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4ー1

 パン屋のおばさんこと本谷さんは、現代ではどこかなつかしさを感じるような灰色のシャム猫を抱えてサロンに入って来た。


 愛らしい灰色の毛皮には、赤黒い血が生々しくこびりついている。


 この猫さんの右目を、ボーガンが貫いていた。


「たすけて欲しいの。あたし、ルビーがいなかったら生きていられないっ」

「できるだけのことはする。でも、期待しすぎないで」


 口ばやにそう言うと、楓さんと椿さんは完成したばかりの処置室にぐったりしたルビーちゃんを連れて入って行った。


 あたしは、本谷さんやいさおおじさん、それに柳くんの分のお茶を淹れて、お菓子を添えた。


 だけどみんな、それどころじゃない。ルビーちゃんがたすからなかったら嫌だ、とルビーちゃんのことも本谷さんのことも知らなくても心配してしまう。


「あたしが悪いんです。いつも窓を開け放しているから。潮風が気持ちいいから」


 そう言うと、本谷さんは声を上げて泣きじゃくった。


「ルビーは人懐こい子だから、人から恨まれるようなことはしないし、きちんとしつけてあるのに。窓際にいるところを狙われたんです」


 ボーガン問題は、近年では少しばかりすたれてきたけど、それでも安価なことから野鳥や猫さんたちが標的にされることがしばしばある。


 なお、現在ではボーガンの所持は禁止されているとのこと。じゃあ、法律改善前に持っていた人はどうなるんだろう?


 人が殺されるような事件もあったし、本当にすごく残酷なことなのに、犯人は名乗り出ないどころかどこかでのうのうと生きていると思うと、胸がむかつく。


「よりによって、目を狙うなんてっ」


 あまりの残虐さにおもわず目を背けてしまったけれど、そうか、目を狙われてしまったとは。脳にも直結しているだけに、どうなるのかまったくわからない。


「あの子よ、あの子。近所に引きこもりがいるのよ。その子に違いないわ」

「お気持ちは分かりますが本谷さん、証拠がないと」


 いさおおじさんは本谷さんをいさめたけれど、本谷さんは一点を見つめたまま微動だにしない。


「犯人がわかってるのなら、ぼくが誘い出してみましょうか?」


 思いがけず柳くんが身を乗り出した。


「あ、ぼくやなぎと書いてりゅうと読みます。楓の弟です。その、引きこもりの人って、男でしょう?」

「そうなの。いつも青白い顔してるの。気持ちはうれしいけど、あなたのような子をおとりに使いたくないわ。なにをされるかわからないもの」


 そうなると自然と警察の範疇になってしまう。


 だけど、証拠がない。


 本谷さんのうちは一階がパン屋さん、二階に住居をかまえている。


 その二階で、家猫のルビーちゃんがのびのびと遊んでいるのだけれど、時折店に降りてきて、お客さんになでられたりするという。


 もし、そのお客さんの中に犯人がいたとしたら、と思うと背中が泡立つのだった。


     つづく

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