10ー2
事前に伺うことを話してなかったけど、白木さんはご在宅だろうか?
地下駐車場に車を停めると、てくてくとエントランスまで歩いた。
部屋番号を押すと、女性の声が響く。
『はい? どちら様?』
もしかしたらこの人が白木さんの恋人かもって思ったけど、浜風ペットサロンの松下ですと告げると、女性はああ、と頷いてどうぞと扉を開けてくれた。
どうなるんだろう? 白木さんはいないのかしら? それとも?
あたし、あんなにたくさん迷惑をかけてしまったのに、パンとワンちゃん用のおやつってだけでよかったのかな?
後悔してももう遅い。
エレベーターは順調にあがり、その階で停まった。
ビニール袋のカサつく音に自分で驚きながら、白木さんの部屋番号のベルを押す。
「はい、いらっしゃい」
驚いた。
なんだか想像していたよりもずっと綺麗な女性が、長い髪をなびかせてドアを開けてくれた。
その足元で、ミルクくんが吠えている。
「ああ、あたし。白木の元カノの岩田 静乃です。よかったらあがって」
「あ、はい。よかったらこちらをお受け取りください」
静乃さんは、あたしが差し出した袋をそのまま受け取ると、パンの薫りにうっとりして、ワンちゃんのおやつにぎょっとしていた。
「犬用のおやつって高いんでしょ? 無添加だし。いいの?」
まるで友達と話しているようなフレンドリーな言葉遣いにまたおののく。びびりすぎだよ、あたし。
「はい。たくさんご迷惑をおかけしてしまいましたので」
「ああ。じゃあお金を返してくれるわけじゃないんだ。白木ならここに住めるだけの家賃が払えなくなって出て行ったよ」
「え?」
「はっきりとは言わなかったけど、あいつ人が良すぎるから。きっとあなたがきっかけで無免許運転して逮捕されたあげく、あなたの保釈金まで払ってあげたんでしょう? ここまで来るんだったら、あいつに電話しておけばよかったのに」
あ、番号知らない? そんな浅い関係? と言いながら、静乃さんはメモ帳に電話番号を乱暴に書き付けた。
「はい、これあげる。ついでに白木、逮捕されたせいで会社クビになったの。あんたのせいで」
ドキッとした。そんな予感がなかったわけじゃないけど、実際にそうだと言われてしまったら、やっぱりそうかと後悔してしまう。
「あの、あたし……」
「ん? 気にしなくてもいいんじゃない? あいつ、誰にでも優しいから面倒くさくなってきたんだよね。だから、ラーメンの食べ比べしたいって言ったら別れてくれるかもって思ったんだけど、なかなか察してくれなくてね」
悲しくなった。
「顔だけはよかったんだけどね。無職の男なんて、いいとこなしでしょ?」
あははっと笑う静乃さんを責める権利はあたしにはない。なぜならあたしも、お父さんたちのことをだらしないと思っていたからだ。
この世はなんてままならないのだろう。
つづく




