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そんなわけで、大量のダンボールを開けてゆく作業に取りかかり始めた。
とは言うものの、あたしは獣医さんには一度行ったきりだし、柳くんはまだお子様だしで、専門知識がないため、配置は椿さんに任せてしまった。
なるほど、これがここに来て、あれがそうなるのか。うん、たしかに獣医さんっぽい。
これまではサロン中心だったけど、これなら無駄がない。
さすがは椿さん、獣医師さんだけあるな。
……あれ? でも、ここまでお酒を飲んでいないのでは?
「酒断ちしたの。シロが死んだんだから、わたしだってそのくらいするわよ。それにもうお酒に頼る人生はおしまい。彼とも別れて、あたらしい自分を構築するの」
なんか、かっこいいな。やっていることは破天荒なのに、どこか楓さんと通じるかっこよさがある。
あたしも彼女たちのように心の中から美しくなりたい。そうしたら自分の顔がブスだってことも気にしなくてすむかもしれないし。
「里奈ちゃんはパソコンが得意なんだっけ? 経理の勉強したことがある?」
「はい。独学ですけど、なんとか」
「なら、ホームページや会計は里奈ちゃんにお任せしちゃおう。ちなみにわたしは高級茶葉や豆の焙煎を任せてほしい。んで? 柳はなにやる?」
ふいに呼び捨てにされた柳くんが、驚いて口を開けた。
「かっこいいお姉様たちのようになりたいんでしょ? 顔にそう書いてあるもん」
「ぼくは、まだ子供だし」
「よし。ヤラセ要員確保。これからは楓の弟兼お客様として振る舞うように。間違ってもオバサンとかタメ口とかはしないようにっ」
あはははは。椿さん、まだそこにこだんっていたんだ。可愛い。
「ねぇ、シロの最後、どうだったの?」
静かになったところで、おもむろに柳くんが椿さんに聞いた。
「持病のない子だったから、眠ってるみたいに逝ったんだって。苦しまなかったそうだから、それだけが救いだったって」
苦しまなかった、と椿さんが言った途端に、柳くんの両目から涙があふれた。
「ぼくっ、シロになにもしてあげられなかったっ」
「違うよ」
いつの間にか二階から降りていた楓さんが柳くんに言った。
「シロは柳に生きろと教えてくれたでしょう? 命のあたたかさを教えてくれた。お別れの寂しさも教えてくれたんだから、最後にお礼を言わなくちゃ、ね?」
そう言った楓さんも泣いている。
「うん、ありがとうシロ。大好きだよ」
そうして、美しい姉と弟は抱きしめ合って泣いた。
つづく




