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夫が勇者の末裔だったけど、不安なので代わりに勇者をやってみたら子沢山を目指す事になりました

作者: 美尾

「ですから、あなたは勇者の末裔という訳ですね」


 きっちりと髪を撫でつけ、首元のタイをぎりぎりまで締め上げ、袖から覗くシャツも新雪のように白いお役人は微動だにせず、村の大工のシグムントに言い切った。


「いや、そうは言っても、私は大工でして、まさかそんな……。祖母は父を女手一つで育てたとは言いますが……、そ、祖母は村でも評判のあ、あ、阿婆擦れだったそうで……宿屋の看板娘だったので、色んな旅人と浮名を流したとそ、そ、それはもう有名で! 父を孕んだ時も相手が誰かわからないと……お恥ずかしい事ですが。……な! ウルスラ! そうだよな?!!!」


 シグムントは必死の形相でウルスラに訴えかけている。


 焦りすぎ。それじゃあ誤魔化せない。でも慌てふためく姿は可愛いわ。


 小さくため息をついて辺りを見渡す。家の中は年末の忙しい中急いで改装中でぐちゃぐちゃだ。ようやく工事に取り掛かったところだったのに、まさかお役人に嗅ぎつけられるとは。

 こんなど田舎まで勇者の末裔を探してやってくるなんて、さては都会に住む勇者の末裔には断られたな。

 ていうか、実際こうやって役人が来るまで信じられなかったけど、勇者って本当に世襲なんだ……?

 伝説の剣に選ばれるとかそういうのないんだ。

 つまんない。

 

「夫もこう申しておりますし……私も義祖父がどのような人だったか誰もわからないと聞き及んでおります。魔王復活を阻止とのことですが、田舎の大工に務まるとも思えません。申し訳ございませんが、お引き取り下さい」


 頭を下げて、ちょいちょいと指で合図するとシグムントも慌てて役人に向き直して頭を下げた。


「いいえ、()()()()()さん。田舎の……ただの大工には大仰なお名前だと思いませんか?」


 シグムント。

 シグは「手」ムントは「平和」、合わせて「勝利を通じた平和」を意味する。


 お婆ちゃまめ、バレバレの名前つけやがって……


「あなたは勇者の末裔で、封印の魔具の元へと導かれる運命の方に違いありません。すぐに旅立ち、隠されし封印の魔具を探し出し魔王を封印していただきたい。成功すればまた百年は平和が保障されます」

「封印の魔具?」

「あ、んもう馬鹿シグ!」


 足を踏んづけると、シグムントはバツが悪そうにウルスラを見下ろす。


「ご、ごめん……」


 お役人は聖母のように微笑んで封印の魔具とやらについて話し出した。


「初代の勇者は元々魔法具師だったと言われております。魔王を封印した勇者は死ぬ前にその魔具を複数個作成し各地に隠しました。子孫は封印が破られる前に新たなる封印の魔具を探し出し封印の重ね掛けを行います」

「いやいやいや、それって、別に勇者じゃなくても良いですよね?! 国の騎士様とか暇な第三王子殿下とか、そういう人がやれば良いじゃないですか?! ハクがつきますよ!」

「ええ、国もそのように考えた時期もございました……。実際、過去に何度か騎士が魔具の捜索に出た事もございましたが……、封印の魔具にも封印が施されているのです」


 なるほど、それで勇者が世襲なのね。


「どゆこと?!」

「つまり封印の魔具を探し出せるのが勇者の末裔だけってこと」

「それも、男系の子孫だけです」

「……どゆこと?」

「お父さんのお父さんのお父さんの……ってどこまでいっても男親が初代勇者に繋がって無いとダメってこと。お父さんのお母さんのお父さんが初代勇者でもダメなの」

「奥方はなかなかご理解が早くていらっしゃる」


 満足げに笑うお役人だが、シグムントはやるとは言ってない。

 ウルスラも、シグムントに旅なんかして欲しく無い、先代勇者の末裔が都会だけでなくこんな山に挟まれ川と木と動物ばっかのど田舎にまでいるのだ。

 旅なんかしたらシグムントも色んなところに女を作り子どもを作って帰ってこなくなってしまうかもしれない。

 今はウルスラに夢中なシグムントだって、誘惑が多ければどうなるかなんてわからない。

 新婚ほやほやなのに、それは不安だ。

 

