僕の王子様
***BL*** 幼い頃から従兄弟のガーネットが好きだった。でも、彼には婚約者がいる。僕は諦めるしか無かった。 ハッピーエンド
彼は、僕の従兄弟。
僕は、男爵家の長男。
大好きな彼は伯爵家の三男。
彼、ガーネットは僕の大好きな人だ。
でも、彼には婚約者がいた。同じ伯爵家の御令嬢。
正式な婚約はまだだけど、ガーネットが高等部に上がれば婚約式をして、いずれ結婚をする。
僕は、小さな頃から彼の事を諦めていた。
*****
ガーネットの婚約者は、彼より二つ年上。
二人が結婚すれば、ガーネットは彼女の家を継ぐ事になる。彼女には兄弟がいないから、、、。
一人娘を育てた彼女の両親は、彼女を強く強く育てた。
まるで公爵家の娘の様に。
いつでも王家に輿入れ出来る様に。
実際、そんな事はあり得ない。彼女は伯爵家の長女だから。
でも、彼女は気高く、美しい。
学園内でも、凛々しく立ち振る舞う。彼女を慕う令嬢も多く、令息達も一目置く。
、、、但し、僕には意地悪だ、、、。
分かっている。僕がガーネットのお気に入りだからだ、、、。
でも、お気に入りだからって、僕達が結婚出来る訳が無い。婚約者は、貴女なんだから、、、。
彼女が僕を嫌う必要は無いのに、、、。
バシャッ!!
え?、、、何?痛い、、、。
いきなりの水浸し、、、。嘘でしょう?、、、。
流石にこれは、、、。
呆然と動けずにいると、校舎の二階の窓からクスクス笑う声が聞こえた、、、。
顔を上げて、二階を見るのが怖い、、、。
僕は、足元の水溜りを見るしか出来なかった。
濡れた髪から、雫が垂れる。ため息を吐いて、救護室に行く為に校舎に入った。
今までも、ひそひそ陰口を言われたり、物を隠されたりした。
隠された物はいつの間にか出て来るんだ。
それは、高等部に入ってから始まった。
ガーネットが正式に婚約して、一月程してから、、、。
最初は気の所為だと思っていた。でも、最近はそうじゃないと気付いている。
「マーシャルッ!」
ガーネットが廊下の先で僕を見つけた。
僕の肩が弾かれた。まさかガーネットに見られるなんて、、、!
「どうしたんだっ?びしょ濡れじゃ無いか!」
走り寄りながら心配してくれる。
「急に雨が降って来て、、、」
彼は、廊下の窓から空を見上げた。
「こんなに晴れてるのに?」
「えへへ、、、」
僕は笑って誤魔化す。
、、、涙が出そうだ、、、。
「俺も救護室に行くよ」
「でも、、、授業が、、、」
「良いの、良いの。たまにはね」
そう言って、手を繋いでくれた。
ありがとう、、、。
**********
マーシャルが、びしょ濡れで立っていた。
訳が分からないまま、走る。
「急に雨が降って来て、、、」
分かりやすい嘘を吐かれた。
高等部に入学してから、彼は偶に淋しそうな、どうにもならない何かを抱えている様な、そんな顔をする時があった。
**********
今日は一限から選択科目で、移動教室。授業が終わり、教室に戻ると鞄が無い。
あれ?此処に置いたのだけど、、、。
僕は辺りを探す、見当たらない。
「あの、、、」
隣の席の子に聞いても首を振るだけ。僕は確かに椅子の背凭れに掛けた筈だったのに、、、。
何処かに起き忘れたのかな?教室の中をあちこち探す。ロッカー、掃除用具入れ、ゴミ箱、、、何処にも無い。
こんな所にある訳ないと思いながら探す。
これじゃあ、授業が受けられない。
僕は、窓の外も見た。
「、、、!」
中庭の噴水の中に、黒い影が見えた。
鞄が沈んでいる、、、。多分僕の鞄だ。
移動教室で、部屋を空けた隙に、誰かが悪戯したんだ。それにしても噴水に入れるなんて、、、酷い。
