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8ー1

 恋愛の難しさを知ったその日に、楓さんがこのサロンをどれだけ大切に思っているのかを知った。


 それだけじゃなく、サロンに来るお客様や動物たちをも大切にしている。


 正直に言うと、山茶花さんが犬っころ発言をした時はあたしも殴りたかったけれど、楓さんが代わりにビンタしてくれてせいせいした。


 なんというか、動物好きな人のやさしさを利用しようとしたり、馬鹿にしたりするのはすごくさみしい気持ちになるんだ。


 リクくんが命がけで守ってくれたのだから、山茶花さんはその意味に気づいて欲しかった。


 そうしたらきっと、楓さんの気持ちも違ったのかもしれないから。


 それに……。


「山茶花兄さんをひいたのは、年上の人妻だったんだ。だから、兄さんの自業自得なんだよ。まったく、どこまでわたしたちの善意を利用しようとしてんだよ」


 久しぶりの男言葉で椿さんが毒づいた。


 確かに、本当に楓さんのことが好きだったのなら、人妻に恨まれるようなことをするのは本当に間違ってる。


 半身不随になってから楓さんにプロポーズするのも、卑怯だ。


「なんかこうさ。色っぽい話がないんだよね、あたしたちって」


 そう言うと楓さんはけらけらと笑った。


 よかった、もう山茶花さんのことを割り切っているみたい。


 楓さんほど素敵な女性でも、恋愛は難しいのだ。そりゃ、あたしが恋できなくたって、不思議じゃないでしょうよ。


 ちなみにカブラくんはすっかり元気になったけど、疲れ切って今は眠っている。


 そこに、あたしのスマホが振動した。


 あたしはすみません、と二人に言いおいて席を立つ。


 液晶画面には、知らない電話番号。


「もしもし?」

『もしもし、里奈?』


 その声には聞き覚えがある。幼なじみの高杉 悟。ちなみに恋愛関係はない。


「悟? どうしたの?」

『実は、頼みがあるんだけど』

「なに?」


 電話の向こうで犬の吠え声が聞こえる。


「どうした?」

『やられた。和也っていたじゃん? 中学ん時同じクラスの』

「うん。で?」


 なにがどうしたんだろう?


『しばらく入院するからって犬を預かって欲しいって言うから預かったんだけど、そこから連絡が取れない。しかもかなりのダメ犬。すぐ噛むし、すぐ吠える。たすけて。里奈動物好きだったよな?』


 はぃぃぃ?


 なぜわらしべ長者みたいになっているのさ。


『あのさ、そのせいで結婚ダメになりそうなんだ。彼女、すんごい潔癖症で、犬嫌いなんだ』


 ……だから、どうしてそこであたしに白羽の矢が立ったのかって聞いているんだけど!?


     つづく

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