 ウルスラはもともと教会暮らしの子で、と言ってもどうも母は都会のご令嬢と呼べる人だったらしく、その実家が寄付金でも積んだのか割と自由奔放に育った。

 夏は草と土まみれ、冬は雪まみれになり、田舎で可能なそこそこの教育も受けて、今は小さな子ども達を集めて教会の端っこで学校を開いている。

 本当に小さな頃だけ母も一緒に暮らしていたが、ある時急にいなくなった。

 多分望まぬ妊娠でもして、田舎で産んで、ほとぼりが冷めた頃に家に戻った。と言うような話だろう。

 薄情な母親である。


 一方シグムントは、昔からウルスラの前に出るともじもじあわあわして真っ赤になり、花とかリボンとか靴下とか差し出して、代わりに本を読んでくれとかお散歩について来てくれとか要求する図々しさと奥ゆかしさの同居する変な子だった。


 とは言え、ウルスラの事が好きなのはバレバレだったので、長じてからはいつ指輪を持ってきて代わりに結婚してくれと言ってくれるのか待っていた。なのになかなか言ってはくれなくて、この冬にようやく結婚してくれ、一緒に暮らそうと言ってくれたところだ。

 シグムントは村でも忘れ去られていたこの荒屋を見つけてきて、土台がしっかりしてるから上物を直してここに住もう、腕がなると、張り切っているのに。

 

「これは王家から出る旅の支度金です。そして地図、これまで見つかった封印の魔具の印はこれ、魔王封印の地はここです。出来れば5年以内に再封印を行なって頂きたい」


 小さなテーブルに金の入った袋と地図が置かれて、どんどん話が進んでしまう。


「出来ません! 本当に勇者の末裔かもわからないのに、困ります!」

「魔王を封印して頂ければ更に報奨金も出ます。頼みましたよ!」


 そう言って役人はつむじ風と共にバキバキと音を鳴らして来た時と同じ様に消えてしまった。床板が死にそうだ。


「ど、どうしよう……ウルスラ! 俺やだよ! やっと一緒に暮らせると思ったのに……こ、これからやっと村の子ども達とか妙に厳しいシスターとか喧しい小母さん達に邪魔されずふたりで………ほら、なんつうの? 俺たち新婚さんだしな?!!」


 ウルスラにしがみつくシグムントは真っ青で、あ、ちょっと泣いている。


「……すぐ行かなくていいわよ。少なくとも五年は猶予があるし、支度金はとっておいて、とりあえず家を直しましょう? ほら、地図に前の隠し場所とか書いてあるし、何か法則があるのかも。何も考えずに旅立ったってしょうがないわ」

「そ、そうか。そうだな、流石ウルスラ」

「私も行って欲しくない……もうすぐ新しい年なのよ? 家族で過ごしたいわ」

「ウルスラ……」


 青かった顔に血の気が戻り、ウルスラには優しいキスが降り注いだ。

 部屋のど真ん中で抱き合って、シグムントは夜を思わせる深いキスを仕掛けてきて微かな水音が響いた。


「ん……、ウルスラ、かわいい、好き、愛してる」

「ふふ……うん」


 やっぱりね、新婚さんだしね、ちょっとした事で甘い雰囲気になるよね。

 いや、ちょっとしたことでもないか……


 どうしよう。まさか夫がマジで勇者だったとは。


 せっかくの甘い雰囲気なのにどうも集中出来ない。色んなとこに口付けたシグムントもウルスラを抱き上げて、ため息を吐いていた。

 

「早く寝室を直しちまおう。あとキッチンと……あ、風呂場!」

「私もなにか手伝えるかしら?」

「手に傷でもついたらどうするんだ! 俺は大工だぞ? 任せとけ!」


 スカーフをくれる代わりにふたりで星を見てくれと言い出して一緒に木登りしてて落っこちて傷を作ったこともあるのに今更何を言うのやら、シグムントは凄い勢いで修理を始め、最初に寝室、キッチンと風呂場を直して三日ほどで使えるようにしてくれた。


