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「いやぁ、あたし片付けが苦手でさぁ。すんごい散らかってるの。いいかなぁ?」
ばんって力を込めて開けた木のドアが、悲鳴のようなきしみをあげる。
「あらぁ……」
これは、たしかに汚屋敷だぁ。
ついさっきまでの完璧天使な楓さんがぶっ飛んでしまうほど、とっ散らかった部屋だった。
「こっちからこっちがサロンで。こっちが部屋なんだけど。物が散らかっていて入れないんだよね。あははははっ」
……これは重症な片付けられない症候群なのでは?
「あ。じゃああたし、片付けましょうか?」
はしっと、楓さんがあたしの両手を握りしめた。
な、なに?
「ありがとう!! 恩にきるよ。ああ、カブラくんのご飯は、その辺のフードをあげていいよ。あたし、シャワー浴びてくるから、適当に休んでいて」
言うが早いか、楓さんは奥の部屋へとすたすたと歩いて消えてしまった。
「マジか。天使ではなく人間か。って、あたしも楓さんのこと言えないけど。って、カブラくん、ダメ!! それは楓さんちのおもちゃだからっ!!」
とっ散らかってはいるけれど。動物のおもちゃやキャットツリー、それにハムスターのゲージなんかは器用に配置されてはいるし、清潔感があるにはある。
でもなぁ。カブラくんにと思って持ってきたフードをあげようとしたらそっぽを向かれちゃったので、楓さんのやつを分けてもらった。
もしゃもしゃと食べるカブラくんは健康そのもの。
「指輪、出してくれるかな?」
食べたら出る、よね?
あたしが小さい頃に亡くなってしまったお母さん。想い出はそんなにたくさんはないけれど。指輪を見ればお母さんが生きていたことの理由になるから、なんとなく指に付けていたんだけど。ちょっとぶかぶかだったんだよね。
「早く出してね、カブラくん」
ところで楓さん。あたしを住み込みで雇ってくれるって本当かな?
配置換えをしながら掃除をしていると、隅から猫じゃらしが出てきたり、おやつが転がっていたり、ひってなるけど宝探しみたいで面白い。
最初からこういう仕事ならよかったんだけどなぁ。
このあたしに受付嬢とか無理なんだよなぁ。なのに、社長が若い子が好きって理由で、おブスなあたしが受け付けに座らされたわけだけど。
結局、その社長が先日依願退職したことで、あたしもお払い箱になってしまったのだった。
上司曰く、受け付けのなりては山ほどいるらしい。
まったく、世知辛い世の中だよ。
つづく




