9ー7
免停中の白木さんの運転で、浜風ペットサロンにたどり着いた。
「さぁ着きましたよ。カブラくんのお母さん」
その言葉にはっとした。
よくペットのママとかパパとか聞くけど、あたしはなんだかぴんとこなくて。
なのに今は、自分がカブラくんのママだという自覚がある。
白木さんのハンカチで涙を拭いて、彼にうながされるまま、サロンのドアを開けた。
子気味いいドアベルが今だけのんきに聞こえた。
「里奈ちゃん!! カブラくん、今点滴して眠ってる。大事にはいたらなかったけど、麻痺は残るかもしれない」
あたしを見るなり一息で説明してくれた楓さんが、白木さんを見て目を伏せた。
「松下のために、ありがとうございました。こちら、帰りのタクシー代として使ってください」
「いえいえ、そういうわけにはいきませんよ。それにぼくも、カブラくんの顔を見て帰りたいですから。なにがあったんですか?」
白木さんは、あたしの代わりに聞いてくれた。そしてさりげなくあたしを客待ちのソファに座らせる。
「突然顔や体が斜めになったんです。それで、どうかしたのかと思ったら、苦しそうに何回も吐いて。状況的に、麻痺が残る可能性があります。わかる? 里奈ちゃん」
わかります、と答えたきり、あたしはカブラくんに会いたくてたまらなくなった。それなのに体に力が入らなくて、どうすればいいのかわからない。
「失礼ですが、松下さんを抱えてカブラくんに会いに行ってもかまいませんか?」
「それはもちろん。こちらです」
楓さんと白木さんに両側から支えられて、あたしはカブラくんが点滴をしたまま眠っているゲージまでたどり着いた。
針の刺さった腕が痛々しい。
「カブラくん……」
出てきた言葉はそれだけだった。あとは、彼が苦しそうに息をしているのをじっと聞いている。
「カブラっちがんばってるよ。里奈ちゃん」
椿さんは、白衣を着たまま腕まくりしている。
「誠くんが異変に気づくのが早くて、処置も早く済んだから、最悪の状態にならずにすんだんだよ。ちなみに少年たちは家に返したけどね」
とても心配していたから、メールを送ってくれたとのこと。
なにからなにまでお世話になって。カブラくんの命まで救ってもらえた。
「ありがとうございます」
やっとのことで出てきた言葉に、楓さんも椿さんも何回も頷いてくれた。
あたしもカブラくんも、なんて幸運なのだろう。
ゆっくり息をして眠っているカブラくんが、愛おしくてたまらない。
こうして生きて会えて、本当によかった。
つづく




