1ー7
チワワのポンタくんが運び込まれてから三十分ほどがすぎた。
かろうじて息をしているものの、吐き出す力はとても弱く目はうつろなままだ。
「先生、なんとかならんのですかい?」
「ごめんいさおおじさん。あたし、獣医師の免許は持っているんだけど、ここには特殊な設備がないからなにもできないんだよ。でももうすぐ、椿姉さんが来るから」
椿姉さん? その言葉と共に、ドアベルが荒々しく鳴り響いた。
「楓お待たせ。色々持ってきたぞ」
「姉さん、早く!!」
楓さんに姉さんと呼ばれた人は、楓さんよりもう少し年上のように見えた。やっぱりとても美人さんでスタイルも良く、白衣がすごく似合っている。
「楓、あわてないで見てな。おっちゃん、あたしの見立てだと、この子は殺鼠剤を食べてない。けど熱中症で危険な状態にある。最悪の場合、安楽死させてあげるという決断もあるけどどうする?」
おじさんは、うぐ、と声をつまらせて泣き出しそうになる。
「泣くなおっちゃん。泣きたいのはこの子の方だ。それで? 決断は?」
言いながらも、手早く細い足の毛を刈り、点滴を刺してゆく。
「どうすんの? この子、苦しんで死ぬのか、おっちゃんに見守られて死ぬか、あるいは生きるかの三択しかないんだ」
あたしはごくりとツバを飲み込んだ。これが、命と対峙するということ。
もしあたしが指輪ではなく、殺鼠剤を持っていたら、カブラくんは興味を持って食べてしまったかもしれない。
もしあたしがカブラくんの異変に気づくのが遅れたら、熱中症で苦しんだかもしれない。
それが命。
たったひとつの命を預かるということ。
「そこの女。あんたも泣くな。それとそこなるフレブル。あんたは早く飲み込んだ金属片を出すんだな」
すごい。全部ぱっと見ただけでわかっちゃうなんて。
あたし、泣いてる場合じゃない。
「楓、氷できるだけたくさん持ってきて。この子の体冷やすよ。おい、ポンタくん。戻っておいで。きみはまだ若い。だからもっとたくさん苦労して生きなくちゃダメだ」
そう言い置いてから、その人は。
「あたしは椿。立花 椿。楓とは遠い親戚らしい。一応獣医師。たすけた命は少ないけど、最後の手段で呼ばれるのがわたしだ」
そう言うと椿さんは、ポンタくんの胸に聴診器をあてる。
「戻ってこい。ここはあんたが生きていることをゆるされる場所だ」
ポンタくん、がんばってっ!!
つづく




