10ー7
ドアベルの音で驚いてカブラくんが目を覚ます。
あたしたちの足元で尻尾を振っていたラブちゃんが激しく吠え立てた。
「静乃? どうしてここに? それにミルクまで連れて」
さっき会った静乃さんが嘘だったように髪を振り乱して、泣き顔になっていた。
酔ってはいないようだ。
「返してよぉ!!」
静乃さんの一言目はそれだった。
「優はあたしの大切な人なんだからぁ。愛が冷めたなんて嘘だし、他人に優しくしすぎてヤキモチ妬いたから、ラーメンの食べ比べをしたいなんて無茶言ったのに」
……はぁ?
「ミルクさえ側におけば、いつか帰ってくると思っていたのに、まんまと若い女に籠絡されて。ひどいわ。そろそろ結婚してくれるんじゃないかなんて期待していたあたしがバカみたいじゃない」
泣きはらした静乃さんに気を取られていて、椿さんがいないことに気がつく。
これは、世に言う修羅場とか、そういったものなのではないのか?
「静乃。わがままばかり言うんじゃない。そりゃぼくも、そろそろ結婚を考えてはいたさ。でも、きみのわがままぶりに疲れてしまったんだ」
「だから、そうやって言ってくれればあたしだって素直になれたのに。ラーメンなんて袋麺で充分なの。そんなことより、帰ってきて!! 仕事ならあたしがまた探してあげるからっ」
……また?
「とにかく、ひとの店で騒ぐのはよくない」
「じゃあ戻ってきてよ。あたし、あなたが居ないとダメなの。お願い、結婚して?」
まさかの逆プロポーズ!?
「いいよ。結婚しよう。ただし、これからはなんでも素直に言うこと。そうじゃなければぼくがきみの本心に気づけないからだ。それでもいい?」
うん、って言って。静乃さんがミルクくんをあたしに預けて白木さんに抱きついていた。
わお。失恋確定。
「結婚しよう、静乃。これからはなんでも正直に、だよ?」
「うん。優大好き!!」
二人は店内で口づけをはじめた。
失恋決定だし、目の毒なので、あたしはカブラくんの元にさがる。
「元気出しなよ、里奈っち。ね?」
いつの間にやら椿さん。今日はあたし、笑えないです。
「はぁ〜い、お待たせ。パスタの出来上がり〜」
椿さんが上機嫌でパスタを乗せたお皿を客待ちに持っていくと、悪いんですけど、と白木さんが頭を下げる。
「これから二人で役所に婚姻届を出しに行くのでこれで失礼します」
「ああ、うん。いいよ、わたしは。でも、さ?」
椿さんは裏方で潜んでいるあたしのことを顎でさす。
「松下さんには本当にお世話になりました」
「いや、こっちがお世話になったんですって」
もはやカオスになってきた。涙が、涙が止まらないよぉ〜。
「それではまた今度、ミルクを連れてきます。さようなら」
こうして、あたしの恋はつぼみのまま千切れて消えた。
椿さんの言う通り、男なんて信用できないわっ。
つづく




