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4ー2

 本谷さんが言うには、近所で引きこもりの少年がいるという。


 ならば、と柳くんがその少年をおびき出そうと言ってくれたものの、危険だからと断念。


 そして、その少年がボーガンを持っているという証拠はなにもなかった。


 ただ時折、夜になると公園でひとり、ぼんやりとブランコに腰かけている少年を見たことがある、というただそれだけ。


 それでも、引きこもりというワードには悪い印象しか持てない。


 そして。


「ごめん、本谷さん。傷が脳まで貫いてた」


 もう一度ごめん、とあやまる楓さんに、本谷さんがわっと泣き出した。


「でもね、ちゃんと綺麗にしたよ。頑張ったよ、ルビーちゃんは」


 白いスタイを首に巻いたルビーちゃんが、純白の箱に入れられた状態で本谷さんの手に戻ってゆく。


「警察に話すのをお勧めします」


 そう、動物を殺してもただの器物損壊だと言われる。命を奪っておいて、器物損壊? そんなのはおかしい。


 だけど、それを言い出したらきりがないことも承知している。


 わかっていることから順番にやっていかなければ、捕まるかもしれない犯人を野放しにすることにつながる。


 本谷さんは、楓さんの協力を得て、警察に被害届を出した。


 そのかなしい別れから三日後。本谷さんのうちのすぐ近所に住んでいた高齢女性がボーガンを持っていると通報があり、捕まった。


 警察が事情を聞くと、自分が猫を狙ったと白状した。


 しかし……。


 ボーガンはもらいものだと言った。


 公園で子どもの声がしてうるさいと話したら、威嚇すればいい、とくれたのだという。


 ところがその問題のボーガンを渡した人とは特に面識がなく、名前すら思い出せないという。


 女性はその後、難治性の認知症と診断されて、刑務所に送られた。


 本谷さんは裁判を望んだけれど、女性の容体は日に日に悪くなり、そして刑を認めたものの、あっけなく死亡してしまった。


 季節は秋から冬になろうとしていた。


 この事件を機に、浜風ペットサロン&獣医は特に顧客が増えるということもなく、相変わらずの自転車操業をつづけていた。


 時に柳くんは、それから敬語を積極的に使うようになり、将来は獣医になりたいという目標を持つようになった。


 そして、暴れん坊だったカブラくんは、マカロンちゃんという先輩のおかげで少しずつ遊び方や生活態度を変えていった。


 先輩に勝るものなしだな、と思ったのもつかの間。


「本谷さんちのメロンパン買ってきたよ」


 お昼休みに出かけていた楓さんが帰ってくるなり、おいしそうな匂いが漂った。メロンパンは、本谷さんちで一番の売れ筋なんだとか。


 よろこんでわちゃわちゃしていると、ドアベルが鳴った。


「こちらに立花 椿さんはお勤めでしょうか?」


 スーツをビシッと着こなした見知らぬ男性が、落ち着いた調子で入店してきた。


 椿さんがお休みをしているまさにその日だった。


     つづく

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