11ー6
昼休憩の直前に、いさおおじさんが愛犬のポンタくんを小脇に抱えて来店してきた。
「ちわっ。楓ちゃんいる? 水道が壊れたんだって?」
「ああ、はい。二階ですが」
ほうほう、それは、と言いながら、おじさんはあたしにポンタくんを手渡した。
「言ってくれれば、すぐ直しに来たのに」
……いさおおじさんって何者なのか、いまだにわからない。あたしの腕にすっぽりとおさまったチワワのポンタくんが、マットの上でぽけっとしているカブラくんを威嚇してうなる。
こらこら。あんまり派手にやらないでよ。
「え? おじさん、どこで水道壊れた話聞いたの? お客さんには話してないのに」
「地獄耳なんだよ、おれは」
椿さんを前にしても、おじさんは少しもひるまなかった。
それより楓さん、本当に遅いなぁ。
水道工事にかかりそうなお金を工面してくる、と出かけていった楓さんだから、きっと銀行か郵便局に行ったと思ったのに。
このままだと、昼過ぎに業者さんが来る前に、いさおおじさんが手を出してしまいそう。
なんて思っていたら、電話が鳴った。
ひょっとしなくても楓さんからだ。
「もしもし?」
『もしもし、あたし。事故現場かなんかで立ち往生していて、工事の時間まで帰れなさそうなの。だから、椿に見ていてもらってもいいか聞いてくれる?』
もちろん、スピーカーホンにしてあるから、椿さんが大きな声でいーよーと返事をした。
それにしても事故現場ですか。
年の瀬に物騒だなぁ。
『じゃあ、あとはよろしく。またね』
それだけ言うと、楓さんは電話を切った。
「あらやだ。初雪じゃん」
椿さんがつぶやいたから、みんなで窓の外を眺める。
比較的暖かなこの地域で雪が降るのは珍しいことだけど。楓さん、大丈夫かな?
「じゃあ午後から休診ってことでいっかなぁ? おじさんはどうする? ポンタくんシャンプーしたら風邪ひかせないようにしないとだけど?」
椿さんの提案に、いさおおじさんは首をすくめる。
「そんなら爪切りだけでいいや」
「まいどあり〜」
そうしてポンタくんの爪切りをガン見して(やっぱり、どうしても楓さんや椿さんの方が爪切りがうまい)、おじさんもにっこにこで支払いを済ませて帰って行った。
あたしたちは、ちょっと遅れた昼食を摂る。
そして、水道屋さんがサロンにやってきた。
つづく