 ウルスラはせっせと冬篭り用の干し肉やら砂糖とナッツたっぷりのパンやら保存食を作る。それらが終わると今度はお役人の置いて行った地図を眺め、教会から持って来た勇者の伝記で調べ物をしていた。

 丁度新年の準備とも重なるこの雪深い季節は、学校も休みだしこの機会に色々調べて先の計画を練っておきたい。

 ふむ、魔王封印の地は結構近い。四日もあれば行って帰って来れるだろう。

 シグムントの祖父である先代勇者は魔具を見つけ、封印の地へ行く途中にこの村に寄ってお婆ちゃまと仲良くなったってとこかな?


 つい昨年亡くなったシグムントのお婆ちゃまは方便でも阿婆擦れなどと言うには申し訳ない、歳を取っても鄙には稀なる美人で、なるほどあれは勇者も骨抜きになるだろう。

 シグムントも結構綺麗な顔で、勇者の末裔と言われればそれなりに信憑性が出てしまうくらい体格にも恵まれている。

 

 うーむ、困った。

 シグムントが誰かに取られたらどうしよう。


 ウルスラ以外に夢中になるシグムントなど、断じて許すことは出来ない。

 本当に心配になってきた。

 封印なんて成功させてしまったら、余計に危ないのではないか。

 報奨金が出るとか言ってたけど沢山の金を持たせたらきっと綺麗な人もたくさん寄ってくる。結構アホなとこがあるから煽てられたらふらふら別の人のところに行きかねない。

 人のことは言えないが、何せこのど田舎育ちで世間知らずなのだ。


 魔具……魔具の捜索には勇者の血が必要……。


 いや待て、封印の魔具さえ見つけてしまったら、あとは誰でも良いのではないか?


 お役人は何も言っていなかったし、初代勇者の伝記では、勇者が魔王と剣を交えている時に仲間が魔具を発動している。

 封印の魔具をシグムントに見つけて貰ったら、ウルスラも封印の地へ赴き魔具を発動させれば良いのだ。何も魔王と戦わなきゃいけないわけではないのだから、可能なはず。

 出来ればひとりで行ってひとりで封印したい。そうすればウルスラが勇者だと言い張ることも出来るかも?


 うん、簡単じゃん。解決解決。


 旅というのも大変かもしれないけど別にシグムントがひとりで行かなきゃいけないわけでもない。まあニ、三年新婚生活を楽しんだらふたりで捜索に出てみようかな。


「ウルスラ〜! ちょっと来て! いいもの見つけた! 多分地下があるよ!」

「はぁい」


 綺麗になったキッチンに置いた椅子の上で地図と睨めっこしていたウルスラがひょこっと顔を出すとシグムントは頭に手拭いを巻いて汗だくで床板を剥がしていた。

 あのお役人が魔法で姿を消した時バキバキいっていたあたりだ。


 んもう、ひとんちに何してくれるんだ。


 近寄ると剥がされた床板の下は石である。


「?」

「? ほら」


 何にも無い。つるつるの石である。なかなかいい石だ。


「え?! ほらウルスラ、ここ! どうしたの?! 目の調子悪い?!」


 シグムントが石の上を掴むようにして手をそのまま上に持ち上げる。

 ずりずりと音がして、石があった場所にぽっかりと空間が現れた。


「え、ま、ま魔法?! ていうかこれ封印の封印じゃない?!」

「え?え?」

「シグムント! これ絶対封印の魔具の封印よ! 私にはつるつるの石に見えたのに!」

「え⁈ なんで⁈」

「んもう! ちゃんとお役人の話聞いてた?! そういえばあなた、この家どうやって探して来たの?!」


 ふたりで床に座り込み、ガクガクとシグムントを揺らす。


「え……、出来れば静かなとこと思って、山をうろうろして探しました。結構……二年くらい色んな土地とか、山とか見て、たまたま教会裏の山でこの荒屋を見つけて……、村で聞いても誰も知らないって言うし、教会で聞いても知らないから好きにしていいって……」

