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「はい、もしもし? 歌子さん、大丈夫だった?」
楓さんは、スピーカーホンにして、あたしにも話を聞かせてくれる。
『いつもより酷い発作だったけど、もう落ち着いたわ。それより浜風さん』
「楓でいいですよ、歌子さん」
『じゃあ、楓さん。もうひとつお願いがあるんだけど、たのんでもかまわないかしら?』
歌子さんの声に耳をそばだてているマカロンちゃんが、不安そうに首を傾げた。
楓さんは咄嗟にスピーカーホンから切り替えた。
「……はい。なんとなくそんな予感はしていましたが。いいえ、とんでもないです。なんならうちで引き取りますけど。はい。とてもおとなしくてやさしい子ですので心配しないでください。そのうち遊びに来てください。はい、失礼します」
電話を切った楓さんは、泣きそうな顔をしている。
「あのね、マカロンちゃん」
そう言うと、楓さんはマカロンちゃんの視界までしゃがんで話しかける。
「歌子さんは大丈夫だったんだけど、しばらく入院しなくちゃいけなくなったんだって。それでね、それで……」
ぽろぽろと楓さんのアーモンド型の瞳から宝石のような涙がこぼれ落ちた。
「はぁ。うん。あたしの心配しなくていいよ。やさしいね、マカロンちゃんは。それでね、マカロンちゃんの里親を探して欲しいんだって。歌子さんはもう、病院から出られないかもしれないからって」
衝撃の真実に、あたしの体がぶるりと震えた。
「それで、よかったらきみ、うちの子にならない? あたし、子供の頃から大きなワンちゃんと生活するのが夢だったんだ。だから、ね?」
その時。マカロンちゃんはさみしげにひと声くぅ〜んと鳴いて、それから大きな目から涙がこぼれた。
わかるんだ。マカロンちゃんは、歌子さんとお別れすることがわかっているんだ。
「ごめんね、あたしなんにもできなくて。でもさぁ、ここならきっと、さみしくないよ? カブラくんのお姉さんになってあげてよ? ね?」
楓さんは、マカロンちゃんの体に顔を埋めてしばらく泣いた。マカロンちゃんも、ぽろぽろと泣いている。
あたしは、鼻をすすって泣かないように我慢したけど、結局涙がこぼれてしまった。
お互い、生きているのに会えない。そんなことってあるんだね?
だけど歌子さんはどうしてマカロンちゃんの保護者になろうと思ったのかな?
持病があるならせめて小型犬にしておいたら、心臓の負担も違っていただろうに。そんなどうしょうもないことが頭をかすめるのだった。
つづく




