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ビビリなのに幽霊が寄ってくるんだが!?〜昭和オカルト作家・小野田レイの怪異取材録〜  作者: 雪だるま


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16/41

16 取材

 雪代館。


 二階客室。


 押し入れの前。


 異様な光景だった。


 編集者から見ると、小野田レイが押し入れへ向かって一人で大騒ぎしているだけである。


 しかもさっきまで目潰ししていた。


 意味が分からない。


「でぇ!?なんで幽霊やってますのだぁああ!?!?」


 レイは押し入れへ身を乗り出していた。


「遺産相続で負けたとかなのだぁ!?不倫した妻に殺されたとかなのだぁ!?それとも事業で失敗して旅館で死んだ迷惑客なのだぁ!?」


「…………」


 押し入れの奥。


 男幽霊はめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。


「お前さぁ……」


「のだぁ!?」


「失礼すぎない?」


「取材なのだっ♡」


 レイはメモ帳を構えた。


 目が完全に金の目だった。


「人間、悲しい話大好きなのだぁ!」


「最低だなお前」


 一方。


 現実側。


 編集者は真顔で煙草を吸っていた。


「……また始まった」


 女中はまだ少し笑いを引きずっていた。


「小野田さんって、普段からこうなんですか……?」


「最近特に悪化した」


「のだっ♡」


 レイだけが会話に割り込んだ。


「売れっ子特有の取材力なのだっ♡」


「押し入れ相手に?」


「本物なのだぁ!!」


 編集者は完全に流していた。


 だが。


 女中は少しだけ不思議そうだった。


 さっきからレイ、妙に“会話”が成立しているように見えるのである。


「…………」


 白衣の女幽霊は静かに押し入れを見ていた。


「……答えてあげれば……?」


「嫌だよ」


 男幽霊は即答した。


「なんでこんな変なやつに人生語らなきゃいけないんだ」


「のだぁ!?変とは何なのだぁ!!」


「初対面で目潰ししてくる奴が変じゃなかったら何なんだよ」


「恐怖からなのだぁ!!」


「知らねぇよ」


 レイはムッとした。


 だが。


 諦めない。


 なぜなら。


 ネタになるからである。


「のだっ♡ほれ!話せなのだっ♡」


 メモ帳を押し付ける。


「昭和の読者は“人間ドラマ”に弱いのだぁ!」


「うぜぇ……」


 男幽霊は露骨に顔をしかめた。


 レイはさらにグイグイ行く。


「昔は何してたのだぁ!?番頭なのだぁ!?借金まみれの放蕩息子なのだぁ!?愛人トラブルなのだぁ!?」


「偏見ひどすぎるだろ」


「旅館怪談はだいたいそうなのだっ♡」


 白衣の女幽霊は静かに思った。


「……偏った知識……」


 すると。


 男幽霊が大きく溜息を吐いた。


「……別に大した話じゃねぇよ」


「のだぁ?」


「普通の客だ」


「のだっ♡」


 レイ、即メモ。


「普通の客ぅ!!」


「書くな」


「続けろなのだっ♡」


「うぜぇな……」


 男幽霊は押し入れの奥で胡坐をかいた。


「昭和四十年代くらいかな……」


「のだぁ」


「仕事失敗してさ」


「のだっ♡」


「会社潰れて」


「強いのだぁ!」


「嬉しそうにするな」


 レイは真剣にメモしていた。


 完全に仕事モードである。


「で?」


「疲れてこの旅館来た」


「のだぁ」


「酒飲んで」


「のだぁ」


「雪の日に外出て」


「のだぁ」


「そのまま崖から落ちた」


「…………」


 沈黙。


 レイは数秒止まった。


「……のだぁ」


「なんだよ」


「思ったより普通なのだぁ……」


「悪かったな」


 男幽霊は不機嫌だった。


「もっとこう、“呪いの秘宝”とか“血塗られた遺産”とかあると思ったのだぁ……」


「昭和サスペンスの見すぎだろ」


「のだぁ……」


 レイは少しガッカリしていた。


 最低だった。


 一方。


 編集者側から見ると、レイは押し入れへ向かって一人でブツブツ喋ったあと、急に「あー普通なのだぁ……」とか言い始めている。


 普通に怖い。


「……本当に大丈夫かあいつ」


 編集者が真顔で呟いた。


 女中も若干引き始めていた。


「でも……」


「ん?」


「なんか会話してるみたいですよね……?」


「やめろよそういうの」


 すると。


 レイが突然振り返った。


「のだっ♡」


「うわ」


「取材成功なのだっ♡」


「だから誰と話してんだよ」


「企業秘密なのだぁ!」


 レイはニヤニヤしていた。


 だが。


 男幽霊はまだ押し入れで不満そうだった。


「……お前さぁ」


「のだぁ?」


「人の死をネタにしすぎじゃね?」


「のだっ♡」


 レイは即答した。


「仕事なのだっ♡」


「最低だなお前」


「お金は大事なのだぁ!」


 男幽霊は呆れていた。


「お前、将来絶対ろくでもない大人になるぞ」


「未来の文化人なのだっ♡」


「胡散臭ぇ」


 その時。


 白衣の女幽霊が小声で言った。


「……でも」


「のだぁ?」


「……ちょっと楽しそうに話してた」


「…………」


 男幽霊が少し黙る。


「……まぁ、死んでからこんな騒がしい奴来たの初めてだけど」


「のだっ♡」


「押し入れに目潰ししてきたのも初めてだ」


「名取材なのだっ♡」


「違う」


 レイは得意げにメモを閉じた。


「うむっ♡記事になるのだっ♡」


「ほんと最低だな」


 すると。


 廊下の奥。


 ギシ……ギシ……


 何かの足音が聞こえた。


「…………」


 男幽霊の顔が変わる。


「……あ」


「のだぁ?」


「別館のやつ起きた」


「のだぁ?」


「やべぇな」


「のだぁぁぁ!?」


 レイの顔色が一瞬で青くなった。


「何なのだぁ!?」


「お前ら来たから機嫌悪いかも」


「やめるのだぁぁぁ!!」


 レイは編集者へ飛びついた。


「帰るのだぁ!!今すぐ帰るのだぁ!!」


「記事書け」


「ブラックなのだぁぁぁ!!」

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