1ー6
あたしがお味噌汁を作っていると、後ろから楓さんに覗き込まれる。
……なんていうか。彼氏みたい。
なんてね。あはっ。
だけどそれくらい、楓さんかっこいいから。
お味噌汁をプレゼンしておいてなんだけど、お味噌汁なんて野暮ったいものなのに、スムージーの方がずっとかっこいいのに、こんなに喜んでくれるなんて。
「里奈ちゃんはすごいね。片付けができて、お味噌汁も作れて」
「そんなことないです。はい、出来上がり〜」
あたしの声にあわせて、楓さんがふたつのお椀を差し出してくる。
「はい、どうぞ」
楓さんの手に温かいお椀をのせるとん〜って匂いを嗅いでいる。
「おいしそう!!」
「これはたぶん大丈夫です。一緒に食べてもいいですか?」
「全然平気。いただきますっ」
そのまま台所をの椅子に腰かけて、ふたりでお味噌汁を飲む。
「おいしぃ〜!! 温かい」
「うん、おいしくできてよかった。野菜もおいしいです」
「でしょ? みんな器用だからさ、家庭菜園で育てたんだって。すごいよね。あたし、すぐに枯らしちゃうんだよね」
あははっと豪快に笑う楓さんは、それでもとても美しくて。飾らない人柄がまた、彼女をより魅力的に彩っている。
「先生!! うちのポンタが殺鼠剤を飲んだみたいなんだ!!」
と、そこに。いかにも中年のおじさん、といったいでたちの方が乱暴にドアを開けた。腕の中にはぐったりしたチワワがいる。
「すぐ寝台に。里奈ちゃん、いしおおじさんの相手してやって。なんでもいいから気任せに楽しい話をするんだ」
突然空気が変わった。
楓さんは早口でまくしたてたあと、どこかへと電話している。
「そう、殺鼠剤を飲んだらしいんだ。その件も含めて、今すぐ診てほしい」
それだけ言うと、楓さんは白衣を着込んだ。
結局、話なんてできなかった。
「おじさん、この子、いつ殺鼠剤食べたかわかる?」
「それが。うちもネズミでかなり神経が参ってたから、知らないうちに食べたみたいなんだ」
「消化する前に吐き出させるか。あるいは最後の決断をするか、決めておいてくれる?」
最後の決断って、まさか?
「そう、安楽死。苦しまずに死なせてあげることも、飼い主の気持ち次第なんだよ。だから里奈ちゃんは、カブラくんが指輪を飲む前にそのことを知らなくちゃいけなかったんだ」
……知らなかった。あたしはただ、一時的な癒しを求めてカブラくんのママになったつもりでいた。けど違う。ペットと家族になるってことは、命を大切に預かるということを、まったく知らなかった。
つづく