「に、二年ですって⁈ こ、このぼけ……いえ、ていうかなんでお役人の話で気がつかないのよ!」

「え? 本当に? ここにあるの? 封印の魔具とか言うの」


 ごくりと唾を飲み込み空間を見つめる。

 中に光源は無いようで真っ暗だ。


「光あれ」

 

 ウルスラの使えるささやかな魔法で指先に光を灯し、シグムントに掴まって下へと手を差し出せば、下へと続く階段が現れた。


 見つめ合って頷くと、寄り添いながら階段を降りる。


「ね、鼠とか虫とかいないかしら……」

「ウルスラを呼ぶ前に鼠は殺鼠剤で駆除したし、虫は冬だからいないよ多分。来た時綺麗だっただろ?」

「そういえば……糞とかも無かったわ、シグムント、ありがとう!」

「うん、へへ。ウルスラ、かわいー……」


 階段を降りきる僅かな時間でいちゃつきつつ、一番下まで辿り着いたが行き止まりだ。光る指先を壁に這わせゆっくりとまわっていくと、シグムントが声を上げた。


「ウルスラ! そこだ」

「え? ここ?……やっぱりつるつるの石だけど……あ」

「魔法陣だ。ウルスラわかる?」

「ええと、聖書なんかに使われる古語ね。血を受け継ぐ者……その身に宿る力を示せ……それだけ」

「ううん? 俺は魔法はなぁ身体強化がちょっと使えるだけだしなぁ……ウルスラみたいに光らせたり治したり出来ない」

「押してみれば?」


 きょとんとウルスラを見て、なるほどと腕まくり。大工仕事の無い時は木こりもするシグムントの腕はムキムキで逞しい。ウルスラと学校の子ども達がぶら下がってもびくともしないのだ!


「ぐ」


 身体強化を使ったらしいシグムントの腕はミシミシと音を立てる錯覚すら起こしそうなくらい盛り上がる。つるつるの石の壁はずず…と低い音を立てながら、少しずつ押されていった。


「ぐ、ぐ、う……」


 動き出したら早いもので、押し込まれた石の壁の左側がまたぽっかりと空いている。


「はぁ、もういいかな? これ以上動かない」

「シグムント、凄い! かっこいいわ!」

 

 魔法陣とかあんまり関係なさそうな力比べだったけど。


「本当⁈」

「ええ、素敵よ。さすが私の旦那さま。ほら、こっち部屋になってるわ。行ってみましょう」


 太い腕にしがみついたらちょっと熱い。


「大丈夫? 熱いわ」

「身体強化は使うと熱くなるんだよ。不思議だよね」


 ふむ、筋肉量が増えると体温が高くなるから、そのせいかな、とペタペタと触っているとシグムントは実に嬉しそうにウルスラのつむじにキスをした。


 恐る恐る光の灯る指先を部屋の中に向ける。光にぼんやり照らされているのは、簡素な台座だ。

 その上には蓮の花の蕾みたいな形の素っ気ない魔具が置いてあった。


「あった……ホントにあった……! なんだよ、旅とか行かなくていいじゃん。ん? なんか書いてある」


 シグムントが持ち上げると、カチッと音がした。裏返すと底は3と書いてある。


「なんだこれ? 使用期限……?」

「何ですって⁈ そ、そうか、初代勇者の魔力だって無限ではないわ。恐らく何十個と作られた魔具の全てに長持ちするような魔力は込められなかったのよ! 台座から外すと起動する仕組みかしら……封印の地まで二日……余裕を持ってはいるわね」

「え、で、でももう行った方が良いよね⁈」

「私が行くわ。シグは家を直してて!」

「え? え……⁈ ウルスラ! 何言ってんの? 待って! 暗っ痛っ!」


 封印の魔具を取り上げて階段を駆け上がる。背嚢に魔具を突っ込んで保存食をぎゅうぎゅうに詰め込み大きな外套を借りて羽織ったところで床下から頭にたんこぶを作ったシグムントが顔を出した。


「だ、だめだめだめ! 危ないよウルスラ! 俺の仕事だろ⁈ 俺が行ってくるから落ち着いてくれ!」

「シグムントの仕事は大工さんでしょ? 私は暇だし、すぐ帰ってくるわ! 馬を借りて行くから4日もかかんないわよ。支度金もたんまりあるし、ちゃんとした宿に泊まるから大丈夫! 行ってきます!」


