第3話:静寂の森と幻の湧き水 ~不純な鉄筋は、三浦の大根のように引っこ抜きます~
三浦の深い森。そこには、一日に数リットルしか湧き出さない「幻の湧き水」が存在する。
この水で淹れるカモミールティーは、魂の汚れを洗い流すほどに透き通っている。
……はずだった。
「……聞こえますわ。この清らかな土の下で、鉄が泣いている音が」
葉山 麗香は、ティーポットを持つ手を止め、森の地面を睨みつけた。
彼女たちの目の前には、湧き水のすぐ傍らで勝手に進められている「会員制サバゲー場」の建設現場。
打ち込まれたばかりの巨大な鉄筋コンクリートの基礎が、森の緑を無慈悲に切り裂いている。
「会長、あそこ、不法占拠っぽいよ。湧き水が濁っちゃってる」
パワー担当、三崎 鮪が泥の混じった水を指差す。麗香は静かに立ち上がり、ドレスの裾を払った。
「濁っているのは水だけではありませんわ。あのコンクリートの『未熟な灰色』。この森の深い緑に対して、あまりにも無作法ですわ。私のティータイムから、あの人工物を『収穫いて』ちょうだい」
「了解! 暦、アレ出そうよ! 例の魔界で買ってきたやつ!」
「任せなさい。近所のホームセンターの『農業資材コーナー(奥の院)』で仕入れた、**【特注・大根抜き機(超高層ビル解体用)】**よ!」
暦が取り出したのは、見た目こそ巨大なフォークのようだが、その素材は未知の合金でできている。ホームセンターの店員が「これ、惑星の核でも抜けるよ」と笑いながら売ってくれた一品だ。
「よっしゃあああッ!! 三浦の土に、不純物を残してんじゃねえよッ!!」
鮪がその巨大フォークをコンクリートの基礎に突き立て、自慢の背筋に力を込める。
ミシミシ……ドッゴォォォォォン!!
巨大なコンクリート塊が、まるで冬の三浦大根のように、スポポポポーン!と音を立てて地中から引き抜かれた。
「あら。抜いた後の穴が不格好ね。摩里奈さん、あのおじさんたちに『お片付け』を」
麗香の指示を受け、セレブ担当の摩里奈が、札束でパンパンの財布を叩きながらスマートフォンを操作する。
「ええ。いま、この土地の所有権を『1秒につき1億円』で借り上げる契約を、あそこの業者と結ばせておいたわ。……あ、もう10秒経ったから10億円の負債ね。払えないなら、あそこの事務所ビルも『収穫』の対象にしましょうか?」
建設業者の男たちが「そんな契約知らんぞ!」と叫ぶ中、鮪は引き抜いた数トンのコンクリート塊を軽々と肩に担いだ。
「おっちゃんたち! 忘れ物だよ! これ、事務所の屋根の上に返しておくね!」
「待てッ! 潰れる! 事務所がプレス機みたいに潰れるぅぅぅッ!!」
ドォォォォォン!!という、業者の悲鳴と事務所の崩壊音が森にこだまする。
「……ええ。静寂が戻りましたわ。やはりお茶は、澄んだ水の音と共に頂くのが一番ですもの」
麗香は、元に戻った透明な湧き水で、ゆっくりとお茶を淹れ直した。
背後では、業者が全財産を失って森の草を食んでいたが、彼女たちの視界には1ミリも入っていない。
私たちはただ、最高の景色でお茶を楽しみたいだけ。
そのためなら、違法建築を大根のように引き抜き、業者を経済的な地獄へ送り届けるくらいの労力は惜しみません。
だって私たちは、平和とお茶とみうらを愛する、善良なみうら市民なのですから。
みうら魔界ホームセンター
農業資材コーナー(奥の院): 普通の人は入れない、または入ったら戻ってこれないエリア。
大根抜き機(ビル解体用): 三浦の農家がたまに「ちょっと地軸が歪んだから直したい」という時に使う(嘘)。




