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7ー1

 マカロンちゃんが無事に清羅さんたちと家族になってから数日後、お父さんからだましてごめんとメールが届いた。

 

 あやまるならそういうことをしないで欲しかったと返信したら、以後気をつけますとすぐに返信が届いた。さらに追伸として、自分と顔が似てるせいでブス呼ばわりしてごめんなと書き加えられた。いや、今さらなんですけど。


 こうしてあたしたちは少しさみしくなりつつも、平凡な生活を取り戻しつつあった。


 そう、その人があらわれるまでは。


 その日は風がとても強くて、潮の香りがとても濃い中、かららんとドアベルをならして入りにくそうにドアを支えている人影が見えた。


 車椅子だ、と思ったら咄嗟にドアを支えに行ったら、その男の人はとてもクールで知的な声でありがとう、とささやくように言葉をつむいだ。


「え? 兄さん?」

「山茶花兄さん……」


 出迎えた椿さんと、顔面蒼白な楓さんが対照的だった。


「やぁ、久しぶり。遊びに来たんだけど、いいかなぁ?」


 いいも悪いも、山茶花さんは施設から無断でここに来たのではなかろうか、と椿さんを見るも、また脱走したんだ? とけらけらと笑っていた。


「楓に話があってさ。仕事終わったら話さない?」

「あたしは……。今日いそがしいし」


 え? 楓さん、山茶花さんのことが好きじゃなかったっけ?


 それに今日は比較的店内ががらんとしている。話なら今したっていいはずなのに。


「ちゃんとプロポーズしなかったぼくが悪いと思うんだけど」

「あたしたちのお店でそういう話はつつしんでくれませんか?」


 プロポーズ!?


 だけど、楓さんの表情は少しもうれしそうじゃない。どうしたんだろう?


「うん。でも今、きちんと言っておきたいんだ。明後日にはドイツに行かなきゃならないから」


 ドイツ? それなのに、ここにいるの?


「あたしの返事はごめんなさい。それだけです」

「健常者だった頃のぼくを嫌っているのだろう? だらしなく女性を手当たり次第に口説いたりしていたから。でもそれって、まだ成人してない楓に手を出さないように努力した結果なんだよ。それでもぼくがゆるせない?」

「信じろったって。山茶花兄さんには山茶花兄さんの人生があるように、あたしにはあたしの人生があるだけです」


 特に今は、と楓さんの口調が厳しくなる。


「せっかくサロンが軌道に乗り始めているんです。だから、中途半端に店を放ったりしたくない。それだけ」

「それが本心?」


 本心です、と楓さんはつぶやいた。


「ならいいよ。ドイツに行ったら、ぼくの身体は研究対象となる。漫然と施設にいるより、歩けるようになるかもしれない方をぼくは選ぶ。そしてそんなぼくを楓に支えて欲しいんだ」


 そんな都合のいいこと言ってさ、と楓さんは目尻に涙を浮かべた。

 

 この涙がどんな意味を持つのか、どうして楓さんがプロポーズを断るのか、あたしにはまったくわからなかった。


     つづく

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