天才
結婚した。
相手は30歳、バツイチで子どもがいる。いわゆる“訳あり”というやつだ。
だが、そんな事情などどうでもよくなるほど、彼女は美しかった。
桃の花のように淡い横顔。すらりと伸びた体。女神のように長い髪。
そして、覗き込めば吸い込まれてしまいそうな瞳。
どこを取っても、非の打ち所がない。
ただ一つを除けば。
子どもがいる、という点だ。
そのせいで、彼女を独占することができない。
子どもじみた不満だと、自分でも分かっている。
だが、新婚の俺にとっては、それがどうしようもなく大きな問題だった。
子どもは15歳。受験生だ。
毎日机に向かい、勉強を続け、俺とは一言も交わさずに眠る。
無関心。
拒絶。
それだけならまだよかった。
何より気に入らないのは、その容姿だった。
母親には似ても似つかない。
潰れた花のような顔に、濁った瞳。
ぼんやりとした立ち姿に、どこか不潔さを感じさせる雰囲気。
それなのに。
それなのに、あいつは彼女の時間を奪う。
俺のものになるはずだった時間を。
結婚前、俺は何度も彼女に駆け落ちを提案した。
だが、彼女はそのたびに首を横に振った。
理由は分かっている。
あの子どもだ。
彼女は、母親であり続けようとしている。
「15で産まされた子どもが、そんなに大切か?」
苛立ちを隠さずにそう問うと、彼女は決まって柔らかく微笑む。
「ええ。大切よ。世界にたった一つの宝物ですもの。」
その笑顔が向けられている先が、自分ではないことが、どうしようもなく腹立たしかった。
違うだろう。
世界にたった一つの宝物は、俺であるべきだ。
俺じゃなければならない。
そうでないのなら
邪魔なものを、取り除けばいい。
*
数日後。
静まり返った家の中で、俺は「それ」を見つけた。
息を呑み、震える手で携帯を取り出す。
「も、ッもしもしッ!?俺の息子が倒れて、ッ動かないんだ……!!いますぐこっちに来てくれ!!!」
必死に声を震わせる。
怒りと恐怖を装って。
第一発見者として、俺は完璧だった。
涙を浮かべ、取り乱し、何度も名前を呼ぶ。
まるで、本当に何も知らないかのように。
すべてが、計画通りに進んでいた。
あとは、誰にも気づかれなければいい。
ただ、それだけだ。