 勢いこんだけど腕を掴まれて動けない。


「んもう、わからずや!」

「ウルスラ! ダメだよ! 何かあったらどうするんだ! ウルスラに何かあったら俺生きていけないよ、せっかく結婚出来たのに! 俺が行く! そうだ、今回の魔具は諦めてまた違う魔具を探しに行けば良いよ!」


 ウルスラを上から抱きしめておいおい泣くシグムントの背中を撫でて落ち着かせる。


「嫌よ、運良く次がすぐ見つかるとは限らないし、魔具には多分限りがあるわ、この魔具を無駄にしたら魔王復活が百年近く縮まっちゃうのよ。それにシグムント、俺が直した綺麗な家を贈るから代わりに結婚してって言ったわよね? 新年までには必ずって」

「ぅう……うぐ……な、直してからプロポーズすれば良かった……」

「やめてよこれ以上待たせるのは。私嬉しかったのよ。約束守って」

「え? ウルスラ、俺がプロポーズするの待っててくれたの? 本当⁈」


 体を離して顔を覗き込み泣きながらニヤついている。大きな犬みたいで可愛い。


「あら、黙ってようと思ってたのに、言っちゃったわ。それじゃ行ってくるわね!」


 隙をついて家を飛び出し村の牧場に向かって走る。


 シグムントったら、結構鈍臭いのよね、本当に勇者の末裔なのかしら。


 支度金からお金を払って馬を借りると牧場主の小父さんが深刻な顔して「大袈裟なんじゃねぇか? 考え直せ」とか言っていたけど、ウルスラは今すぐ行かねばならない。世界と我が家の平和を守るのだ。


 今日は仕舞月の末で、新年まで四日ある。すぐ帰ってくれば丁度家で新年を迎えられる算段だ。

 運良く雪は降っていなくて街道を馬でひた走り宿で一泊し次の日も走った。

 ちょっとお尻が痛くなったけど、昼過ぎに封印の地とやらに辿り着いた。

 大きな教会の敷地内に封印しているらしい。


 あ、逆か、封印した場所に教会を建てた。人々の祈りで封印も強固になるかもしれない。


 顔を隠して男性のフリをして教会の人に話を聞くとあちこちで大騒ぎしてたけど、魔具を見せると封印の地まで案内された。


 なるほど、蓮の花みたいだと思ったのは間違いなかったが、逆さまだ。開いた花が上からかぶさるようにドーム型になっている。この中になんだかよくわからない魔王とかいうのが封印されているらしい。

 魔具を掌に乗せてキラキラ光る魔核を押し込むと封印に向かってガバッと開き巨大化し、既にあった封印を生き物が大口開けて食べるみたいにして重なり合った。


「………なんか気持ち悪い……」

「それでは勇者……様? 王家の使者が確認を致しますので今しばらく教会でお待ち頂けますでしょうか?」

「え? すぐ帰りたいんですけど。家人が心配しますし、もうすぐ新しい年になりますし、教会も忙しいですよね?」


 上品な司祭様はゆっくり首を振って困ったように首を傾げた。


「報奨金をお受け取りいただきたいのです。封印の魔具を探し出し、百年の平和を守って頂いたのに礼も無いのでは後々勇者の意欲を削ぐことになりかねません」

「まあ確かに……」


 苛々しながら王家の使者とやらを待つ。色々美味しいご馳走とか食べさせてもらってやっと現れたのは家の床板をダメにしたお役人だった。


「奥方ではありませんか! 勇者はどう……というか、あれから一週間も経ってませんが⁈」


 速攻バレてしまった。


「見つけたのは夫です、ウチの床下にあったんですよ。でも使用期限が三日しか無くて大変だったんですから! ちゃんと報奨金ください」

「それは勿論。どうぞ。王家からの報奨金です」


 ずっしり重い、顔位の大きさの巾着を受け取り背嚢に突っ込み家に帰ろうとしたら引き止められてしまった。


「奥方様がいらっしゃるなら話は早い。実はですね。近年勇者の人数が減っておりまして……」

「はあ……は、え? えっとまさか……」

「はい、察しの良い方だ。そう、男児です! 勇者の男児が必要なのです! 勿論女の子も愛らしく大切なものでしょう。ですが、勇者! 勇者だけはどうしても男児でなくては封印が解けないのです! わかっていただけますね?」

