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クロスライト  作者: k
3/4

第二話 レオダルク

 ゼリオナスの言葉を最後に、自己紹介は終わった。


 エルドランは「……以上だ。始業式までは少し時間がある。騒ぐなよ」とだけ言い残し、教卓に資料を置くと教室を出ていった。


 扉が閉まると同時に、静寂はあっけなく破られた。

 机を寄せる音、笑い声、軽い冗談――教室に一気に活気が戻る。




 お世辞にも滑り出しのいい初日とは言えない。

 ――そう思っていた矢先、隣の席から明るい声が飛んできた。



 「よっ、隣いいか?」



 顔を上げると、机の上から金髪の少年が覗き込んでいた。



 「君は……レオダルクくん。さっきはありがとう。助かったよ」



 アストレイが少し遠慮がちに言うと、レオダルクは軽く手を振って笑った。



 「おいおい、これから一緒に過ごすことになるんだぜ?“くん”なんていらねぇよ。レオダルクでいいぜ」



 その軽やかさに、アストレイは思わず口元をほころばせる。

 人付き合いには慣れていないはずなのに、不思議と自然に返せた。

 

 

 「確かにな。じゃあ……よろしく、レオダルク」

 「おう、よろしくな、アストレイ」



 レオダルクが差し出してきた手にアストレイが応える。



 「そういえばさ」



 レオダルクは机に片肘をつき、軽く身を乗り出した。

 窓の外から差し込む光が、彼の金色の髪に淡く反射している。



 「ルシファード、って言ってたけど……もしかしなくてもメティウス様の?」



 不意の問いかけに、アストレイは気まずそうに目を伏せた。



 「あー……うん。なんか、有名みたいだね」


 「有名どころじゃねぇよ!」

 レオダルクは思わず身を起こして叫ぶ。

 「この国に知らない奴なんていないんじゃねぇか?」


 その勢いに押され、アストレイは苦笑いを浮かべた。

 「いやほんとにね。初めて街に繰り出してびっくりしたよ」


 「初めて?」レオダルクは眉を上げた。

 「お前、学校とか通ってなかったのか?」


 「え?うん。逆にここ以外に学校があるの?」


 あまりにも素で返すアストレイに、レオダルクは思わず息を詰まらせ、

 そして吹き出した。



 「むしろここは“選ばれた人間しか入れない”王立学園だぞ?自己紹介思い出せ。いいとこの子ばっかだっただろ」

 「いやぁ、ごめん。本当に外のことは知らなくて……でも、レオダルクは苗字ないって言ってたよね?」


 「まぁな」レオダルクは肩をすくめる。

 「ここはあくまで“実力”を見てくれる場所だから」


 少し間を置き、彼はアストレイをじっと見た。

 「……それにしても、合点がいったよ」


 その瞳に浮かんでいたのは、驚きでも嫉妬でもなく、

 純粋な“興味”の色だった。

 アストレイが軽く首を傾げると、レオダルクは深くため息を吐いた。

 周囲のざわめきを気にしながら、声を落として言う。


 「その角の飾り、あんまり趣味がいいとは言えないぜ」


 「飾り?」アストレイは眉を上げた。

 「これは飾りじゃないよ」


 「……は?飾りじゃ、ない?」


 「うん。生まれつき生えてる」


 その一言に、レオダルクの表情が固まった。

 思考が追いつかないように視線が泳ぎ、「まじかよ」「ってことは……」と小声でつぶやく。


 アストレイは首をかしげながらも、どこかあっけらかんとしていた。

 「そんなに驚くこと?みんな生まれつき何かしら違うもんだろ?」


 レオダルクが慌てて口を開いた。

 「……このこと、知ってる人は?」


 「親父と家の人くらいかな」


 「メティウス様は……何考えてんだよ」

 レオダルクは頭をかき、ひと息ついてから真剣な声になる。

 「よし。このことは俺たちだけの秘密だ」


 「秘密?なんかマズいのか?」


 レオダルクは少し言いにくそうに眉を寄せた。

 「そうだな。一般的には――“魔族の証”とされてる」


 「魔族?」

 アストレイは目を瞬かせた。


 「本当に知らねぇんだな……」

 レオダルクは苦笑し、椅子の背にもたれかかる。

 「しょうがねぇ。放課後、ちゃんと教えてやる。せっかく友達になったんだしな」

 「……ごめん。変なこと巻き込むみたいで」

 

 

 アストレイがうつむく。フードを深くかぶった。


 レオダルクはしばらく何も言わず、ペンを指でくるくると回した。

 カチ、と芯が引っ込む音。


 「なあ」

 顔を上げたアストレイの前で、レオダルクが笑っていた。

 示し合わせたように短い予鈴がなり、教室が静寂に包まれる。

 レオダルクは軽く肩をすくめ、からかうでもなく、まっすぐな目で言う。


 「友達には“ごめん”じゃなくて“ありがとう”でいいんだよ」


 その言葉のあと、教室の時計が小さく鳴る。

 レオダルクは立ち上がり、伸びをしながら窓の外を見た。

 風が吹き込み、彼の髪を少しだけ揺らす。


 「さ、そろそろ始業式だな」

 アストレイはその背中を見て、少しだけ息を吸い込んだ。

 

 窓の外では、雲の切れ間から光が差し込んでいた。

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