10ー3
白木さんがいないのなら、とすぐに靴を履いたあたしに、静乃さんはミルクくんの頭をなでた。
「ミルクは連れていきたいってしつこかったけど。それだと泊まるところないでしょ? それでも、漫画喫茶とか、そんなところで寝起きできるのかね、あの人。それと、白木とはもう恋人でもなんでもないから気にしなくていいよ」
どうしてだろう。この部屋に来ると、帰りがいつもつらくなるのは。
ミルクくんはすごく元気だったけど。
白木さんはどこにいるんだろう?
あたしのせいで状況が悪くなってしまって、責任を感じる。
楓さんから電話をもらったあの時、あたしがもっときちんとしていられたら、こんなことにはならなかったのに。
手の中で白木さんの携帯電話の番号がかさついている。
あやまらなくちゃ。
エレベーターを降りて、地下駐車場に着くまえに地上に出た。地下だとスマホの電波がなかったら困るからだ。
すぐに紙を広げて白木さんに電話をかける。
その時。植え込み付近からスマホのバイブレーションが聞こえて体をすくめる。
がさっと音がして、隅から白木さんがあらわれた。
「白木さん。こんなところに。あたし、ごめんなさいっ!! こんなにたくさんご迷惑をかけるなんて知らなかったんです!!」
無精髭を生やした白木さんが、顔を上げてください、と穏やかに告げる。
「今回のことは、自分でわかっていた上でしたことです。それより、カブラくんはどんなですか?」
「カブラくんは、カブラくんは……」
泣くつもりはなかった。だけど、白木さんが優しすぎて、どうしても涙があふれてきてしまう。
「カブラくんは、無事でした。麻痺が残るとしても、リハビリ次第でどうにかなるかも、なんです」
必死に言葉を紡ぎながら、涙をこらえるも、安心したことで涙がとまらなくなった。
「ごめんなさい、あたし」
「泣いてもいいんです。ぼくはどんなにみじめになっても、ミルクと引き離されるまで泣くことができなかった。こんな男、誰だって愛想をつくすでしょう?」
植え込みから出てきた白木さんに、よしよしと頭をなでられて、どんどん情けない気持ちがあふれ出してくる。
でもきっと今は、白木さんの方が情けない気持ちで一杯なはずだ。
そんな白木さんに怒られることなく、はげましてもらうなんてあってはならない。
「おっと」
その時、白木さんがバランスを崩した。
「ごめんね、しばらくまともなご飯を食べてないもので」
そう言われてはじめて、預かってきたゴールドカードを静乃さんに渡しそびれたことを思い出した。
つづく