「いや……ウチの夫が暇な時に魔具を探させますからお城とかに置いておけば良いんじゃないですか?」


 封印を解いて封印の魔具をみつけたら、台座ごと城で保管すれば良いだけだ。


「封印の魔具の封印を解いてしまえば魔族に見つかり破壊される可能性も強まります。奥方様にはお辛いこととは存じますが……勇者の種を複数の女性にっ」


 ベシッ!

 

「あ、ごめんなさい……つい……」


 金貨がぎっしり入ってるから痛かったかも。

 それはさておき、そうか、色々なところに勇者の末裔がいるのはそういうこと……国ぐるみで勇者の子を増やそうとしたということか。うーん義祖父は悪くない……いやダメ。悪いわ、浮気よ! 勇者じゃなくて悪者だわ。


「とにかくダメです! 教会でなんてこと言うんですか!」


 国王も教会も一夫一婦制だ。


「いや、許せないと仰るのであれば、勿論離婚していただき奥方様にも新しい縁談を……。そう、奥方様は大層お美しくていらっしゃるではありませんか! 王都の貴族に輿入れすることも出来るかもしれませんよ。銀糸の髪、陶器の様な肌、冬の青空のように澄み切った瞳! まるで伯爵家の美姫と謳われた………え? 違いますよね?」

「違うし結構です。あのど田舎が気に入っておりますので。とにかく男児ですね? わかりました。必ず3人は産んでみせます。あとは他の勇者の末裔に頼んでください。いるんですよねぇ? 勇者を探していると言う噂からかなり経っています!」


 ウルスラとお役人は盛大に罵り合った。

 何とかシグムントに女をあてがわないと書類を(したた)めさせて王家の印を押して貰ったのだが、結局夜中になってしまい、教会に泊めて貰う。にも関わらず次の日は寝坊して出発が遅れてしまった。

 しかもちょっと珍しい綺麗な布とか毛皮とか美味しそうな冬籠り用の保存食とかが売っててお金もあるもんだから、ついつい買い物までして更に遅れ。


 あらいけない。シグムントが泣いちゃうわ。


 とショッピングの途中で思い出し、急いで帰ったけれど、馬も疲れていて行きより速度が出なくて予定より一日遅くなり、途中で年が明けてしまった。

 ようやく村へと帰り着くと、元旦にも関わらず村人達が教会前でザワザワ騒いでいる。


「皆どうしたの?」

「おお、ウルスラ! ちょっと遅かった……いや、丁度良かったのか? わからんがお帰り! 家出にしちゃ長かったな」

「家出なんてしてないわ。ちょっと封印に行ってただけよ」


 封印封印言い過ぎてかなり前から封印がゲシュタルト崩壊してる。

 ほんとになんなのよ封印の封印って⁈


「ウルスラ!!」

「シグムント、ただいま! 私ちゃんと封印してきたわ!」


 人を掻き分け現れたシグムントがウルスラをぎゅっと抱き締めて抱き上げ頬をキスしている。皆んなが見ているので顔をぐいぐい押すとなんだか辛そうだ。

 心配かけすぎてしまったかもしれない。


「どうしたの? ごめんなさい遅れちゃって。ちょっとあのお役人さんと揉めちゃって。みんなもごめんなさいお騒がせして。元旦なのに。新しい年おめでとう!」


 素直に謝れば、みんなおめでとう、良かったな、おめでとうと何度も言って帰って行く。新年は家で家族とゆっくり過ごすものなのに騒がしくして申し訳ないことをした。


「俺達も帰ろう……家、結構……綺麗になったよ……」

「シグムント、元気を出して。遅くなっちゃって悪かったわ。ごめんなさい。ついお買い物しちゃって……」

「違うんだ……え? か、買い物? ……いや、心配も勿論してたけど、遅くなってくれて……俺は良かった。家で説明するよ。行こう」


 ウルスラの乗ってきた馬はその場に居た牧場主にそのまま返して、乗せてきた荷物を担いで家へと帰る。毛布とか買ってきちゃってすごい嵩張るけどシグムントは文句も言わず運んでくれた。


