3ー1
男なんて信じちゃダメよ里奈ちゃん、と椿さんにどやされたものの、頂き物の紅茶の薫りに癒される。
「この紅茶、すごく高いやつですよね?」
あたしが問うと、椿さんは、ああ、と簡単に返事をくれる。
「元カレがプレゼントしてくれた物だからね。一応はお高いものなんだろうな」
「そんなことより椿姉さん」
楓さんはタンスの間に挟まれて、微妙な角度になりながら椿さんに語りかける。
「なに?」
「このタンス、なんでわざわざあたしの場所に置くかなあ?」
「だって、楓の顔見てると整いすぎててムカつくんだもん」
「いや、そういうことじゃなくてですよ?」
「片付け上手の里奈ちゃんに手伝ってもらって、一部屋開けてくれたらそこに入るよね?」
もはやなにも言えない楓さんなのだ。
「あの。あたし、片付け手伝いますから」
「いいよ、ここで」
やけに強い語尾に驚いてしまう。
「あの部屋は、あのままにしておいて。椿姉さんも、荷物このままでいいから。じゃ、あたしマカロンちゃんとカブラくんのお散歩に行ってくるから」
「え?」
あたしは? 置いていかれるさみしさから立ち上がると、椿さんにすぐ座り直される。
「里奈ちゃんはここに居な」
でも、とやたら乾いた口の中で返事をしたけど、声になったかまではわからない。
「みんなひとりになりたい時ぐらいあるさ」
たしかに、そうだけど。
本当に、どうしたんだろう?
そうして楓さんは、めずらしく無言でカブラくんたちを連れて出て行ってしまった。
「……ブラコンだったんだよ、楓は」
しばらくして椿さんが、とつとつと話し始めた。
「楓より十歳年下の弟でさ。シロって名前の猫を飼ってたんだ」
昔はノミやマダニの駆除なんてそんなに進んでなかったからさ、と言われて背筋がひやりと寒くなる。
「柳くんがマダニに噛まれていたことにも気づかなくて、原因不明の病っことになっちゃってさ。結局、マダニだってわかった時には柳くんは元気になったけど、ご両親が怒っちゃってさ。シロは保健所に引き渡されちゃったんだよね」
そんな……。
「楓、よく自分勝手だって口癖みたいに言うけど、それって結局、自分に言ってるんだよね。それを期に両親は離婚。楓だけが海の家に近いこの場所にとどまったわけだけど。レストランだったんだよ」
海のそばといえばラーメン屋さんというイメージがあるけど、少しちがうみたい。
つづく




