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12ー2

 処置室に入る前に、悟はあたしを長椅子に座らせて、あたたかい紅茶を自販機で買ってきてくれた。


「ありがとう」


 その紅茶のぬくもりを感じながら、あたしはひとつの決断にたどり着いた。


「あのね、悟」

「なに? どうした? 楓さんたちはこっちに向かってるって」

「うん。そのね、悟はまだあたしのことが好き?」


 あまりのことに目を大きく開けた悟の、一重まぶたが愛おしく見える。不思議。


「うん。だから、プロポーズしようと思ってた。里奈、好きだ。結婚を前提として、お付き合いをさせてください」

「本気?」

「本気」

「じゃあ早く、式場の予約取らなくちゃ。ちゃんとした式を挙げて、夫婦になってくれる?」

「もちろん、そのつもり。でも、おれでいいの?」

「悟じゃなきゃ無理。カブラくんは悟に懐かないかもしれないけど、いい?」

「望むところよ」


 けど、それなら二人が住む場所が必要だし、式を挙げるからにはお金も必要。


 最低限の式でいいけど、お父さんに花嫁姿を見せてあげたいんだ。


 そうしたらきっと、お父さんもっとたくさん生きられるから。


「里奈」


 悟はひざまずいてあたしにベルベットの小箱を開けてみせた。


 指輪だ。


「あんまり上等なやつ買えないから、おれの手作りで我慢してくれる?」

「うん」


 涙が、こぼれた。


「里奈、おれと結婚してください」

「はいっ」


 その指輪は、とてもいびつだったけれど、あたしの指のサイズにぴったりだった。


 どうして悟を選んだのか、早まってしまった結論なのかはまだわからない。


 ただ、お父さんのもろもろや家庭のもろもろやあたしの過去を知った上で、現在のあたしのことも認めてくれる悟がとてもたのもしく思ったことは間違いなくて。


 楓さんたちには悪いけど、悟がとある会社に就職したと言ったから、それもうれしかったし、悟は大人になってから、こんなにもサプライズがうまいとは思ってなかった。


 まだほかほかの、あたらしい感情に包まれた状態で手をつなぎ、処置室に入る。


 お父さん、と話しかけるとだるそうに目を開けた。


「お父さん。きちんと治療受けてください。そうじゃなきゃ、あたしと悟の結婚式ができなくなっちゃうよ?」


 そう言ったらお父さん、大粒の涙を流した。


「本当に彼でいいのか? 状況に流されて、妥協したんじゃないだろうな?」

「ちがう、と思う。だからお父さん、生きてください。生きるために治療を受けて、あたしたちの結婚式に参加して欲しいし、いつかは孫の顔も見せたいし、赤ちゃんを抱っこしたいでしょう?」

「うん。おれ、治療したら金かかるぞ。でも、治療する」

「必ずだよ? 約束だからね」


 これが、お父さんとしたはじめての約束。これからもたくさんの約束が増えていく予感がしている。絶対だからね。約束は守らなくちゃいけないんだよ。


     つづく

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