「あのね。ウルスラが村を出てすぐに……ウルスラの……お母様の使者と言う人が来て……あの……」

「あら、追いかけて来るかと思ったけど来なかったのはそう言うことだったのね。お母様が会いたがってるとか言ってた? 良いのよ、追い返してくれて良かったわ面倒だものね」

「え⁈ 良かったの? 俺、ウルスラがとられちゃうと思って……妻は俺と田舎に嫌気がさして村を出て行って行方知れずって言っちゃって……。う、辛い……やめてウルスラ出て行かないで!」


 自分の言葉にダメージを受けたらしきシグムントが目に涙を溜めてその大きな手で顔を覆った。どうしてこう一人で盛り上がれるのかしら。


「ちょっと、もう、想像で泣かないの! それで?」

「う、うん、それで使者は村中を探して丁度ウルスラが戻るちょっと前に帰って行ったんだ」

「シグムントにしては思い切ったわね! タイミングも良かったし、もう二度と来ないんじゃない?」


 にっこり笑って言うと、シグムントは困った様な嬉しい様な変な顔をして手を握ってきた。


「でも……お母様が、恋しかったんじゃないのか? 泣いてただろ? 俺……勝手な事をしてウルスラから……お母様を奪ってしまったんじゃないかって……り、離婚とか……」

「シグムントったら、二歳の子どもなんて大体いっつも泣いてるのよ。離婚なんてしたくないわ! 私の家族はもうあなたがいるからお母様なんて……あら、そうだわ。子どもよ! シグムント、私あなたの赤ちゃんが欲しいわ! たくさん!」

「えっ⁈ お、俺も! ウルスラ!」


 ぎゅっと抱きしめられて優しくキスが降ってくる。合わさった唇からシグムントの熱が伝わりうっとり安心したらなんだか急に眠たくて。

 

「シグムント……、私とっても疲れたから子作りは明日ね。今日はもう寝ましょ。あ、お風呂使えるかしら」


 口をぱっくり開けて石像みたいになったシグムントを置いて風呂場に入り、ゆっくり汗を流すとますます眠たくなる。綺麗になった寝室の、これまたなんだか大きくなってる様な気がするベッドに飛び込び瞬きをすれば、もう外は明るくなっていた。


「おはようウルスラ……」

「おはようシグムント! 私、いつ寝たのか記憶が無いわ」

「よく寝てたよ……」

「ええすっきり! やっぱり疲れるものね。昨日は元旦だったのに、何も出来なかったわ……二日だけど、新しい年おめでとう。シグムントと新しい年を迎えられて嬉しいわ。今年も一年宜しくね」


 ひどく恨みがましい顔をしているシグムントに笑いかける。それでも返事が返ってこないものだから、ウルスラは寝っ転がったまま夫の頬を撫でた。


「…………俺も、ウルスラと新しい年を迎えられて嬉しい。末永く宜しくな。ウルスラ、昨日言ったこと覚える? 覚えてるよね⁈」

「なんだったかしら」

「ウルスラ! 酷いよ! 初めてウルスラからおねだりしてくれたと思ったのに!」


 シグムントはウルスラの上に乗り上げた。顔の横に手をつき凄んでいるけれど、全然怖くない。

 秘密にしてるんだけど、彼がウルスラのことでムキになる時、実はちょっぴりキュンとする。


「初めてだったかしら? でも、私が何も言わなくてもシグムントはいつも色々くれるじゃない?私の大きな宝箱、もう四箱目よ?」

「そ、そうかもしれないけど……でもやっぱりウルスラにお願いされたら嬉しいよ、しかも、こ、こ、子ども……欲しいんだよね⁈ 昨日言ってたよね⁈ 俺の聞き間違いじゃないよね⁈」

「その幻聴はちょっと危ないわね……」

「ウルスラ!」


 珍しい。少し怒った顔をして不貞腐れている。

 んもう、可愛いんだから。


「本当よ。前から思ってたの。子どもは好きだし、シグムントの子どもだったらきっととっても可愛いわ!」


 ぎゅっと首に抱きつけば、シグムントの顔がぱあっと明るくなる。

 