僕は急いで鞄を見に行く。
鞄は、投げ入れられたみたいに、噴水の奥の方に有った。仕方無く、靴と靴下を脱ぎ、ズボンを膝の上まで捲る。
嫌だな、、、。噴水だから、水はいつも循環しているだろうけど、落ち葉は浮かんでいるし、砂や小石が沈んでいる。
僕は我慢して足を入れた。
教室から人の声が聞こえて来る。僕が噴水に入っているのに気が付いたんだ。
恥ずかしい、、、。
「あら、ご覧になって、マーシャル様があんなお姿で、、、」
みんなの声が聞こえて来る。それでも、鞄を取りに行かないと、、、。
「うわっ!」
池の奥は一段引くくなっていて、気付かなかった僕は水の中で転んでしまった。
皆んながドッと笑った。
先日と言い、今日と言い、濡れてばかりだな、、、。僕は悲しくて、涙が出た。
クスクス笑うのが聞こえて来る。濡れた袖口で涙を拭く訳にもいかず、肩口のシャツで拭いた。
転んだ拍子に小石を踏んだのか、足の裏が痛い。
鞄を拾い、池を出る。
鞄からは大量の水が出て来た。ノートも教科書もびしょ濡れで、コレをどうしたら良いか分からない。
取り敢えず、重たくなった鞄を抱えた。
向きを変えると、どこにそんなに水が入っていたんだと思う位、大量の水が出た。
先生に事情を話しに行こうと校舎に入ろうとすると
「お待ちなさい」
声を掛けられた。ガーネットの婚約者ディアドラ嬢だ。
「貴方、その汚い格好で校舎に入るのかしら?」
「でも、、、」
「私に言い訳を為さるおつもり?貴方、男爵家の方よね?」
「はい」
「そこで、暫くお待ちなさい」
ディアドラ嬢は、後ろに立つ女性に
「先生を読んで来て下さる?」
と言って、扇子で口元を隠して何かを告げた。
「貴方は先生がいらっしゃるまで、そこを動かない様に、床が汚れてしまうわ」
そう言うと彼女達は、授業が始まるからと教室に戻ってしまった。
*****
先生はいつまで経っても来なかった。
濡れた身体に冷たい風が当たり、どんどん冷えていく。僕の身体はゾクゾクと寒気がし始めて、立っているのがやっとだった。
辛い、、、。伯爵令嬢に此処で待てと言われて仕舞えば、動く訳にはいかない。座る事もしゃがむ事も出来ない。せめて、壁に寄り掛かる事が出来れば良いのに、、、。
でも、もう無理だ、立っていられない。僕はその場にそっと座り込み、床に身体を預けてしまった。
*****
それから、僕の体調は最悪で、何日も高熱が続き、ずっと寝たきりだった。
熱が下がっても、身体は怠く、起き上がる事が出来ない。
僕は十日程学園を休み、やっと明日から通う許可が出た。
ノックの音がして、侍女がガーネットの訪問を告げる。
「どうぞ」
と返事をすると、ガーネットが可憐な花束を持って入って来た。
「具合はどう?」
「ずっと寝たきりだったから、少し体力が落ちてしまいました」
半身を起こした僕の横に座る。
花束を僕に差し出し
「マーシャルの好きなガーベラだよ。薄いピンクとオレンジだ。可憐で君によく似合う」
「ありがとうございます」
可愛い花束。癒される。
自然に笑顔になる。
「生けて貰っても良いですか?」
「勿論」
侍女に
「リボンは捨てないで」
と伝えて、お願いした。
「君がびしょ濡れだったと聞いたよ。あの救護室の日から体調が悪かったの?」
ガーネットは、噴水の件を知らないのかも知れない。
心配を掛けたく無かった。
「冷たい風に当たってしまったからだと思います」
「君のいない学園は淋しかった。いつから登園出来るんだ?」
「明日からですが、半日だけになると思います」
「そうか、、、迎えに来ても?」
「宜しいのですか?」
「此方まで馬車を回すよ」
「ありがとうございます」
