11ー9
お父さんはごそごそとジャケットの上ポケットからくしゃくしゃになった封筒を取り出した。
「これが証拠。里奈が大人になったら読ませてくれってことも、ここに書いてある」
あたしは震える手でその証拠の封筒を受け止める前に引っ込めた。
だって、お母さんの字だから。お母さんの字が、大切な家族へって書いてあるのが、不思議すぎて。こんなの、できすぎているよ。
「母さんの気持ちだ。ちゃんと受け止められたら、自分があまえていることに気がつくはずだよ」
お父さんは強引に封筒をあたしの手に握らせた。
「やだっ」
「受け取りなさいっ。覚悟したんじゃなかったのか?」
そういう覚悟じゃないと思ってたんだもん。
たぶん、水道工事はもう終わりなのだろうけれど、あたしたちに気を使って、誰も降りてこない。
お父さんはもう一度、きつく握りしめたあたしの拳をこじ開けて、封筒を持たせた。
「里奈が大人になるのを、ずっと待っていたんだ」
だってこんなの単なる茶番でしょう?
「お父さんは外にいるから、みなさんにご迷惑をかけないように、覚悟して読みなさい」
そう言うと、お父さんはドアベルを鳴らして外に出て行ってしまった。雪、降ってるのに。寒いでしょ?
なのに。誰も降りてこなくて。
心臓が張り裂けるような強さでドンドンと鳴りつづけている。
一度大きく深呼吸してから、封筒を開けた。
何回も読まれている跡を残す封書が、丁寧に折りたたんでそこにあった。
嘘だよ、こんなの。
自分に見栄を張って封書を取り出して開く。
ほら、ね。お母さんの字なんかじゃ……。お母さんの字だった。
[わたしの大切な家族へ
まず、わたしの病気のことでたくさんの借金をさせてしまったこと、深く後悔しております。治療費がこんなにかかるとは知りませんでした。
お父さんと里奈はきっと、これから先も借金をはらっていかなければならないはずなのに、たぶんわたしは助からない。それなのに、治療してくれること、心から感謝してます。
まだ小さい里奈のことを思うと、すぐにでもあたらしいお母さんが必要になると思うけど、少しだけ我慢してください。あなたが大人になって、結婚式を挙げる時には、わたしの親友があなたのお母さんのお役として、立派に役目を果たしてくれるという約束をしてくれました。
回りくどいわね。里奈が二十歳を過ぎたら、わたしの親友とお父さんが再婚することになるけど、あなたのお母さん役が結婚式にいないと恥ずかしいかもしれないから、あくまで業務提携みたいなもの。ヤキモチを焼かないようにね。
それから、お父さんに最期を看取られたくないから、パチンコに行ってもらうことにしてあります。これも、わたしが事前に決めたことです。看取られたくないのよ。それだけ]
そこまで読んで、自分のお母さんがここまで考えてくれていたことが、わかるような、信じられないような、心が分離したみたいに寒くなった。
つづく