「ウルスラによく似てたら本当に天使みたいだろうな」

「うふふ」


 顔を見合わせゆっくり唇を重ねた。


「私、シグムントがキスしてくれるの好き。とっても幸せな気分になるの」

「俺もだよ。今年も沢山しよう」


 優しく下唇を食んで口付けが深くなる。

 柔らかい舌が優しく絡んで寝間着のボタンが外されて外気が少し寒い。

 気がついてくれたシグムントは、買ってきたばかりの毛布でふたりを包み込んだ。


「あったかいな」

「ふわふわで気持ちいいわね、買ってきて良かった!」

「うん。ね、ウルスラ、俺、毎日頑張るね!」

「うん。……って、なにを?」

「何って……っ! ほ、ほら、子どもってさ、すぐ出来るわけじゃないし」

「あ、そ、そう……毎日……まいにち……しなくちゃダメなのかしら?」

「うん!」


 にっこり無邪気に笑われると、なんだか毛布の中の温度が上がった気がする。


「あ、シグ、熱い……身体強化使ってる?」

「ちがうよ、二人で愛し合ってるからだよ、きっと」

「……ふふ、そうね、新婚さんだものね」


 隙間なくくっつけば、毛布の中はますます暑くなる。


「……っ、ね、ウルスラ、どうしたら嬉しいのか教えて」

「どうって……たくさんキスしたり?」

「うんうん」

「えっと、優しく触ったり」

「うんうん、あとは?」

「まだ? ええとシグムントが気持ち良さそうだと嬉しくて私も気持ち良く、なる、かも」

「じゃあ、そんな感じで。頑張ろうね」

「んぅ」


 シグムントは、ふにゃっと幸せそうに相好を崩し、ウルスラの唇に喰いついた。喜んでいたのかなんなのか、彼はそのあと何回も頑張って、新年早々ウルスラはベッドから動けなくなってしまった。


「やっぱり間違いなく勇者の末裔だわ……」

「え? どういう意味?」

「…………」


 国中のいたるところに子孫を残しているだけある。


 こんなのを毎日だなんてちょっと辛いかも。


 と思ったけど幸せそうにウルスラの頬を撫でるシグムントの唇がおりてきて、結局何も言えなかった。

 甲斐甲斐しくお世話をされて、二人で微睡む。


「ウルスラ、今回は無事だったから良かったけど、もう一人で旅に出たりしたらダメだよ。俺、色々心配だったしあんまり工事も進まなくて、だからまだ家も完成してない……ごめん。離婚しないで」

「あら、良いのよ。気にしないで。シグムント、わたし、別に何にもくれなくったってあなたと結婚したのよ。シグムントったら面白いんだもの。ずっと一緒にいたいわ!」

「俺はウルスラの方が面白いと思うんだよなぁ。こんなに綺麗で可愛くて面白い上に俺のことを好きになってくれるなんて!! 良かった! 頑張って長年付き纏って!」

「あら、わたしシグムントに好きって言ったことあったかしら?」

「えっ?!」

 

 もう無理と言ってもやめてくれなかったお返しをすれば、ぎょっと目を剥いている。目玉がこぼれ落ちてしまいそう。ウルスラは思わずぷっと吹き出した。


「んもう、可愛い。大好きよ、愛してる! あ、いい? 勇者様とか言われても浮気しちゃダメよ!」

「勇者をして来たのはウルスラだろ……」

「あ、そうだったわ。でも私も浮気しないわ」

「うん、なんだかんだ、勇者の仕事は片付いて、ウルスラがお母様に連れていかれる心配も無くなったし、俺たちは愛し合っててこれから沢山子作りもする……良い一年になりそうだ」


 大きなベッドで笑い合っていると、毛布の中がほかほかだ。なにせふたりは新婚さんなもので、ちょっとしたことで甘い雰囲気になってしまうのである。

あっという間に子沢山になれそうなふたりにお付き合いいただきありがとうございました!


ブクマ、★、いいねもありがとうございます、とても励みになります。

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