僕は素直に嬉しかった。
*****
ガーネットの婚約者が決まるまで、僕達は兄弟の様に育った。
爵位の違う伯爵家と男爵家でも、母上同士が姉妹で仲が良かった。彼女達のお茶会の度に、お互いの屋敷を行き来して遊んだ。
ガーネットの兄様達は、少し歳が離れていて友人達と遊ぶ事を選ぶ。だから、いつも僕とガーネット、そして妹の三人で遊んでいたんだ。
「お兄様ったら、またガーネット様にお話ししなかったの?」
妹のリズは事情を知っていた。
「ディアドラ様は、、、酷いわ、、、」
「リズ、、、ガーネット様の婚約者だから、そんな事を言ってはいけないよ」
僕は小さく笑う。
「ガーネット様はご存知無いのよ。鞄を噴水に投げ入れたのだって、きっとディアドラ様よ。本人では無く、多分誰方かにやらせたのよ」
「例えそうであっても、証拠も証言も無いし」
「私のお友達も、ディアドラ様が怖いと言っていたわ、、、彼女も、一時期目を付けられていたから、、、。兎に角、お兄様は、二回も水浸しにされたんだから、気を付けて下さいませ」
「ありがとう。大丈夫だよ」
「もう、危機感が無いのですわ!」
と、言いながらリズはお菓子をパクッと口に入れた。
*****
「お早よう、マーシャル。迎えに来たよ」
「ガーネット様、お早よう御座います」
彼は、僕の手を取り馬車に乗せてくれる。
馬車の中でガーネットは
「ねぇ、昔みたいにガーネットと呼んでよ」
と少し拗ねた。
「ダメですよ。ディアドラ様に申し訳ありません」
「その口調も気に入らない」
「ガーネット様は伯爵家ですから、男爵家の僕からは」
「二人きりなんだから良いじゃ無いか」
「、、、」
ガーネットは僕に寄り掛かり、肩に頭を乗せて来た。
「でも、ディアドラ様が知ったら、悲しみますよ?」
「彼女は少し嫉妬深いからね」
「それだけ、ガーネット様を愛しているんです」
「俺を?まさか!」
「ディアドラ様から婚約のお話があったのでしょう?」
「そうだけど、俺が伯爵家の三男だから丁度良かったんだと思うよ?」
それだけで、僕にあんな事をするとは思えないけど、、、。
「あーあ、、、俺はマーシャルと結婚したかったのに」
、、、ズキン、、、
胸が痛む。僕だって、ガーネットと結婚したかったよ、、、。でも、君はディアドラ嬢と婚約してしまった、、、。もう、僕の手の届かない所に行ってしまうんだ、、、。
「マーシャルの婚約者は誰か決まったの?」
「僕にはまだ、、、」
母上も父上も、僕がガーネットに思いを寄せている事を知っている。だから、ガーネットが結婚するまでは、そっとして置いてくれるんだ。
「ガーネット様は、卒業されたら結婚式ですか?」
「ディアドラは二つ上だから、彼女が卒業したら式だけは挙げたいそうだ。正式なサインは俺が成人した時に交わす予定だよ」
「では、来年の春には結婚式を挙げるのですね」
淋しいな、、、と思う。この気持ちは僕だけのモノだけど、、、ガーネットが本当にディアドラ嬢と結婚してしまったら、僕は悲しくて、毎日泣いて過ごすんだろうか、、、。
「マーシャル、もうすぐ誕生日だろ?何が欲しい?」
ガーネットの小指が、僕の手にそっと触れる。
「何か頂けるのですか?」
「勿論だよ。毎年贈っているのに、今年は贈らないなんておかしいだろ?。明日、街に買い物に行こうか?」
「嬉しいです。リズも誘って良いですか?」
「良いよ。本当は二人きりが良いけどね」
ガーネットが笑う。
僕は、とてもとても嬉しかった。
ガーネットと街に行けるのは、これが最後になるだろう。それでも良い。ディアドラ様と結婚される前に、一度でも一緒に街に行けるなんて、こんなに幸せな事は無い!
