8ー2
『え? 里奈って動物好きじゃなかったっけ? 好きなテレビ番組のほとんどが動物関係で』
「そりゃ観るのは好きだけど。あいにくあたしもカブラくんで手一杯なんだよね」
カブラくんをなでながらそう言うと、悟はカブラくんって誰? と聞かれてしまった。
仕方がないから今日までの経緯を説明したら、ああ、なるほどと理解してもらえたみたい。
『だったら、二匹も一匹も同じじゃない? たのむよ。彼女、やっと口説き落として結婚式の相談までこぎつけたんだ』
「そこにあたしを巻き込まないでくださいます?」
そうだけど、と情けない声を上げる悟を尻目に、楓さんがどうかした? とジェスチャーで伝えてくる。
「幼なじみが犬を押しつけられたから、あたしに押しつけようとして」
「どんな子?」
「えっと、どんな子?」
あたしは悟に聞いた。
『ラブラドールレトリバーっての? まだ子犬なのにすでに大きいし暴れるしで部屋の中ひっちゃかめっちゃかで』
ラブラドールと聞いて、楓さんがぐっと親指を上向かせた。楓さん的には好感触といったところか。
でも、いきなり押し付けられて、それがまかり通ったと知られたら、そういう人が増えそうで怖い。
あたしたちが預かるのは、生きている命を預かるわけだから、品物みたいに扱って欲しくないんだ。
どうしたものかとあわてていたら、見かねた楓さんがあたしのスマホを奪い取った。
「お電話代わりました。はじめまして、あたし浜風ペットサロンのオーナーの浜風 楓と言います。お困りなことがありましたら、なんなりとご相談ください!!」
まさかの前のめり!?
楓さん、そういう人だったっけ?
とにかくも、楓さんはあたしのスマホをスピーカーホンにして話をつづける。
『はじめまして。でしたらあまえちゃってもいいですかねぇ? おれ、結婚式を間近に控えてるんですけど、潔癖症の彼女がこれまた犬嫌いで。このままだと挙式もキャンセルしかねない勢いなんですよ』
「仕方ないですよね。突然そんなことになったら。それで? ラブラドールレトリバーさんのお名前はなんと言うのですか?」
『ラブです。女の子で、生後一年は過ぎてないと思うんですが、おれもあんまり動物得意な方じゃなくて。それで、里奈のこと思い出してできれば預かっていて欲しいなって』
ふぅ〜む、と楓さんは考え込む仕草をした。なにをしても絵になるな。
「承知しました。しばらくうちで預かりましょう!!」
「ちょっと待った、楓。あんた、失恋の痛手を犬で埋めようとしてない?」
これには椿さんも大反対。
ところが楓さんはいたって冷静。
「ラブちゃんも、落ち着いた環境でなければくつろげないでしょうし。ラブラドールともなれば、散歩量も違いますしね。わかりました。やはりうちで預かりましょう!!」
あちゃ〜、と椿さんが頭を抱えるも、これはもう完全に楓さんのターンなのだった。
つづく




