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ラブちゃんは恐るべき順応性を発揮して、とてもやんちゃな女の子だったとは思えないくらいに、すぐに楓さんの指示に従うようになった。
そんな楓さんを、悟は女神様だ、と例えるのだった。
さてさて、お茶も出したことだし、そろそろ詳しい話を聞きましょうか。
「それで? まだ和也と連絡取れないの?」
「そうなんだよ。あいつ、入院するなんて嘘だったんじゃないかな? スマホ全然つながらないし、結婚式も迫ってるし、あせるのなんの」
「あのさぁ」
ちょっとキレ気味にあたしが口を開いた。
「そんなことより悟は、あたしを結婚式に呼ばないのはなぜなんだい?」
「ああ! ついうっかりな。ほらおれたち距離感近すぎて、身内っつってもじいちゃんばあちゃんぐらいの気持ちでいるから」
「……カブラくん、悟のこと噛んでもいいよ?」
誰がじいちゃんばあちゃんだ。たしかにあたしたち、距離感近すぎて、漫画やドラマみたいに恋愛感情の欠片もなかったけどさ。
「仮にも人生ではじめての運命共同体だったあたしを、ばぁさんとかひどすぎない?」
「たしかに酷い。悟くんペナルティいち」
楓さんはラブちゃんをモフり放題しながら悟にペナルティを与えてくれた。
「悟っちは幼なじみのポジションをなめてるんだよ。だから巻き込まれるんだ」
挽きたてコーヒーを飲みながら、椿さんは遠慮なく言ってくれる。
そういう発言をしてくれるから、椿さん好き。
「あっははははっ。くすぐったいよラブちゃん」
どうやら柳くんもラブちゃんに好かれたみたいで楽しそう。
誠くんも遠慮なくなで回しているし、大型犬がいるだけでこんなに空気がにぎやかになるなんて、知らなかったよ。
さらにラブちゃんはみんなになでられてうれしそうにお腹を出している。
「うっわ。かわいい。今すぐお散歩に連れていきたい」
楓さんの瞳孔は完全に開いている。不思議な効果があるのかな?
自分のポジションを奪われてしまったカブラくんは、すっかりすねて、隅でうずくまっている。
知らなかった。カブラくんて以外にも内弁慶だったんだね。
あたしはカブラくんを抱き上げて膝に乗せると、ぺろっとほっぺたをなめられた。
「いいなぁ、里奈。いかにも愛犬家って感じ」
「え? あたし犬飼ったのカブラくんがはじめてなんだけど」
しまった、とばかりに苦笑いを浮かべる悟を見ていると、いちいち腹を立てるのなんて馬鹿らしく感じてしまう。
「けどまぁ、せっかく褒めてもらえたんだし、愛犬家って言われるのも悪くないよね」
そう付け加えたら、悟はならよかったと息を吐きだした。
つづく