**********
授業が終わると、ガーネットが教室まで迎えに来てくれた。
「マーシャル!準備は出来た?」
「すぐに、そちらに!」
僕は鞄を持ち、ガーネットの元へ。
「リズは?中等部に迎えに行けば良いかな?」
「あの、リズは今日、友達と約束があるので、先に街に行くそうです。途中で合流すると言っていました」
「分かった。それでは、二人で街に行こう」
リズはもしかしたら、気を利かせてくれたのかも知れない、、、。
「マーシャル、今年は、俺の贈りたい物があるんだ、、、。ただ、デザインは好みがあるから選んで欲しい」
「宜しいのですか?」
僕達は、放課後の廊下を馬車を目指して歩く。
「うん、君が選ぶ方が嬉しい」
「有難う御座います」
馬車には、やはりガーネットがエスコートして乗せてくれる。
そっと触れた指先。
後、何回、彼に触れる事が出来るだろうか、、、。
密室になると、彼は緊張が解れたのか、僕に寄り掛かる。
「もっとそっちに行って」
とグイグイ僕を端に押し、そっと膝を枕にして横になる。
「疲れたんですか?」
「、、、そうだね、、、。疲れているのかも、、、」
「街まで少しお休み下さい」
そう言うと、ガーネットは僕の膝を抱えながら
「有難う」
と言った。
街に着くと、ガーネットはガーネット「様」に戻り、先に馬車を降りると、僕をエスコートしてくれる。
ふふ、さっきと全然違う。
彼は目的地があるらしく、迷う事なく前を向く。
「そう言えば、リズは?」
「あ!ほら、彼処に」
貴族の令嬢が二人、小さなアクセサリーのお店を見ている。
少し離れた場所に警護が二人、静かに立っていた。
僕達は、リズに近寄りながら、警護に小さく挨拶をした。
「リズ!」
「お兄様!ガーネット様」
「今日は」
「お兄様、ガーネット様、私のお友達のローレッタ嬢です」
「初めまして。ローレッタと申します」
「ローレッタ様、ガーネット様と私のお兄様です」
「初めまして」
「妹がいつもお世話になっています。マーシャルです」
「今日は、お兄様の誕生日プレゼントですよね!。見たいお店はありますか?」
「アクセサリーを」
「それなら、私達がよく行くお店はどうですか?」
「是非、お願いするよ」
僕とガーネットは、リズ達の後ろを歩く。
リズとローレッタは話しが弾む。
女の子が二人、キャッキャうふふと話しているのが、可愛らしかった。
彼女達は外装がシンプルで、上品な店に入る。
急に令嬢に戻り、仕草も緩やかになる。
店員はリズとローレッタ嬢に気付くと、お辞儀をして静かに待った。
「ガーネット様、こちらは私達がいつも拝見させて頂くお店です。ゆっくりご覧になって下さい」
店員も、僕達に近付く事無く、静かにしている。
「何か気になる物がありましたら、あの方にお声掛けして下さい」
邪魔にならない様に立つ彼は、にっこりと笑った。
ガーネットは幾つかアクセサリーを見た。
「マーシャルにネックレスを贈りたいんだ」
「ネックレスですか?」
「そう、、、いつも身に付けていて欲しい」
嬉しかった。
「どんな物でも良い、一番欲しい物を」
そうか、、、これが彼からの最後の贈り物になるかも知れない。
僕はじっくり選んだ。
「この宝石、、、ガーネット様の瞳の色ですね」
「こちらは、ミントグリーンガーネットです。ガーネットには「一途な愛」と言う意味も御座います。控えめな色ですが、そうですね、そちらのお客様の瞳の色によく似ています」
「これが良いです、、、」
僕は、色も意味も、種類も全てが気に入った。最後のプレゼントなら、、、これが欲しいと思った。
「それでは、此方を化粧ケースに入れて下さい」
「承りました。ご準備致しますので、彼方でお待ち下さい」
僕達は、紅茶を頂きながら商品を待った。
