プロローグ
王都の朝はいつも騒がしい。
露店の客引き、走り回る子供たち、そしてどこからともなく飛び込んでくる「三英傑」の名前。
「昨日もメティオス様がやってくれたみたいだぞ!」
「やっぱりメティオス様だな!あの飄々とした態度の裏に本物の力があるんだ!」
「おっと、俺はクラトス様派だな。あの渋さがたまんねぇ」
「何言ってんの!最高なのはカルディア様よ!あの笑顔だけで、国が救われるわ!」
人々は当然のように英雄たちを話題にし、笑い、憧れ、誇らしげに語り合う。
そんな会話を耳にしながら、アストレイは小さくため息をついた。
(……昨日、親父が「僕、結構有名人だから」とか得意げに言ってたな…冗談だと思ってたのにマジだったのかよ…)
にやにやと笑うメティオスの顔が、ふと脳裏をかすめる。
歩を進めれば、「三英傑御用達!」と掲げられた露店が軒を連ねている。
剣やら、魔導書風のノートやら、子ども向けの木彫り人形。
屋台の片隅にはカルディア様モデルの首飾りがぶら下がっていて、欲しくてだだをこねている子もいる。
さらに先では、木の棒を振り回す子供たちが三英傑ごっこに興じていた。
「俺、クラトスやる!」
「よっしゃ、じゃあ俺はメティオス!必殺魔法〜!」
「じゃじゃーん、カルディア様モデルの首飾り!」
立て続けに目に入る“三英傑”の痕跡に、アストレイの額に変な汗がにじむ。
呆然としながら歩いていると、ふと視界が塞がれた。
目の高さよりもずっと大きなものが目の前に立っている。
おそるおそる見上げると、そこには――堂々たる姿で建つ、メティオスの銅像があった。
(にしても…)
「有名すぎるだろ!!!」
思わず声が出てしまい、通りすがりの人がちらりとこちらを見る。
アストレイは慌てて咳払いでごまかした。
そのとき、銅像の前で荷を降ろしていた商人が声をかけてきた。
「お、兄ちゃんもメティオス様のファンかい?」
「い、いや……」
返答に困っていたアストレイに、商人の視線が銅像からうつる。
表情がふっと曇り、低い声で言った。
「……兄ちゃん、趣味悪い飾り物してんなぁ」
「え?いや、これは……」
言いかけた瞬間、荘厳な鐘の音が街に響いた。
「す、すみません!急いでるので!」
アストレイは慌てて頭を下げ、走り出す。
走りながら、ふと頭に浮かんだのは、真剣な顔で時間を伝えてきた親父の顔だった。
(……信じた俺がバカだった!あのバカ親父、適当な時間言ってやがったな!)
「初から遅刻日とか、ほんとシャレにならねぇ!」
そう叫びながら、アストレイは王立学園へ向かって全力で駆けていった。




