7ー3
どうやらカブラくんは、山茶花さんが入店するタイミングで外に出てしまったらしい。
GPSをつけてはいるものの、なにかあったらと思うと気が気じゃない。
「すみません、あたしカブラくんを探してきます!!」
どうしよう。カブラくん雨も雷も苦手なのにっ。ふだんはめったにドアの外に出ようとしないから、うっかりしていた。
ちょっとした油断が、こんなことになるなんて悲しすぎる。
椿さんに大きめのタブレットを借りてカッパを着ているところへ、山茶花さんがとんでもないことを口にする。
「まったく。ぼくが一大決心をする時はいつも犬っころが邪魔をするな」
その一言でカチンときたけれど、どちらかといえばあたしは部外者だし、ただ黙っているしかなかった。
その瞬間、ぴしゃんと乾いた音がした。
楓さんが山茶花さんをぶったのだ。
「なにするの? 楓」
「好きだったんだよ、ずっと。山茶花兄さんのことが。なのにさ、いつもそういう人が嫌がることを嫌なタイミングで言うところがいつか治るかなと思ってたんだ。でももうダメだ。あたし、山茶花兄さんのこと、もう好きじゃなくなってた。とっくの昔に思い出になってるのに、一方的に振り回されてるだけだったよ」
「楓? ぼくのことなら心配いらないよ? 今度こそ歩けるようになるから」
「山茶花兄さんは現実を見なよ。歩けないんだよ、もう。そりゃ、ロボットみたいなものに手伝ってもらえば立つことくらいはできるだろうけど、それだけだよ? そんなの、山茶花兄さんはその程度で満足しないでしょう? だから、行くんならあたし以外の人を探して。あたしはカブラくんを探すから」
「ぼくより犬を取るのかい?」
楓さんの大きな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「好きなように思ってかまわないし、もう二度とあたしを巻き込まないで。このお店は、あたしの大切なものだから、誰一人としてあなたのわがままの犠牲にしたくはありませんから」
とてもいたたまれない気持ちになって、あたしは店を出た。すぐに楓さんが追ってくる。
「里奈ちゃん、ごめん。カブラくん、どの辺にいる?」
「えっと、公園?」
「わかった。こっちから行こう」
そう言った楓さんは、もう山茶花さんのことを振り切っているように見えた。
だけど本当にそれで良いのかな?
あたしはまだ、胸がどきどきして息が苦しかった。
つづく