リズとローレッタ嬢は、新作を眺めながら楽しんでいる。
*****
ネックレスは誕生日の日に頂いた。
本当に嬉しかった。
「マーシャル、俺に付けさせてくれないか、、、」
「本当ですか?是非お願いします」
僕は、ネックレスの入った化粧ケースを、開いて見せた。
ガーネットは丁寧に扱ってくれた。
僕の後ろに回り、留金を外すとそっと僕に着けてくれる。
「マーシャル、、、誕生日おめでとう」
「ガーネット様、有難う御座います。大切に大切にしますね」
ガーネット様は、僕の事を抱き締めてくれた。
「君の幸せが俺の幸せだ。どうか末永く幸せでいて欲しい」
涙が出そうだった。
でも、この気持ちをガーネットに伝える事は、出来なかった。
**********
俺のマーシャル、、、。ずっと好きだった。
でも、俺には申し分無い婚約者がいた。ディアドラ嬢は素晴らしい女性だ。
男女問わず彼女を慕う。毅然とした態度、美しい所作、柔軟な考え。
俺は彼女と結婚するしか無かった。
**********
僕がランチに行くと、いつもディアドラ嬢の後ろに控えている令嬢二人に声を掛けられた。
「申し訳ありません。ディアドラ様がお呼びです」
そっと脇を固められ、僕は理由も分からず連れて行かれた。
旧校舎の、普段使われていない教室だった。
美しい彼女は、暗い教室で、いつもとはまるで別人だった。
「ねえ、、、マーシャル令息、、、。先日、お誕生日だったんですってね」
イヤな感じがする。
「私にも、ガーネット様からのプレゼント、見せて下さらない?」
そう言いながら、僕の胸元に視線を落とす。
「今日は、、、あの、、、」
見せたく無かった。
「あら、良いじゃない。素敵なネックレス、頂いたんでしょう?」
ニヤリと笑う。ディアドラ嬢が扇子を振ると、先程の彼女達の一人が僕を押さえ、もう一人がシャツのボタンを外す。
触られたく無かった。
ディアドラ嬢は、僕に近付くと扇子でネックレスを触り
「ガーネット様の瞳の色だわ、、、」
と言うと、鬼の様な形相になった。
パシンッ!
閉じた扇子で頬を叩かれた。
パシンッ!
パシッ!パシッ!
何度も叩かれて、両頬が痛い。
僕は何も出来なかった。
ディアドラ嬢が、控えていた令嬢に指示を出す。
令嬢は僕に近寄り、ネックレスに手を掛けると、思いっきり引き千切った。
僕は勢いよく引っ張られて、床に手を着いた。
「貴方、私のガーネット様に失礼よ。身の程を弁えなさい」
「、、、申し訳ありません、、、」
僕は深く謝罪した。
彼女達は、静かに教室を出た。
カチャリ、、、。
え?、、、。
僕はジンジンと痛む頬を押さえながら、扉に手を掛ける。
開かない、、、。そんな、、、。
「あの!ディアドラ嬢?!開けて?開けて下さい!お願いっ!開けてっ!」
足音が遠ざかって行く。どうしよう。ここは旧校舎だ。音楽の授業は楽器を演奏する為、この校舎を使っているけど、、、授業が無ければ誰も来ない、、、。
シン、、、とする教室。
ランチタイムもそろそろ終わる頃なのに、足音は聞こえない。次の授業まで待つしか無いのかも、、、。
引き千切られたネックレスを拾い、そっと触れる。
修理、出来るかな、、、。
僕は悲しくて泣いた、、、。
**********
中等部の校舎から、外を眺めていたの。
「リズ、、、あれ、ディアドラ様よね、、、」
「本当だわ」
「どうして旧校舎から出て来たのかしら」
「午前中、音楽の授業があったんじゃない?」
「教科書も楽器も持っていないわ」
「、、、」
「何も無ければ良いのだけれど」
ローレッタは以前、ディアドラ様に目を付けられて、イヤな思いをした。
「でも、今、旧校舎に行って、ディアドラ様に姿を見られたら、、、後が怖いわ」
「、、、そうね、、、」
私とローレッタは気になるまま、次の授業を受けたの。
