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10ー1

 手土産は本谷さんちのパンとして。サロンにならべられた無添加のおやつをいくつか買っていく。


「おやおや、熱心で初々しいねぇ」


 なんて椿さんにひやかされたけれど、そんなんじゃないもん。


 レジでおやつ代を払って。


「あの、少しの間カブラくんのことたのんでもいいですか?」

「いいよ。わたし今日は断酒するから。カブラっちのことまかせておいて」

「ありがとうございます。では、行ってきます」

「ちょい待ち」


 椿さんはあたしに、金色の診察カードを差し出した。


「わたしたちからのお礼はこれ。白木さんには悪いことしたから、ミルクくんはこのゴールドカードで無料でトリミングするから。ちゃんと渡してね」

「わぁ。ありがとうございます」


 そうしてなんとなく普段着で外に出てしまったことを早速後悔したところで。ドアがまた内側から開いた。


「里奈ちゃん、少し時間があったら服着替えてからにしようか?」


 椿さんはすごく気の利くお姉さんだった。


 あらためてサロンの中に入ると、椿さんの部屋に通される。アンティークなチェストから、可愛らしい花柄のワンピースが取り出された。


「これ着てみて。絶対似合うから」

「いえ、でも」

「まだ自分のことブスだと思い込んでる? それはお父さんと悟くんの呪いだけど。呪いを解くのは自分じゃないと、ね?」


 そこまで言われてしまったら、着替えないわけにはいかない。


 あたしは久しぶりに女の子らしいワンピースに袖を通した。生地のおかげで、すごくフィットしている。


「あとお化粧と髪はわたしがやるから。鏡台の前に座って」


 もはや言われるままに顔を塗られてゆくと、出来上がったあたしは間違ってもブスというほどでもない感じに仕上がった。


「これでいっかな。髪もこんなでいい?」

「はい。なにからなにまで、ありがとうございます」

「お礼はいいから。もう行ってもいいよ。気をつけてね」

「はい。行ってきます」


 あらためてカブラくんにあいさつをしてからドアを出る。


 さっきドアを開けた時とは違う軽やかな気持ちに驚きつつ、靴もいつもより少しだけフェミニンなものを用意して、スニーカーも完備。


 早速スニーカーに履き替えて、車で本谷さんのパン屋さんへと向かった。


「あら里奈ちゃん。久しぶりねぇ。今日はデートかい?」

「そ、そんなんじゃありません。けど、すごくお世話になった方への手土産を買いに来ました。手伝ってもらえますか?」

「もちろんよ」

「モチロンヨ、ガー」


 家の中で、オーちゃんが本谷さんの声を真似して鳴いていた。よかった。なついているみたい。


 本谷さんは、メロンパンやクロワッサン、ツイストロールや総菜パンまで選び尽くしてくれたうえに、ミルクくんのために塩分糖分油分控えめのパンを別に包んでくれた。


「ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとう。よかったらまた来てくれる?」

「はい、もちろんです」


 こうしてあたしは、二度目となる白木さんちのマンションへと向かうのだった。


     つづく

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