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11ー5

「へぇ〜。里奈もカブラくんに依存したくなるもんなんだな?」


 あたしがカブラくんのぬくもりを感じていたところを、悟にしっかり見られてしまった。


 見られてしまったものは仕方がない。


「そうだよ。だってカブラくんは世界にただひとりしかいないもん」

「おれだって世界に一人しかいないんだぜ?」

「なにそれ」


 ちょっとこっ恥ずかしくなって、つっけんどんに返してしまった。


 ……人と別れるのは慣れてない。あたしを産んだお母さんは、あたしが小さい時に死んでしまったから。それからは、毎日毎日神様に祈ってた。


 いつかお母さんを返してくださいって。


 誰にも知られていない秘密の祈りはやがて、荒唐無稽なものだと気づいた頃、ようやくあたしは心から泣いたのだった。


 悟もカブラくんも。ここにいるみんなとお別れすることにでもなったら、と思うとぞっとする。寒い。すごく、震えが来るほどの恐怖。


 でも、いつかはどこかで分岐点があって、そこでいろんな形の別れがくるんだ。


 その時あたしは、きちんと受け入れられるのだろうか。


 もう後悔したくない。


 過去に思いを馳せていたら、悟はいつもの笑顔で、なんてなぁ〜なんておどけて見せたけど。


 カブラくんが生きていてよかった。よしよしって頭をわしゃっとなでてしまう。


 このさわり心地がたまらんのだよ。たとえばこの瞬間が嘘にならないために、手のひらにしっかりとあたたかさと手ざわりをまとわせる。それしかできないから。


 なんとなくセンチメンタルな気持ちになりつつも、一階で接客しながらのほほんとした時間が過ぎる。


「里奈、シャンプーご所望のお客様一件。お願いします」


 悟があたしにトリミングのお客様を紹介する。


「あら。若いって素敵ねぇ」


 いかん。マダムが勘違いをしておられる。あたしと悟はただの幼なじみで、友達。それだけ、なのにっ。


 ……それだけ?


 って視線で悟に伝えるも、悟はぽかんとしているばかり。こういう、ちょっとしたことがわからないところがうちのお父さんに似ていて気の毒になる。


「それではトリミング一件。担当はわたくし松下が担当します」

「楓さん、今日はお休みなのかしら?」


 来たよ、楓さんのファン。どうしよう。


「浜風はただいま、所用のため外出しております」

「それは残念。じゃ、また今度にしようかしら?」


 これだよ。いつもこうなんだよ、あたし。


 でも。


「こう見えましてもわたくし、シャンプーの腕はいいと評判なのですよ」


 悔しいからでっちあげる。あたしなら、噛まれても、かじられても文句を言わない。それだけなんだけどね。


 マダムはあらそう? と向き直り、値踏みするようにあたしを見た。


「なら、お願いしようかしら?」


 よし、一件取り付けた!


     つづく 

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