*****
「リズ!」
「ガーネット様」
「マーシャルを見なかった?」
「お兄様ですか?」
「ランチに来なかったんだ。午後の授業にも出ていない」
「あっ!もしかして、旧校舎に、、、」
「旧校舎?」
「ランチタイムに、ディアドラ様が旧校舎から出て来ました。音楽の授業があった様には見えませんでした。もしかしたら、、、」
「分かった、行ってみるよ」
ガーネット様は慌てて旧校舎に行きました。
**********
足音が聞こえて来る。
助けを求めた方が良いかな、、、。
でも、ディアドラ嬢だったら、、、。
「マーシャル!」
ガーネットの声!
「マーシャル!いたら返事をっ!」
「ガーネット様っ!」
「マーシャルッ!」
僕は扉を叩いた。
「此処か?!」
「ガーネット様!」
「扉を開ける!離れて!」
ガーネット様が扉を蹴り、外れた扉をずらし入って来た。
「マーシャル!」
ガーネットが抱き締めてくれた。
「何があったんだ?」
僕は頭を振る。
言えない、、、。
「何を持っている?」
「あ、、、あの、、、」
「見せて、、、」
ポロリと涙が溢れた。
「マーシャル?」
、、、ガーネットが僕の手をそっと開く。
「ごめんなさい、、、」
「ディアドラ嬢が?」
頭を振る。
「本当に?」
「いつも一緒にいる、、、」
「待って、、、マーシャル、頬が、、、」
ガーネット様は僕の頬を見る為に、そっと手を添え顔を上げさせる。
息を飲む。
涙がボロボロ溢れた。
「これは酷い、、、」
ガーネットは僕を抱き締めた。
ディアドラ嬢に叩かれた頬が痛い。余りの痛さに涙が溢れて止まらない。
ガーネットに抱き締められて、ホッとしたのか、感情を抑える事が出来なかった。
*****
馬車に揺られながら、ガーネットは質問する。
「マーシャル、何があった?」
「あの、、、何も」
「、、、もしかして、高等部に入ってからずっとディアドラ嬢に何かされていた?」
僕は唇を噛んだ。
「どうして、、、」
「ディアドラ嬢はガーネット様が好きだから、僕が側にいるのが嫌なんだと思います」
「それだけの理由で?」
「それだけ、ガーネット様をお慕いしているのでしょう」
僕は微笑んだ。だって、ディアドラ嬢の気持ちも分かるんだ、、、。
「他には?他に何かされた?」
「、、、わかりません。可笑しな事はありました。ただ、それがディアドラ嬢がなさった事かは分かりません」
「あの、水浸しになっていたのも、、、」
「分かりません、、、」
「、、、マーシャル、、、」
「本当に分からないんです、、、。ただ、今回の事だけはディアドラ嬢が、、、」
「分かった、、、。このままでは、痛々しい。屋敷に帰ったら、ちゃんと手当をしよう」
ガーネットは、僕を伯爵邸に連れ帰り、医者に見せた。
*****
それからも、小さな嫌がらせは度々あった。
私物を捨てられていたり、机の中にゴミが入っている事もあった。
水を掛けられる様な大胆な事は無かったけど、聞こえる様に意地の悪い事を言われたり、廊下でワザとぶつかられたりした。
その度に、僕は小さく傷付き、無口になって行った。
*****
いよいよ、卒業パーティーという日。ディアドラ嬢は上品なドレスに身を包み、皆に囲まれていた。
ガーネットは、彼女の婚約者だったからエスコートをし、彼女の横を離れなかった。
本当に美しい二人だった。
パーティーの一曲目は、婚約者と踊る。
殆どの生徒に婚約者はいて、僕達下級生は壁の花となり、卒業生をお祝いする。
ガーネットもディアドラ嬢とダンスを踊っていた。くるくる回る二人は、人目を引いた。
リズが静かに、けれど血相を変えて近寄って来る。
後ろで舌打ちが聞こえた。
僕の後ろの空気が変わる。
振り向くと、女性が一人警備の者に取り押さえられていた。彼女は僕を睨んでいる。
