ、これ古いですね」


「…………」


 レイはそれを見る。


 二十年前。


 残されていたチラシ。


「先生?」


「……のだぁ」


 レイは少しだけ笑った。


「昔、映画好きの知り合いがいたのだぁ」


「へぇ」


「変なやつだったのだぁ」


 静香はなぜか少し微笑んだ。


「先生の知り合いなら、変な人そうですね」


「のだっ♡」


 レイは笑った。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 昔みたいに。

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