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清羅さんは、ひとしきりカブラくんをなでた後、なつかしいなぁと目を細めた。
「犬、飼っていたことがあるんですか?」
「ええ。でも、ステージ四の胃ガンで去年亡くなりました」
……うん?
思うところあって、お父さんを見ればすっとぼけた顔をしている。
「あの、今日はなんの用でここにいらしたんでしょうか?」
お父さん、まさかあたしをだましてないよね!?
「実は、ミュールが亡くなってからペットロスになっちゃいまして。お恥ずかしいのですが、まだ立ち直れていないのです。それで、父がこちらのサロンで相談したらどうかって」
やっぱりだましたなっ!!
「ミュールちゃん。女の子さんだったのですね。どんな子でした? ああ、よろしければお茶お持ちしますので」
椅子を勧めて立ち去り際に、お父さんの足を蹴った。
「痛っ!?」
ざまぁみなさいよ。ペットロスで心が弱っている人を利用して、はずかしくないの!?
「ここではそういうお客さんもいらっしゃいます。よければ話、聞きますよ?」
そうとわかれば楓さんの専門分野。しゃきっと白衣を正して座り直した。
あたしの怒りはおさまらなくて、キッチンで怒鳴りそうになった。
そんなあたしを、よせばいいのにお父さんが追ってきた。
「おい、話が違うじゃないかよ」
「それはこっちの台詞!! お父さんはあたしたちをどうしようっての!?」
「いや、だから。里奈も年頃だし、そろそろな。でもほら、店長男前だし、恋人なんじゃないのか?」
「楓さんは女性です。重ね重ねもろもろな失礼を言うのは辞めてくださいっ」
怒りにまかせてお茶を淹れないように、深呼吸を繰り返す。
「でもほら、そこは今は多様性だろ?」
「あたしをだましておいてなにをのたまうかっ!?」
さすがに我慢できなくなって、分厚い電話帳でお父さんの頭を殴りつけた。
「ほ〜ら、ひよこが頭の上を飛んでるよ」
「うじが湧いてるの間違いなんじゃない?」
まったく。ふざけた父親だよ、本当に。あたしの気持ちはどうすればいいのよっ。
そりゃ、彼氏のひとりもいてもいいかもだけど、まだサロンで寝泊まりさせてもらっている身の上だし? 収入もそこそこだけど、こればっかりはしょうがないじゃないよ。
あ〜、もう腹が立つ!!
つづく