「お兄様!大丈夫ですか?!」
リズが小声で問う。
「どうしたの?」
「後ろの足元をご覧下さい、、、」
僕はそっと見た。
赤いワインが掛けられていた。
この日の為に新調したタキシードが、赤く染まっていた。
「お兄様、此方に、、、」
リズに腕を引かれて、控え室に行く。
「ガーネット様に頼まれて、警備の者を側に立たせておりました。まさか、衣装にワインを掛けられるとは思いませんでしたけど、、、」
リズが悲しそうに呟く。
僕はショックで言葉も出なかった。
こんな事までするんだ、、、。
そんなに、僕の事が気に入らないんだ、、、。
僕は何だか悲しくて、涙が溢れた。
「一体何なの?」
ディアドラ嬢の声だった。僕が入り口の方を振り向くと、彼女はガーネットと腕を組み、目が合うと僕を睨んで来た。
学園のダンスホールから、音楽が流れて来る。
ガーネットがディアドラ嬢の腕をそっと外した。
「ディアドラ嬢、婚約を破棄しましょう」
**********
俺は、マーシャルのワインを掛けられた衣装を見て、やけに冷静になった。
怒りでワナワナと震えるかと思ったのに、不思議だった。
彼女とダンスを踊っていると、マーシャルとリズの周りが少し騒つき、ダンスホールを出て行くのが見えた。
気になった俺は、ディアドラを誘いダンスホールを出た。控え室に入って行く彼等を見つけ、追い掛けて来たんだ。
「ディアドラ嬢、婚約を破棄しましょう」
彼女を見る事無く言った。
ディアドラ嬢は理解出来ない様だった。
「貴女がマーシャルにした事は、度が過ぎる」
そう言いながら、俺はマーシャルに歩み寄る。
「ガーネット様?何をおっしゃっているの?」
「マーシャルは私の一番大切な友人だ。それなのに、高等部に入学してから彼に何をした?」
「私は何も」
白を切るつもりだ、、、。
マーシャルは俯いたままだった。
俺は、マーシャルの手にそっと指先で触れる。
ピクリと反応すると、潤んだ瞳で俺を見た。
マーシャルを守らないと、、、。
「ディアドラ嬢、貴女が彼にした事を調べました。彼のクラスの者達や、貴女に被害を受けた女性達に話しを聞きました。、、、最初は信じられ無かった、、、。貴女がそんな事をするとは思えなかったから、、、。しかし、貴女を観察する内に、貴女の裏の顔を知ってしまった」
こんな時でも彼女は凛としていた。
「貴女は聡明で美しく、多くの人に慕われている。しかし、その反面、多くの人が貴女を恐れ、怖がり、近付かない、、、。そんな貴女と結婚する事は、想像出来無い」
「ガーネット様?」
俺はディアドラ嬢を見た。しっかりと目を見て伝える。
「ディアドラ嬢、婚約を破棄します」
「嫌よっ!私は貴方が欲しいの!貴方との結婚をずっと思い、願って来たのよっ?!何故破棄なんてっ!」
珍しく、彼女の感情が乱れた。
「その男ね、、、。その男爵家の男が貴方を唆したのでしょう?。お願い、私を見て、冷静になって下さい。婚約破棄なんて、なさらないで」
コンコンコンッ、、、。
扉をノックする音がした。
一瞬静まり返る部屋。
俺は扉に近付き取手を回す。
扉を開けると、俺がマーシャルを警護する為に付けた男が立っていた。
「聞き取りが終わりました。首謀者は、、、」
「分かった、有難う。必ず書類に起こして、彼女のサインを貰う様に」
彼は礼をして、その場を去った。
「ディアドラ嬢、先程マーシャルの衣装にワインを掛けた女性が貴女の名前を出しました」
「嘘よっ!私は何もしていないわっ!」
彼女を通り越して、マーシャルを見る。リズがマーシャルを支えていた。酷く青い顔をしている。
ディアドラ嬢がマーシャルを見る。
「貴方の所為で!」
早足でマーシャルに近付くと、手を挙げた。リズとマーシャルは動く事も出来ず、目を瞑る!
「ディアドラ嬢っ!」
俺が大きな声で叫ぶと、彼女は動きを止めた。
「後日、正式な書類を送ります。必ずサインをして下さい」
静かに言うと、彼女腕を下ろし、力無く項垂れた、、、。
**********
あの日から、ガーネットが離れない。
今日も僕の部屋にいるんだけど、、、良いのかな?
「お兄様?あらっ!」
リズは勝手に僕の部屋の扉を開ける。
「リズ、俺達がキスでもしていたらどうするんだ?」
キス?!
「ガーネット様、その様な時は、ちゃんと鍵を閉めて下さいませ」
彼はそっと立ち上がる。
「成程、鍵ね」
ニコリと笑う。
「リズは何をしに来たの?」
「ローレッタが遊びに来たので、一緒にお茶でも如何かと思いましたの」
「俺達は遠慮しておくよ」
と言って、扉を閉めた。
カチャリ
ガーネットは振り向きながら
「そう言う時は、鍵を閉めれば良いらしいよ、、、」
と言いながら、近寄って来る。
「ガーネット?」
僕の隣に座る。
「あの、、、そう言う時って、何の話しをしたの?」
「マーシャル、、、君と婚約出来て嬉しいよ」
「?」
ガーネットが僕の手を握る。
ドキリとした。
「ずっとマーシャルが好きだった」
ガーネットはディアドラ嬢と婚約破棄して、僕を選んでくれた。
「諦めていたから、君と家族になれると思うと感慨深いね」
「僕も、、、嬉しいです、、、」
頬が赤くなるのが分かる。心臓がドキドキして来た。
「マーシャル、キスをしても良いかな、、、?」
と言って、僕の返事を待たずにキスをする。
頬にガーネットの優しい唇が触れた瞬間、目を閉じてしまった。瞼を開き、彼の瞳を見つめる。
綺麗なミントグリーンの瞳
ガーネットはゆっくり僕の唇を見つめ、口付けをする。
上から重ねる様に握った手を、そっと滑らせながら僕の背中に手を回す。
反対の手は、僕の頬に優しく触れた。
「マーシャル、、、」
キスをしながら僕の名前を呼ぶ。
「ガーネット、、、」
彼の舌が、、、。
ガーネットが激しくキスを求めて来るから、僕は恥ずかしくて逃げる。身体を引くとソファに倒れる様に、、、ポスン、、、。力尽きて押し倒されてしまった。
その間も彼のキスは続く。
「ん、、、」
鼻から自分の声とは思えない、声が出る。彼は唇から離れ、首筋にキスをする。
「待っ、、、て、、、」
待ってくれない、、、。
「ガーネット、、、。これ以上は、、、」
首を唇で優しく噛まれると、僕は彼にしがみ付くしか無かった。
「ね、、、ぇ、、、。待っ、、、」
「大丈夫だ、、、鍵は閉めてある、、、」
、、、婚前交渉、、、




